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もう一人の男
もう一人の男2
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目の前で繰り広げられる感動の再会にヴィンセントが一番驚いていた。ソフィアがうわ言で呟いていた相手がまさか自分の兄だったらしい。そう言われれば兄は青い瞳をしている。
(まさかソフィアの想い人がレスリーだったなんて……)
デフォー家で働くグレゴリーの存在を知った時の数倍は大きな衝撃だった。レスリーのことはよく知っているからこそ激しくショックを受けていた。
レスリーはヴィンセントにはないものを多く持っている。その最たるものが人当たりの良さだ。誰彼構わず魅了するその性格はヴィンセントの憧れでもあった。
ソフィアもまた驚きから口が開いていた。レスリーはヴィンセントの角を悉く取り去ったような丸さ。仕草も柔らかく、笑みも春の日の日差しのようだった。ヴィンセントは夏の日の強い日差しに似た強さがある。背格好も口調すら似た二人だが、実際はまるで違っていた。
レスリーの手がソフィアの唇を撫でて離れていく。
「レスリー、ソフィアは今言葉が出ないの。話をしたいなら家に入りましょう。筆談できるわ」
シャーロットが助言すると、レスリーがすぐにソフィアの手を取った。
「そうなのか。じゃあ、入ろう。って、君がソフィアか。ヴィンセントと契約婚した女性だね」
たまらずヴィンセントが「そうだ、私の妻だぞ。手を離せ」とレスリーに言うが、レスリーはニコニコしたまま手を離そうとしなかった。
「よく言うよ。押し付けられたと言っただろ? その舌の根も乾かぬうちに」
これは見事な返り討ちだった。気まずさから言葉に詰まっていると、鼻歌でも歌い出しそうなレスリーがソフィアを連れて屋敷へとグイグイ進んでいってしまった。
「あの調子なら、端からレスリーが結婚していたら良かったのにな。かなり気に入ったようだったし」
隣に来たダニエルの軽口にさらに頭がクラリとした。ソフィアに弁解出来なかった上に連れて行かれてしまった。
ソフィアも手を引かれながら先ほどの言葉に動揺していた。
(押し付けられた……そうよね。優しくなったからといって事実は変わらないのだから)
「お! 家の中がお菓子の家みたいだな。知っているかい? 昔話のお菓子の家。屋根も壁もお菓子で出来てるって話」
半歩先を進む陽気なレスリーにソフィアはまだ手を掴まれていた。兄弟だから後ろ姿まで似ているが、振り返って笑いかけてくれるレスリーの瞳はグリーンではなくブルーだ。ソフィアはこの手を引いてくれている人物がグリーンアイではないことに寂しさを覚えていた。強引でもいいから、手を繋いで欲しい相手はグリーンの瞳をしたヴィンセントだ。
応接室に着くと、レスリーはやっとソフィアの手を離し、紙やインクを取ってくれた。ほんの少し間を開けてシャーロットが応接室へと追いかけてきた。
「せっかく陽気がいいから、テラスでお茶にしようってことになったのよ。少ししたらテラスへ来てね」
言い終えたシャーロットが、ソフィアの前にやってきて思い切りソフィアを抱きしめた。
「話が途中になってしまったけれど、キャサリン夫婦をうちで働かせることには反対よ。一緒に居るべきだわ。ソフィアを一人にするなんて私には耐えられないの。頼ってくれたのは嬉しいけれど……それなら違う形で頼ってちょうだい。侍女夫婦の賃金の肩代わりなら喜んでさせていただくから」
実はキャサリンが少し席を外していた隙に、ソフィアは予定通りシャーロットにキャサリン夫婦を雇って欲しいと申し出ていた。その話を煮詰める前にキャサリンが戻ってきてしまい、今シャーロットが答えたということだった。
レスリーが持ってきた紙にソフィアは羽ペンを走らせる。少しインクをつけ過ぎて滲んでしまったが、もう一度シャーロットに懇願した。
『それはいけません。私は甘やかされすぎています。人を雇うお金がないなら、身の回りのことは自分自身ですべきなのです。お願いします。ここでならキャサリンたちはきっと幸せに働けます』
文字を目で追っていたレスリーが「ソフィアが一人になる? それより、ヴィンセントは侍女たちに賃金を出さないのか?」と不思議がった。
「それが、ソフィアはヴィンセントとの契約を終えて結婚生活が終わったら、一人で生きていきたいと言うのよ。自分自身で生計を立てたいけれど、そうすると侍女夫婦を雇っていられないからうちに侍女を雇って欲しいって」
説明が終わるあたりで遠くからダニエルの声が聞こえてきた。どうやらシャーロットを探しているようようだ。
「ああ、行かなきゃ。とにかくまた話しましょう。先にテラスに行っているわね」
シャーロットがドレスを翻し、応接室を出ていった。レスリーが顎を擦り「思い出話をしている雰囲気ではなくなったな」と呟いた。
(まさかソフィアの想い人がレスリーだったなんて……)
デフォー家で働くグレゴリーの存在を知った時の数倍は大きな衝撃だった。レスリーのことはよく知っているからこそ激しくショックを受けていた。
レスリーはヴィンセントにはないものを多く持っている。その最たるものが人当たりの良さだ。誰彼構わず魅了するその性格はヴィンセントの憧れでもあった。
ソフィアもまた驚きから口が開いていた。レスリーはヴィンセントの角を悉く取り去ったような丸さ。仕草も柔らかく、笑みも春の日の日差しのようだった。ヴィンセントは夏の日の強い日差しに似た強さがある。背格好も口調すら似た二人だが、実際はまるで違っていた。
レスリーの手がソフィアの唇を撫でて離れていく。
「レスリー、ソフィアは今言葉が出ないの。話をしたいなら家に入りましょう。筆談できるわ」
シャーロットが助言すると、レスリーがすぐにソフィアの手を取った。
「そうなのか。じゃあ、入ろう。って、君がソフィアか。ヴィンセントと契約婚した女性だね」
たまらずヴィンセントが「そうだ、私の妻だぞ。手を離せ」とレスリーに言うが、レスリーはニコニコしたまま手を離そうとしなかった。
「よく言うよ。押し付けられたと言っただろ? その舌の根も乾かぬうちに」
これは見事な返り討ちだった。気まずさから言葉に詰まっていると、鼻歌でも歌い出しそうなレスリーがソフィアを連れて屋敷へとグイグイ進んでいってしまった。
「あの調子なら、端からレスリーが結婚していたら良かったのにな。かなり気に入ったようだったし」
隣に来たダニエルの軽口にさらに頭がクラリとした。ソフィアに弁解出来なかった上に連れて行かれてしまった。
ソフィアも手を引かれながら先ほどの言葉に動揺していた。
(押し付けられた……そうよね。優しくなったからといって事実は変わらないのだから)
「お! 家の中がお菓子の家みたいだな。知っているかい? 昔話のお菓子の家。屋根も壁もお菓子で出来てるって話」
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応接室に着くと、レスリーはやっとソフィアの手を離し、紙やインクを取ってくれた。ほんの少し間を開けてシャーロットが応接室へと追いかけてきた。
「せっかく陽気がいいから、テラスでお茶にしようってことになったのよ。少ししたらテラスへ来てね」
言い終えたシャーロットが、ソフィアの前にやってきて思い切りソフィアを抱きしめた。
「話が途中になってしまったけれど、キャサリン夫婦をうちで働かせることには反対よ。一緒に居るべきだわ。ソフィアを一人にするなんて私には耐えられないの。頼ってくれたのは嬉しいけれど……それなら違う形で頼ってちょうだい。侍女夫婦の賃金の肩代わりなら喜んでさせていただくから」
実はキャサリンが少し席を外していた隙に、ソフィアは予定通りシャーロットにキャサリン夫婦を雇って欲しいと申し出ていた。その話を煮詰める前にキャサリンが戻ってきてしまい、今シャーロットが答えたということだった。
レスリーが持ってきた紙にソフィアは羽ペンを走らせる。少しインクをつけ過ぎて滲んでしまったが、もう一度シャーロットに懇願した。
『それはいけません。私は甘やかされすぎています。人を雇うお金がないなら、身の回りのことは自分自身ですべきなのです。お願いします。ここでならキャサリンたちはきっと幸せに働けます』
文字を目で追っていたレスリーが「ソフィアが一人になる? それより、ヴィンセントは侍女たちに賃金を出さないのか?」と不思議がった。
「それが、ソフィアはヴィンセントとの契約を終えて結婚生活が終わったら、一人で生きていきたいと言うのよ。自分自身で生計を立てたいけれど、そうすると侍女夫婦を雇っていられないからうちに侍女を雇って欲しいって」
説明が終わるあたりで遠くからダニエルの声が聞こえてきた。どうやらシャーロットを探しているようようだ。
「ああ、行かなきゃ。とにかくまた話しましょう。先にテラスに行っているわね」
シャーロットがドレスを翻し、応接室を出ていった。レスリーが顎を擦り「思い出話をしている雰囲気ではなくなったな」と呟いた。
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