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ソフィアの熱は丸二日間寝込んで回復した。それを待ち構えていたのか、熱が下がった途端にシャーロットがソフィアを自分の家に連れて行くと宣言した。
「なぜ、ここじゃダメなんだ」
ヴィンセントは寝耳に水でシャーロットの顔をまじまじと見つめていた。朝、挨拶に寄った際、ソフィアはそんなこと、一言も口にしなかった。
「恋人の元に通う夫の近くには居たくはないでしょう?」
確かに、前日恋人のクリスティンに呼ばれてクリスティンの家へと赴いた。急用だということなので行ったのだが、クリスティンから言われたのは旅行に行くというだけのことだった。わざわざ呼び出して伝えるほどのことかと内心呆れて帰ってきた。
「用事があるって言われて呼び出されただけさ」
どうでもいいと肩を竦めたシャーロットが「お好きなように。私はソフィアともっと仲良くなりたいの。だから我が家でゆっくり静養してもらうわ」と言い渡すと、部屋を出ていこうとした。
「ソフィアの気持ちは確認したのか?」
シャーロットは振り返りもせず「当たり前よ。ソフィアはすぐにでも移動したいって」と答えながら出ていった。
やっと元気になって罪滅ぼしが出来るようになると思っていたヴィンセントはやり場のない感情を無理矢理押し殺そうとしていると、再びシャーロットがひょっこりとドアから顔だけ出した。
「あ、悪いけどルードリアにあるあの家に行ってソフィアの侍女夫婦を連れてきてちょうだい。名前はキャサリンよ。夫の方はベンジャミン。キャサリンはご存知の通り妊婦だから細心の注意を払ってあげなさいよ」
「知ってるさ。だがなぜ、私が行かなきゃならない。自分の使用人を使えばいいだろう」
「いいえ、あなた自身が行くべきだと言っているの。ソフィアの使用人なら、あなたの使用人でもあるのよ。なんせ、誰がなんと言おうとあなた達は結婚した夫婦なんですもの。ソフィアの使用人たちにも苦労をかけたのだから自らの足で行って謝るのが筋。ほんと、なんであんな家に住まわせたのか理解に苦しむわ」
シャーロットの物言いはいつでもストレートだ。それは姉と弟という関係だからだと思われるが、どちらかと言うと長兄が優しく全てを包み込むような人間なので、シャーロットは昔から言いたい放題なところがあったからだ。
「そんなことを言われても、私はあんな家に住まわせるつもりなどなかったからな。マスタスに行っていると思っていた」
バルカギア王国第二の都市マスタスにある邸宅ならば設備も整っているし、調度品なども豪華だ。
「じゃあ、なんでソフィアたちはルードリアに居たのよ」
シャーロットはこのことでずっとヴィンセントを責めるが、それはお門違いだ。ルードリアのあばら屋へ行けなどと言ったことは一度もない。本当に知らなかったのだ。それを言うと、放っておくのが悪いと始まるから反論したい気持ちを抑え込む。確かに様子を確認しなかったのはヴィンセントの落ち度だった。
「わからない。調べてみるさ」
シャーロットは口をへの字にしたが「そうしてちょうだい。これまで仕事しか頭になかったけれど今は仮初でも妻がいるのを忘れないで。納得いく理由を聞くまでソフィアは私のところでお世話するから」と言うと、今度こそ去っていった。
残されたヴィンセントは腕を組んで窓の外を眺めた。雪がちらつき始めている。雪が積もらなければ明日の朝早くに出発し、ソフィアの侍女夫婦を迎えに行こうと決めた。
誰かがソフィア一行にルードリアへ行けと言ったのは確かだ。それと、支払われていたはずの生活費は行方知れずになっているらしい。
(使用人といえども、紹介状がないものは雇わないのに……金をかすめているやつがいるってことだな。ソフィアたちが嘘をついていないなら、敵は我が家にいるということになる)
ほとんど知らないソフィアたちを疑うのは簡単だ。しかし、生活状況を実際に見た以上、ソフィアたちが演技しているようには思えなくなっていた。寒すぎる室内、質素なドレス、物寂しい部屋。それから医師に注意されるほど栄養のとれていない体。慌てて酷い暮らしぶりに見せようとしてもあれほどにはならないだろう。熱を出したソフィアの部屋が凍えるほど寒かったのは忘れられないことだった。
(ドレスもあの調子なら借り物か? シャーロットと背格好が近いし、そうなのだろうな。そうなると……ソフィアに怒鳴ったりしたのは最悪の行為だった)
思い返すと結婚式当日から、ヴィンセントの行動は最悪だったと言える。花嫁の顔など見る必要もないとベールすら上げなかった。あの日、ベールを上げてソフィアの汚れのない瞳で微笑まれていたら、今とは状況が違っていたかもしれないなどと、都合のいいことを考えては過去には戻れないもどかしさを覚えていた。
(結婚式の日に戻ってやり直せたとして、何か状況がかわるのか? ソフィアには想い人がいるのに)
青い目を持つソフィアの想い人がいようがいまいがなんら関係ないのに、ヴィンセントはそこがなぜか気になって仕方がなかった。
「なぜ、ここじゃダメなんだ」
ヴィンセントは寝耳に水でシャーロットの顔をまじまじと見つめていた。朝、挨拶に寄った際、ソフィアはそんなこと、一言も口にしなかった。
「恋人の元に通う夫の近くには居たくはないでしょう?」
確かに、前日恋人のクリスティンに呼ばれてクリスティンの家へと赴いた。急用だということなので行ったのだが、クリスティンから言われたのは旅行に行くというだけのことだった。わざわざ呼び出して伝えるほどのことかと内心呆れて帰ってきた。
「用事があるって言われて呼び出されただけさ」
どうでもいいと肩を竦めたシャーロットが「お好きなように。私はソフィアともっと仲良くなりたいの。だから我が家でゆっくり静養してもらうわ」と言い渡すと、部屋を出ていこうとした。
「ソフィアの気持ちは確認したのか?」
シャーロットは振り返りもせず「当たり前よ。ソフィアはすぐにでも移動したいって」と答えながら出ていった。
やっと元気になって罪滅ぼしが出来るようになると思っていたヴィンセントはやり場のない感情を無理矢理押し殺そうとしていると、再びシャーロットがひょっこりとドアから顔だけ出した。
「あ、悪いけどルードリアにあるあの家に行ってソフィアの侍女夫婦を連れてきてちょうだい。名前はキャサリンよ。夫の方はベンジャミン。キャサリンはご存知の通り妊婦だから細心の注意を払ってあげなさいよ」
「知ってるさ。だがなぜ、私が行かなきゃならない。自分の使用人を使えばいいだろう」
「いいえ、あなた自身が行くべきだと言っているの。ソフィアの使用人なら、あなたの使用人でもあるのよ。なんせ、誰がなんと言おうとあなた達は結婚した夫婦なんですもの。ソフィアの使用人たちにも苦労をかけたのだから自らの足で行って謝るのが筋。ほんと、なんであんな家に住まわせたのか理解に苦しむわ」
シャーロットの物言いはいつでもストレートだ。それは姉と弟という関係だからだと思われるが、どちらかと言うと長兄が優しく全てを包み込むような人間なので、シャーロットは昔から言いたい放題なところがあったからだ。
「そんなことを言われても、私はあんな家に住まわせるつもりなどなかったからな。マスタスに行っていると思っていた」
バルカギア王国第二の都市マスタスにある邸宅ならば設備も整っているし、調度品なども豪華だ。
「じゃあ、なんでソフィアたちはルードリアに居たのよ」
シャーロットはこのことでずっとヴィンセントを責めるが、それはお門違いだ。ルードリアのあばら屋へ行けなどと言ったことは一度もない。本当に知らなかったのだ。それを言うと、放っておくのが悪いと始まるから反論したい気持ちを抑え込む。確かに様子を確認しなかったのはヴィンセントの落ち度だった。
「わからない。調べてみるさ」
シャーロットは口をへの字にしたが「そうしてちょうだい。これまで仕事しか頭になかったけれど今は仮初でも妻がいるのを忘れないで。納得いく理由を聞くまでソフィアは私のところでお世話するから」と言うと、今度こそ去っていった。
残されたヴィンセントは腕を組んで窓の外を眺めた。雪がちらつき始めている。雪が積もらなければ明日の朝早くに出発し、ソフィアの侍女夫婦を迎えに行こうと決めた。
誰かがソフィア一行にルードリアへ行けと言ったのは確かだ。それと、支払われていたはずの生活費は行方知れずになっているらしい。
(使用人といえども、紹介状がないものは雇わないのに……金をかすめているやつがいるってことだな。ソフィアたちが嘘をついていないなら、敵は我が家にいるということになる)
ほとんど知らないソフィアたちを疑うのは簡単だ。しかし、生活状況を実際に見た以上、ソフィアたちが演技しているようには思えなくなっていた。寒すぎる室内、質素なドレス、物寂しい部屋。それから医師に注意されるほど栄養のとれていない体。慌てて酷い暮らしぶりに見せようとしてもあれほどにはならないだろう。熱を出したソフィアの部屋が凍えるほど寒かったのは忘れられないことだった。
(ドレスもあの調子なら借り物か? シャーロットと背格好が近いし、そうなのだろうな。そうなると……ソフィアに怒鳴ったりしたのは最悪の行為だった)
思い返すと結婚式当日から、ヴィンセントの行動は最悪だったと言える。花嫁の顔など見る必要もないとベールすら上げなかった。あの日、ベールを上げてソフィアの汚れのない瞳で微笑まれていたら、今とは状況が違っていたかもしれないなどと、都合のいいことを考えては過去には戻れないもどかしさを覚えていた。
(結婚式の日に戻ってやり直せたとして、何か状況がかわるのか? ソフィアには想い人がいるのに)
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