廃城の泣き虫アデリー

今野綾

文字の大きさ
15 / 99
薬師ロセ

薬師ロセ⑤

しおりを挟む
「何をいってんだ。金なら俺が換金してやったろ」

 いつから居たのか、戸口に影が二つ。ダグマとロセが並んで立っていた。

「それに薬の金を払わなくていいそうだ。な、ロセ?」

 ロセはすぐに返事をしなかった。そこでダグマは腕組みをしてロセを不機嫌に見下ろした。

「まだ、ごねるつもりか?」
「だって薬って高価なのよ!」

 どうやらダグマはロセを説得して連れてきたらしいが、ロセはまだ納得しかねているらしい。

「お前な……、アデリーは命の恩人だろ。命を救ってくれた相手にそれくらい出来なくてどうする」
「助けてほしいなんて言ってないわよ」

 その通りだ。ロセを見つけた時、既にロセは気を失っていて何をしても目を開けなかったのだから。

 見兼ねたカリーナと険しい顔つきで参戦する。

「そりゃぁ、良くない言い方だね。人としてどうなんだい? あんたを育てた人間はそんなふうに酷い態度をとれって──」

 これはロセの感情に火をつけたようで烈火のごとく怒りだした。

「お爺ちゃんのことは悪く言わないで! 何にも知らないのに悪く言うなんてひどいわ!」
「そりゃロセの態度がそうさせるんだろう。しっかり育てられてりゃ恩を仇で返すなんてあり得ないと教えられてるはずだもの」

 カリーナに一瞥をくれると、ロセはつかつかとアデリーの元に来て土瓶を押し付けた。

「これ、飲みなさい! アンタなんか大嫌いだけど、お爺ちゃんの為に薬をあげるわ」
「あ、ありがとう……ねぇ、あのぉロセ。私、なにか悪いことをしたかしら。もし、そうならごめんなさい。私、世間知らずみたいで」

 面と向かって大嫌いと宣言されるなんて初めてのことだ。これまで接してきた全員に好かれていなくても、ここまで嫌われたことはなかったと思う。ましてや直接言われるなんてことはなかった。
 体調が悪いから、心も弱っているようでアデリーは心臓を握りつぶされたような痛みを受けていた。

「良い子ぶって! そういうところが鼻につくのよ。良かったわね、みんなを味方にできて。金持ちって本当に狡賢くて大嫌いだわ!」

 捨て台詞を吐くと、ブロンドヘアーを振り返しロセは大股で部屋から出ていってしまった。唖然とした空気が漂ったが、一番早くダグマが立ち直る。
 やれやれと呟くとダグマは「なんにせよ、ロセの怒りはアデリー個人に向いているわけじゃないってのがわかって一歩前進だな」と、言った。

「そうかい?」

 アデリーの代わりにカリーナが代弁してくれた。本当にそうなのだろうか。

「あれは最後に口にした金持ちってところが重要なんだろ。理由はわからんが金持ちに恨みがあるらしい。だから、アデリーもくよくよすることはない。そりゃそうだよな。こんな短時間にそこまで嫌う理由もないし、アデリーがなにかしたとは思えんから。ま、そのうち無関係の奴に八つ当たりしてたと気がつくだろう」

 そう言い終えると土瓶を指差し、「飲んでおけよ。ロセも薬を飲んでただちに治ったんだし効果はありそうだ」と促し、仕事に戻ると出て行った。

「あの子を助けたんだね、アデリーは。ロセの態度は良くないが理由がありそうで安心したよ。根はそんなに悪い子じゃないって早く見せてほしいものだわ」

 ブツブツと言いながら、最後には薬を飲みなさいとアデリーに命じ、アデリーもそれに従った。

 土瓶を開けると案の定恐ろしく苦そうな匂いがした。深い森に分け入った時に嗅ぐ、蒸された緑を濃厚にしたようなものだ。

「うわぁ、こりゃすごいわ。早く飲んじまいな。って量はどのくらい飲めばいいんだろう」

 アデリーはズキズキする頭でロセが薬を飲んだ時の事を思い出してみた。確か、一口しか飲んでいなかったはずだ。

「たぶん少しでいいのだと思います」

 鼻を摘まんだカリーナが矢継ぎ早にうなずいて、早く飲むようにジェスチャーで示した。こんなに揉めて手元に届いた薬だ、飲むしかない。アデリーは心を決めて一気に一口分飲み干した。強烈な苦みと気が遠くなるほどの臭いに気分も悪くなりそうだ。
 すかさずカリーナが持っていた土瓶を水のものと交換してくれたので、そちらは全部ゴクゴクと飲み干した。

「アタシは病気になりたかないわ。高い金を払ってとてつもなく不味い薬を飲まなきゃならないなんて、まっぴらだわ」

 薬の封を元に戻しながらカリーナは嫌そうなのを隠しもしない。薬と名のつくものはこれまで何度か口にしてるアデリーも同意見だ。薬師があえて薬を不味くして人々を健康的な生活にいざなっているなら大成功だといえる。

「さて、少し休むといい。また後で来るよ」

 カゴを抱えたカリーナにアデリーは心を込めて礼を言った。

「いいってことよ。手が空いた時にでも手伝ってもらうから」

 カリーナの背を見送りながら、カリーナの手伝いができるなら今すぐにやりたいと言いたい気持ちを我慢した。
 今は足手まといなだけ。ちゃんと健康を取り戻したら何でもやろうと心に誓って目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

処理中です...