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もう一人の男
もう一人の男1
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手元に戻ったネックレスを馬車の窓から差し込む光に翳してみていた。やはりソフィアの目そのもので取り戻せたことに満足していた。
(しかし、どう渡せばいい? まどろっこしい話はなしにして、何故かクリスティンの元にネックレスがあったから取り戻してきたというのが正解か)
ソフィアは想い人に会い、ネックレスを外したのかもしれないが、それを無闇に売るようなことはないとヴィンセントは踏んだ。前回贈ったネックレスを質屋に入れたことを正直に告白し、今回のルチルクォーツのネックレスは大事にすると断言していた。
(失くしたのか? なんにせよ、ソフィアを問い詰めることも責めることもしたくない)
ネックレスをズボンのポケットにしまい込むと、上から押さえて景色を眺めた。
(ただ、あの時のような喜ぶ顔を見たいだけ)
ルチルクォーツのネックレスを見て、目を輝かせるソフィアの顔が鮮明に思い出される。喜ぶ姿がこれほどまで相手を喜ばせるなんてヴィンセントは知らなかった。
シャーロット邸に到着すると、玄関前に馬車が停まっており、その横で男二人が談笑していた。片方はシャーロットの夫ダニエルでもう一人はヴィンセントとそっくりだといわれる兄のレスリーだった。
馬車が速度を落として停まると、ヴィンセントは二人の元へとおりていった。
「やぁ、ヴィンセント。シャーロットから来ることは聞いていたよ」
先にダニエルがヴィンセントに挨拶し、その後レスリーがポケットに手を突っ込んだまま「甘い匂いがしているから、そろそろヴィンセントが来る頃だと思ったよ。小さい頃から甘いものに目がないから引き寄せられて来るだろうと思ってさ」と笑いかけてきた。
その話の延長でダニエルが最近話題になっているカカオの話を持ち出してきて、三人でもっとカカオ豆を輸入出来ないかという話で花を咲かせていた。
「そろそろ中に入らないか?」
立ち話をしなくても目と鼻の先に快適な家があることをダニエルが思い出させて、レスリーがそうだなとダニエルの肩を叩きながら同意した。三人は歩き出しながら話題を変えた。
「しかしヴィンセント。なぜ、首都の家に住まずにマスタスに移ったんだ? シュリアの家がもぬけの殻では良くないからお前が嫁をとって入れと父が言ってくるのだが」
父は静養も兼ねて田舎に引っ込んでいるが、家長であることには変わりなく、ちょこちょこ指示を出してくる。ソフィアとの結婚も父親であるテリー・バトラーが強引に押し進めたものだった。ヴィンセントは他の兄姉とは違い、父の愛情を受けずに育った為、いつもどこか父の期待に応えなければと考えてしまう癖があった。母が存命なら兄や姉のように、のんびりとした性格になっていたかもしれないが、その母はヴィンセント出産時に命を落としていた。
「元はレスリーが逃げ回るからこちらにお鉢が回って来たんだ。今度こそ、観念して嫁を貰って落ち着けばいいじゃないか」
ヴィンセントの苦言にレスリーは青い目を可笑しそうに細めて「何言ってるんだ。お前がどうせ恋人とはちゃんとした夫婦にはなれないから変わりに偽装結婚すると受け入れたのだろ。私は愛せない嫁など煩わしいだけだし嫌だからありえない」と反論する。
「家族間の取り決めで結婚しても相手を愛することはできますよ」
かつてシャーロットを嫁にしろと言われて結婚したダニエルが口を挟んだ。しかしこれは元々シャーロットがダニエルを気に入って父に仲介してもらったというだけで、互いに知り合いで好意を持っていたのだから少し話は違ってくる。
「まぁ、愛せる女性ならありだけどね。ヴィンセントみたいに毛嫌いしている相手など、私はごめんだよ」
これにダニエルが「私は好きですよ、ソフィアは良い子だ」と、言うからヴィンセント一人悪者みたいになった。それに今はヴィンセントだってソフィアに好意を寄せているのだから反論しようとして口を開きかけたところに玄関の扉が開いた。
「馬車が着いたのは知っていたのだけど、一向に入ってこないからこちらから来ちゃったわ」
シャーロットが出てきて開口一番文句を言うと、微笑んで夫のダニエルにキスをする。
「ダン、私もクッキーを焼けたのよ。食べてみて!」
シャーロットの後にソフィアと、手にトレー持ちクッキーを運んできたキャサリンが続いていた。
シャーロットとダニエルの仲睦まじい様子に一同視線を向けていたが、レスリーだけがソフィアを真っ直ぐ見つめていた。
「あれ……? 君は──」
レスリーはソフィアへと歩みを進めていく。近寄られたソフィアは戸惑いなからもヴィンセントに似た整った顔立ちを正面から捉えていた。
「ああ、そうだよ! 君、唇を怪我したことがあったろ?」
ソフィアは時が遡り、小さい頃の自分になったような感覚に陥っていた。あのブルーの瞳、夢に何度もみた目があの日と同じようにソフィアを見ている。
ソフィアは自らの唇を撫でた。それからしっかりと頷いた。
破顔したレスリーが「やっぱり! あの時も可愛い子だったけど、変わらないな。傷はすっかり消えたのかい?」とソフィアの唇に手を伸ばしたのだった。
(しかし、どう渡せばいい? まどろっこしい話はなしにして、何故かクリスティンの元にネックレスがあったから取り戻してきたというのが正解か)
ソフィアは想い人に会い、ネックレスを外したのかもしれないが、それを無闇に売るようなことはないとヴィンセントは踏んだ。前回贈ったネックレスを質屋に入れたことを正直に告白し、今回のルチルクォーツのネックレスは大事にすると断言していた。
(失くしたのか? なんにせよ、ソフィアを問い詰めることも責めることもしたくない)
ネックレスをズボンのポケットにしまい込むと、上から押さえて景色を眺めた。
(ただ、あの時のような喜ぶ顔を見たいだけ)
ルチルクォーツのネックレスを見て、目を輝かせるソフィアの顔が鮮明に思い出される。喜ぶ姿がこれほどまで相手を喜ばせるなんてヴィンセントは知らなかった。
シャーロット邸に到着すると、玄関前に馬車が停まっており、その横で男二人が談笑していた。片方はシャーロットの夫ダニエルでもう一人はヴィンセントとそっくりだといわれる兄のレスリーだった。
馬車が速度を落として停まると、ヴィンセントは二人の元へとおりていった。
「やぁ、ヴィンセント。シャーロットから来ることは聞いていたよ」
先にダニエルがヴィンセントに挨拶し、その後レスリーがポケットに手を突っ込んだまま「甘い匂いがしているから、そろそろヴィンセントが来る頃だと思ったよ。小さい頃から甘いものに目がないから引き寄せられて来るだろうと思ってさ」と笑いかけてきた。
その話の延長でダニエルが最近話題になっているカカオの話を持ち出してきて、三人でもっとカカオ豆を輸入出来ないかという話で花を咲かせていた。
「そろそろ中に入らないか?」
立ち話をしなくても目と鼻の先に快適な家があることをダニエルが思い出させて、レスリーがそうだなとダニエルの肩を叩きながら同意した。三人は歩き出しながら話題を変えた。
「しかしヴィンセント。なぜ、首都の家に住まずにマスタスに移ったんだ? シュリアの家がもぬけの殻では良くないからお前が嫁をとって入れと父が言ってくるのだが」
父は静養も兼ねて田舎に引っ込んでいるが、家長であることには変わりなく、ちょこちょこ指示を出してくる。ソフィアとの結婚も父親であるテリー・バトラーが強引に押し進めたものだった。ヴィンセントは他の兄姉とは違い、父の愛情を受けずに育った為、いつもどこか父の期待に応えなければと考えてしまう癖があった。母が存命なら兄や姉のように、のんびりとした性格になっていたかもしれないが、その母はヴィンセント出産時に命を落としていた。
「元はレスリーが逃げ回るからこちらにお鉢が回って来たんだ。今度こそ、観念して嫁を貰って落ち着けばいいじゃないか」
ヴィンセントの苦言にレスリーは青い目を可笑しそうに細めて「何言ってるんだ。お前がどうせ恋人とはちゃんとした夫婦にはなれないから変わりに偽装結婚すると受け入れたのだろ。私は愛せない嫁など煩わしいだけだし嫌だからありえない」と反論する。
「家族間の取り決めで結婚しても相手を愛することはできますよ」
かつてシャーロットを嫁にしろと言われて結婚したダニエルが口を挟んだ。しかしこれは元々シャーロットがダニエルを気に入って父に仲介してもらったというだけで、互いに知り合いで好意を持っていたのだから少し話は違ってくる。
「まぁ、愛せる女性ならありだけどね。ヴィンセントみたいに毛嫌いしている相手など、私はごめんだよ」
これにダニエルが「私は好きですよ、ソフィアは良い子だ」と、言うからヴィンセント一人悪者みたいになった。それに今はヴィンセントだってソフィアに好意を寄せているのだから反論しようとして口を開きかけたところに玄関の扉が開いた。
「馬車が着いたのは知っていたのだけど、一向に入ってこないからこちらから来ちゃったわ」
シャーロットが出てきて開口一番文句を言うと、微笑んで夫のダニエルにキスをする。
「ダン、私もクッキーを焼けたのよ。食べてみて!」
シャーロットの後にソフィアと、手にトレー持ちクッキーを運んできたキャサリンが続いていた。
シャーロットとダニエルの仲睦まじい様子に一同視線を向けていたが、レスリーだけがソフィアを真っ直ぐ見つめていた。
「あれ……? 君は──」
レスリーはソフィアへと歩みを進めていく。近寄られたソフィアは戸惑いなからもヴィンセントに似た整った顔立ちを正面から捉えていた。
「ああ、そうだよ! 君、唇を怪我したことがあったろ?」
ソフィアは時が遡り、小さい頃の自分になったような感覚に陥っていた。あのブルーの瞳、夢に何度もみた目があの日と同じようにソフィアを見ている。
ソフィアは自らの唇を撫でた。それからしっかりと頷いた。
破顔したレスリーが「やっぱり! あの時も可愛い子だったけど、変わらないな。傷はすっかり消えたのかい?」とソフィアの唇に手を伸ばしたのだった。
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