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軽く震えたように体を揺すったあと、キャサリンがヴィンセントに詰め寄った。ヴィンセントが一歩退かなかったらぶつかっていたほど距離を詰めていた。
「それはそれ以外に道がなかったからです! ヴィンセント様との契約が切れたらソフィア様は行くところを失い、私たち夫婦の賃金が払えないことに悩んでいました。ヴィンセント様に爵位を保持させるために離婚もせず、ひっそりと平民を装い生きていくとも申してました。あなたの為に離婚すらしないおつもりなんですよ? 美しくて聡明なソフィアが一生身を隠して生きていくと言ったのは、ヴィンセント様をお慕いして──」
そこでキャサリンはトンプソンに止められた。
「落ち着きなさい」
しかしキャサリンは掴まれた腕を振りほどいてヴィンセントに食らい下がる。
「あの子はずっと家族の愛すら知らずに生きてきたんです。結婚して幸せな家庭を築くことに憧れないはずないんです。それなのに、あなたのために一人になろうとしていたんですよ。今回、レスリー様の提案を受け入れたのだってソフィア自身の為ではないのです。私達夫婦の賃金を保証してくれること、レスリー様がお父様から結婚を迫られていることから助けられる事、それから一番はあなた! 恋人と一緒になるためには爵位が必要だから離婚もできないし、ソフィア自身は邪魔になるだけだからって……」
烈火のごとく怒っていたと思ったら、キャサリンはとうとう泣き出した。
「あんまりだわ……あの子だって幸せになる権利があるのに……」
トンプソンはキャサリンの肩に手を置いてから、懐からハンカチを出してキャサリンに握らせた。
「ヴィンセント様。ソフィア様をお迎えに行かれたらいかがでございますか。気持ちは既にソフィア様に向いていると告げる最後のチャンスでございます」
ヴィンセントはまだ涙を流して肩を揺らすキャサリンに「ソフィアが私を慕っていると言うのか……レスリーではなく」と恐る恐る問う。
キャサリンはハンカチで顔をゴシゴシ拭きながらヴィンセントを睨みつけた。
「そんなの本人に聞いてください! 私に聞かないで!」
「しかし……ソフィアがレスリーに惹かれているならば私はソフィアの気持ちを大事にした──」
「あなたに抱かれたソフィアの気持ちがわからないって言うの?」
キャサリンの叫びにトンプソンが眉根を寄せて「突っ込んだことを言い過ぎだ。口を慎みたまえ」と口を挟んだ。
トンプソンはキャサリンをとがめるが、ヴィンセントはキャサリンの言うことはもっともだと頭を殴られたような気がした。
ソフィアの様子を見れば、欲求に従順なタイプではないことがわかる。それでもヴィンセントに体を委ねたのだ。
ヴィンセントはゴクリと唾を飲み込んだ。
「トンプソン。出掛ける」
もし、ここでソフィアを逃したらヴィンセントは一生後悔するだろう。
直ちにトンプソンが身を翻し、外へと出ていったのは馬車の用意に向かったのだとヴィンセントは理解した。すぐ横にいるキャサリンにも告げなければならないことがあった。
「君の主を迎えに行く。それから、君たちは私が今後雇い続けると約束する。ソフィアがどこに行くことになっても、君たち夫婦はついていきなさい。その費用は私が持とう。子供の件は本当にすまないと思っている。悪かった」
キャサリンはまた涙を浮かべて、うなずいた。
「ソフィアに言ってあげてください。今の全て、いえ、ただ愛してると。あの子は本当にそう言われたことがほとんどないのです」
ヴィンセントは胸を痛めたが、ほんの少し苦笑いを浮かべてもいた。
「いくらでも言うさ。ソフィアがたとえ応えてくれなくてもな」
ヴィンセントとソフィアの間には、そういう会話は一度たりともなかった。よっていまだに少し不安があった。なんにせよ何も言わずにここまで来てしまったことも大きな間違いだったのだ。
「ヴィンセント様、馬車の用意が直ぐに出来ますので表に向かってくださいませ。私はトランクに服を詰めてお持ちします」
珍しく忙しさを滲ませ、部屋の入口で用件を述べるトンプソンにヴィンセントは目を大きく見開いてから笑った。
「大騒ぎだな。では、キャサリン。ガルシアの見張りを頼んだぞ。あ、そうだ。グレゴリー・エアーズとはどんな人物だ?」
キャサリンは涙をハンカチでしっかり拭い去ってから答えた。
「自身の野望に忠実な人です。人当たりはよく、狡猾。ソフィアのことは昔から自分のもののように扱うところがありました。要は自分の道具のように」
なんとなく想像していた人物像と合致したので、ヴィンセントはそうかと納得した。
「では、行ってくる」
キャサリンに言い渡すと、ヴィンセントは焦る気持ちが背を押し、足早に部屋を出ていく。
「ちゃんと恋人と別れたこともおっしゃってください!」
キャサリンの言葉に振り返ると「部屋に来る前にトンプソンさんに聞きました」などということをあっさりキャサリンが白状した。
「それがなかったら、ヴィンセント様を応援など致しませんもの」
キャサリンはあっけらかんとと言ってのけるので、なかなか大した女だと思った。
「それはそれ以外に道がなかったからです! ヴィンセント様との契約が切れたらソフィア様は行くところを失い、私たち夫婦の賃金が払えないことに悩んでいました。ヴィンセント様に爵位を保持させるために離婚もせず、ひっそりと平民を装い生きていくとも申してました。あなたの為に離婚すらしないおつもりなんですよ? 美しくて聡明なソフィアが一生身を隠して生きていくと言ったのは、ヴィンセント様をお慕いして──」
そこでキャサリンはトンプソンに止められた。
「落ち着きなさい」
しかしキャサリンは掴まれた腕を振りほどいてヴィンセントに食らい下がる。
「あの子はずっと家族の愛すら知らずに生きてきたんです。結婚して幸せな家庭を築くことに憧れないはずないんです。それなのに、あなたのために一人になろうとしていたんですよ。今回、レスリー様の提案を受け入れたのだってソフィア自身の為ではないのです。私達夫婦の賃金を保証してくれること、レスリー様がお父様から結婚を迫られていることから助けられる事、それから一番はあなた! 恋人と一緒になるためには爵位が必要だから離婚もできないし、ソフィア自身は邪魔になるだけだからって……」
烈火のごとく怒っていたと思ったら、キャサリンはとうとう泣き出した。
「あんまりだわ……あの子だって幸せになる権利があるのに……」
トンプソンはキャサリンの肩に手を置いてから、懐からハンカチを出してキャサリンに握らせた。
「ヴィンセント様。ソフィア様をお迎えに行かれたらいかがでございますか。気持ちは既にソフィア様に向いていると告げる最後のチャンスでございます」
ヴィンセントはまだ涙を流して肩を揺らすキャサリンに「ソフィアが私を慕っていると言うのか……レスリーではなく」と恐る恐る問う。
キャサリンはハンカチで顔をゴシゴシ拭きながらヴィンセントを睨みつけた。
「そんなの本人に聞いてください! 私に聞かないで!」
「しかし……ソフィアがレスリーに惹かれているならば私はソフィアの気持ちを大事にした──」
「あなたに抱かれたソフィアの気持ちがわからないって言うの?」
キャサリンの叫びにトンプソンが眉根を寄せて「突っ込んだことを言い過ぎだ。口を慎みたまえ」と口を挟んだ。
トンプソンはキャサリンをとがめるが、ヴィンセントはキャサリンの言うことはもっともだと頭を殴られたような気がした。
ソフィアの様子を見れば、欲求に従順なタイプではないことがわかる。それでもヴィンセントに体を委ねたのだ。
ヴィンセントはゴクリと唾を飲み込んだ。
「トンプソン。出掛ける」
もし、ここでソフィアを逃したらヴィンセントは一生後悔するだろう。
直ちにトンプソンが身を翻し、外へと出ていったのは馬車の用意に向かったのだとヴィンセントは理解した。すぐ横にいるキャサリンにも告げなければならないことがあった。
「君の主を迎えに行く。それから、君たちは私が今後雇い続けると約束する。ソフィアがどこに行くことになっても、君たち夫婦はついていきなさい。その費用は私が持とう。子供の件は本当にすまないと思っている。悪かった」
キャサリンはまた涙を浮かべて、うなずいた。
「ソフィアに言ってあげてください。今の全て、いえ、ただ愛してると。あの子は本当にそう言われたことがほとんどないのです」
ヴィンセントは胸を痛めたが、ほんの少し苦笑いを浮かべてもいた。
「いくらでも言うさ。ソフィアがたとえ応えてくれなくてもな」
ヴィンセントとソフィアの間には、そういう会話は一度たりともなかった。よっていまだに少し不安があった。なんにせよ何も言わずにここまで来てしまったことも大きな間違いだったのだ。
「ヴィンセント様、馬車の用意が直ぐに出来ますので表に向かってくださいませ。私はトランクに服を詰めてお持ちします」
珍しく忙しさを滲ませ、部屋の入口で用件を述べるトンプソンにヴィンセントは目を大きく見開いてから笑った。
「大騒ぎだな。では、キャサリン。ガルシアの見張りを頼んだぞ。あ、そうだ。グレゴリー・エアーズとはどんな人物だ?」
キャサリンは涙をハンカチでしっかり拭い去ってから答えた。
「自身の野望に忠実な人です。人当たりはよく、狡猾。ソフィアのことは昔から自分のもののように扱うところがありました。要は自分の道具のように」
なんとなく想像していた人物像と合致したので、ヴィンセントはそうかと納得した。
「では、行ってくる」
キャサリンに言い渡すと、ヴィンセントは焦る気持ちが背を押し、足早に部屋を出ていく。
「ちゃんと恋人と別れたこともおっしゃってください!」
キャサリンの言葉に振り返ると「部屋に来る前にトンプソンさんに聞きました」などということをあっさりキャサリンが白状した。
「それがなかったら、ヴィンセント様を応援など致しませんもの」
キャサリンはあっけらかんとと言ってのけるので、なかなか大した女だと思った。
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