廃城の泣き虫アデリー

今野綾

文字の大きさ
10 / 99
陶器屋カリーナと大工カルロ

陶器屋カリーナと大工カルロ⑤

しおりを挟む
 さっそく荷下ろしして、部屋も決まっていないからとカリーナは外で長持ちを開けて服を出してくれた。促されるまま空き部屋で借りた服を着たアデリーだが、やはりブカブカ過ぎて裾を引きずってしまう。

「やっぱり大きいわよねぇ。じゃあ、紐で調整しましょう」

 カリーナは荷を縛っていた麻紐をアデリーの腰に回すとそれを縛り、引きずらないように調整していく。

「母さん、ダグマが陶器用の窯があるって言ってるけど」

 空き部屋の外からカルロが声を掛けてきた。

「そりゃ見せてもらうけど、それより住む部屋が先だわね」
「ああ、部屋は窯のある真上はどうかって。今からベッドを組み立てるよ。ベッド二つ置いてもまだ空きスペースがあるから悪くないと思う」
「とりあえず見てみるわ」

 脱いだ服を拾い上げてアデリーは思い切ってカリーナに服の洗い方を教えてくれないかと尋ねてみた。服は自分で洗わないとならないことは察していた。ただ、やり方を知らないので聞かなければならない。

「そりゃ、お安い御用さ。その服、とってもいい生地だねぇ。気を悪くしないでもらいたいけど、服がないならそれを売っちまって普段着を二着用意するといい。いや、三着くらいになるかもね」

 一緒に部屋を出るとカルロが改めてアデリーと顔を合わせ、笑顔で握手を求めてきた。

「アデリーだったね。君も昨日ここに辿り着いたと聞いたよ。よろしく」
「はい。お二人に巡り会えて本当に嬉しく思います」

 カルロとカリーナは顔を見合わせてちょっぴり笑い合った。

「あ……私、変なことを言いましたか?」

 意味ありげな二人の雰囲気にアデリーは不安になった。またなにかおかしなことを言ってしまったのかもしれない。

「いや、君は本当に素敵だと思っただけさ。僕らは丁寧な物言いはできないけど許してくれよな」

 カルロが言う事にカリーナは頷いて「貴婦人のようなアデリーに心惹かれちゃうってことよ! アタシたちには真似できないから」と、心遣いを見せてくれた。

「私、浮いてしまいますね……」

 みんなのようにざっくばらんに話をしたいが、慣れないのですぐには無理そうだ。つい気落ちすると、バンと勢いよくカリーナに背を叩かれた。

「クヨクヨしなさんな。ご両親が一生懸命丁寧に育ててくれたんだ。誇りに思いなさいって!」

 唐突に鼻の奥がツンとして、涙が込み上げてきた。そうだ。両親に大切に育ててもらったことは間違いない。ここでクヨクヨしていても仕方がないのだ。アデリーは慌てて顔を拭った。

「あら……泣かせちまったかい」

 カリーナの心配顔に、アデリーは顔を左右に振って答えた。

「違います、違います。あの、私は川へ行ってますからお二人は部屋の相談をしてきてください。とりあえず、服をお水に漬けて待ってます」

「川に落ちるなよ、アデリー!」

 カルロの気遣いに「はい!」と、返事をするものの振り返らずに一目散に川を目指して下りていった。

「あの子の服を見たろ? あんな立派な刺繍初めて見たよ。きっとここに居るのは訳ありなんだろうね……」

 アデリーの背を見つめカリーナが言う。

「母さん。部屋を見てくれよ。そしたら荷物や何かは俺がやるからアデリーが川に落ちないようについててやって」

 カルロも二人の視線の先でつまずいたアデリーに不安そうな顔をして言った。

「なんとなくお前がまだヨチヨチ歩いていた時のことを思い出すねぇ」

 二人は同時に苦笑し、足元がおぼつかないアデリーから視線を引き剥がすと、部屋を見に背を向けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

処理中です...