廃城の泣き虫アデリー

今野綾

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訪問者

訪問者③

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 廃城に着いた一行が口々に感想を言いながら馬具を外していた。騒ぎを聞きつけ出てきたカルロにニコラスが皆をまとめて紹介した。

「やぁ、カルロただいま。こいつらは元騎士団なんだが、今は銘々仕事を持ってて街や村で暮らしていたんだ。しばらくここに住む予定だから仲良くしてやって」

 カルロは被っていた帽子をとり、胸に抱えて皆に視線を送りながらペコリ、ペコリと頭を下げていく。

「騎士様か……そりゃ凄い」

 カルロの言葉にその中の一人が「今は違うぞ。俺は猟師だ」と手を服でゴシゴシ拭いてから握手を求めた。カルロはやや圧倒されながらもその手を握り返す。

「ずっと騎士団に居たからな。今更手に職なんて持てないから皆似たりよったり金もない。用心棒でもやりゃ実入りもいいが、のんびり生きるほうが楽ってもんだ。カルロ、よろしくな」

 次の人もそんな風に屈託なく握手を求めてきた。カルロの中では騎士団というのはもっと敷居の高い、話をしにくい人種だと思っていたから驚きながら次々に挨拶を交わしていく。

「しかしなんだってこんなに元騎士団の人たちが?」

 一通り挨拶すると、手綱を引いて馬を小屋に入れに行こうとしていたニコラスに問いかけた。

「ああ、ダグマ騎士団長からここに住まないかと打診されたからさ。独り者の寂しい奴らがその誘いに乗ったってわけ」

 そこで背後から「おいおい、お前も独り者だろ! 一番寂しがってた癖に」と突っ込まれて笑いが起きる。

「うるさい奴らめ! ま、こんな感じで口は良くないが気はいい奴らだ。あんまり畏まることはない。俺達はもう騎士ではないから」

 ニコニコしている面々を見ていると確かに親しい感じがするが、それでも近衛騎士団だったことを聞いたことがある身としては緊張が解けなかった。

「カルロ、悪いが宿に皆を案内してくれ。十人でぎゅうぎゅうになって寝るから」

 ニコラスはカルロにそう託すとさっさと行ってしまう。

「急ごしらえで良ければベッド枠を組みますよ」

 ベッドがなければ寝心地は最悪だ。ベッド枠があれば藁も流れず、寝心地はある程度保てるはず。枠だけだと底冷えするが、ないよりはましだった。

「おー、そりゃあいい。数人そっちを手伝わそう。っていっても木はあるのか?」
「秋の間に切っておいたものがあります。空き部屋に押し込んであるから使えますよ。あ、皆さんが空き部屋に分散して寝るっていうのも手かな」

 カルロの提案に、男たちは誰一人そうしたいと言うものはいなかった。

「いやぁ、俺達は一緒でいいさ。ぎゅうぎゅうに詰め込まれてた方が温かいだろ。燃料も抑えられるしな」
「いつまでも宴会を開いていられるからって素直に言えばいい」

 どうやら家畜小屋にいたらしいダグマが呆れた物言いで姿を現すと、そこにいた一同が背筋を伸ばして佇まいを正した。それは確かに近衛騎士団らしく、美しい立ち姿だった。

「お久しぶりです」
「なんだ? いつからそんな礼儀正しくなったんだ。スタン、挨拶はいい」
「ダグマ団長から依頼された品は、受け取って参りました。その時、弟君が交換条件としてダグマ団長にお戻り願いたいと」

 ダグマは肩をすくめて「願いたい、ね。戻れってことだろ。まぁ、それはいい。じゃあ、その荷物を含め、すぐに使わないものを空き部屋に運ぶぞ」と、荷馬車に歩み寄っていった。

「何を持ってきた?」

 ダグマが荷馬車の積み荷を見る前に問うと、一人が「滞在中に必要な食料と酒。鎧などなど」と答えた。

「じゃあカルロを手伝う奴と、俺と食料を運ぶ奴、それからニコラスと空き部屋に荷物をしまう奴に分かれてくれ」
「酒樽一つは俺達の寝床に持っていこう」
「何樽分持ってきたのか。なんでもいいが、働けよ」

 ダグマの苦言に誰一人ひるむこともなく雰囲気はあくまで明るく穏やかだ。

「もちろんですよ。飲んだくれてたら体が鈍りますからね」

 半分、幌に頭を突っ込んでいたダグマが身を引いてカルロを見て言う。

「カルロは大工だ。大門を作っているから手が空いているものを手伝ってやってくれ」

 皆の視線がカルロに集まるとカルロの方はどうにも居心地が悪かった。立場が上の人々にこんなに注目されることに慣れていなかった。

 それに気がついた一人がカルロの肩を抱いて「そう固くなるなよ! 今はカルロのほうが上だぞ。師匠、指示を頼む」と緊張を解いてくれた。

 気の良い騎士団にカルロも自然と笑みが浮かんだのだった。

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