侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾

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後悔

後悔2

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 食事を終えてレスリーが帰って行ったあと、ソフィアは潮風にあたったから湯浴みしたいといい早めに自室に戻っていった。

 ヴィンセントはソフィアの湯浴みを待って、ソフィアの部屋を訪ねていった。ポケットにはあのネックレスを忍ばせていたが、どうやって渡そうかと思案中のままだ。

「ソフィア。少し話がある」

 ドアをノックすると、ソフィアがドアを開けてヴィンセントを招き入れた。ソフィアの頬は湯浴み直後で火照り、髪はまだ濡れているようだった。

「疲れているか?」

 ソフィアはベッドに腰掛けると、ナイトテーブルに置いてあった紙に文字を書く。

『少しだけ。ヴィンセント様のほうがお仕事でお疲れなのではないでしょうか』

 やきもきしたせいで気疲れはあったが、仕事はいつものことなので気にはならなかった。それより、紙がナイトテーブルに置かれていたのが気になった。

「ナイトテーブルで何か書いていたのか?」

 燭台を置いてあるから、紙を置くにはギリギリで、ここで文字を書くのは大変そうだった。

『寝る前に、一日何をして過ごしたか日記に書くようにしています』

 ソフィアにとって、ヴィンセントのお屋敷で過ごす日々はこれまでの中で最高の時間だった。豪華な装飾品や上等な布団、それから近くにはヴィンセントがいる。これ以上いい時間などこの先ないだろうと思って日記をつけるようにしていた。いつか振り返り幸福だったと思えるだろう。

「日記か。それは私にも読ませてくれるか?」

 まさかヴィンセントが読みたいと言うなんて思ってもみなかった。驚きのあまり総毛立った身体をソフィアは抱きしめてから、羽根ペンを取った。

『それはヴィンセント様でも駄目です。とてもプライベートな事を書いていますから』

 ヴィンセントは必死になって書いているソフィアの赤らんだ頬に指の甲をあてた。

「レスリーとの思い出を書くのか」

 意識してレスリーとの思い出を書くつもりはない。むしろ、書きたいのはヴィンセントのことばかり。よって驚いたが、ヴィンセントはソフィアの表情に何か不満を覚えたように感じられて、重ねてショックを受けていた。

 ヴィンセントはソフィアの顎を持ち上げ自分の方へと向かせた。

「今日の日がレスリーで埋め尽くされないように、私が上書きすると言ったら?」

 言っている意味もわからなかったが、それよりもヴィンセントの瞳に釘付けになってソフィアは動けなくなっていた。強い力のある眼差しはどこか怒っているようでもあった。そのままヴィンセントの唇がソフィアの唇に重ねられ、しかもネグリジェの紐を解いていく。

 唐突だったのでソフィアの手には羽根ペンが握られていた。けれど、キスが濃密になっていくと体から力が抜けて羽根ペンが床に落ちていった。ヴィンセントのキスがソフィアの体から力を奪っていく。ソフィアはどんどん蕩けて自分の体が制御出来ない。

 ベッドに倒されたソフィアの上にヴィンセントが体重をかけぬように覆いかぶさり、露わになった肌へ余すことなく唇を寄せていく。首にも鎖骨にも、そしてはだけた胸にまで。

 羞恥心でネグリジェを戻そうとするソフィアの手をヴィンセントは捕らえてやっとキスをするのを止めた。

「なぜ隠す。日記も体も私には見られたくないのか」

 ヴィンセントの目には欲望と苛立ちを見たように感じたソフィアは、ヴィンセントの手が緩んだ隙に腕を伸ばしてヴィンセントの首に巻きつけ体を起こしキスを返していた。

(恥ずかしかっただけだと伝えたいのに声が出ない)

 ソフィアはもどかしさをたどたどしいキスでなんとか伝えたかった。こういうことは初めてで、どうしたらいいのかわからないし、それを伝えるには紙に文字を書かなければならない。今はそんなことは間違っている。

 次第にヴィンセントがキスを返すようになっていく。再び熱を帯びていく空気に、ヴィンセントは片手で自分の服を脱ぎ始めた。

 ソフィアの積極的な動きにヴィンセントがたじろいだのは、ソフィアが未経験だと決めつけていたからだった。デフォー家で働く男はソフィアとの肉体関係をほのめかしたが、ヴィンセントはソフィアとキスを交わした時の初々しさであの男とは何もなかったと結論付けていた。しかし急にソフィアから行動を起こしたことで、やはり経験があるのではないかと感じ、そんなことで猛烈に嫉妬している自分に気がついた。

(あの男でもなく、レスリーでもなく、俺を見ろ)

 独占欲で脳内がクラクラするし、ソフィアからは甘い匂いが立ち上がり、思考がまとまらなくなってきた。

 ヴィンセントはソフィアの体を荒々しく弄りながら、ソフィアのネグリジェを剥ぎ、ヴィンセント自身の服を脱ぎ去った。

 契約のことなど今はどうでもいい。ヴィンセント自身が求めている事をソフィアも求めているのだと確信したら、もう足かせは何もなくなっていた。

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