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トロリ秋の恵みのカルツォーネ
トロリ秋の恵みのカルツォーネ6
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「俺もだよ。大事なものなど一握りしかない。それを壊そうとするものを俺は許さない」
エドは決然と言い切ったあとに横向きで倒れていたジョゼフの体を引き倒した。仰向けになったジョゼフの懐からコロコロと銀貨がこぼれ落ちてきた。
「これ……」
他の銀貨に比べそれは特徴的な銀貨だった。
「ほら、アリシャ見てご覧よ」
その銀貨を手渡すリリーが笑いながら言った。
「大きさといい汚れといい、これはそら豆そっくりじゃないか!」
そう、もともと銀貨はそら豆に似ている。しかもその銀貨は縁がそら豆のように黒く線状に汚れていたのだ。
「私が持っていた銀貨だわ。盗まれた銀貨……」
ジョゼフは皆の前でまるで銀貨のことなどしらないフリをしていたことになる。しかも、ボリスに疑いの目が向くように──。
「じゃあ、ボリスはどこ? ジョゼフはまるでボリスが盗んだように話をしていたのよ。だから皆の疑いがボリスへ」
エドの表情がみるみる険しくなっていく。
「コイツはなんて言った?」
「『買い物に行く』とボリスが話したと」
エドはそれだけかと問うので、アリシャはうなずいた。少し考えてエドは村の北側の斜面を見上げた。
「もし、ボリスが居るとしたら北側だろう。買い物に行くと言ったのなら南側に誘導しようとしている。隠したいものの反対側だ」
アリシャも畑の向こうにある斜面を見つめる。
「坑道だわ……そうよ。ジャンとあそこに身を潜めていたのだから」
エドが行けと言うのでアリシャはユーリを連れてジャンに報告してから坑道に行こうとした。そんなアリシャの手首を捕まえてエドが拾った銀貨を握らせる。
「お前は防御の主だ。それはいつだって危険を呼び寄せる。しかし、お前が冷静さを失わなければ対処出来るんだ。忘れるなよ」
「うん。あの……エド、助けてくれてありがとう」
掴んでいた手首を離したエドが、ユーリが待っていると告げた。もっと話をしたかったアリシャは後ろ髪を引かれながらユーリと共に宿屋に走っていった。
既になんの収穫もなく戻ってきた女性陣が、日が暮れそうだから森を探しに行っている男たちを呼びに行ってくれたようで、顔色の優れないアヴリルとジャンが宿屋に残っていた。
アリシャはアヴリルが居ることに怯んでジャンになんと告げたらいいのか迷った。そんなアリシャとは打って変わってユーリはあっけらかんと「エドが坑道に行けって」と、ジャンに伝えてくれた。考えてジョゼフの死を報告しなかったのか、ただ単にエドの伝言を伝えたのか判断がつかなかったがアリシャの悩みを吹き飛ばす単純明快な言葉だった。
「ああ、あそこなら隠れられる。俺とユーリで行ってみよう」
ジャンが立ち上がると、ユーリも素直についていった。ユーリはジョゼフのことを触れなかったおかけで、アリシャがアヴリルに二人きりで事実を告げなくてはいけなくなった。
「あのー、まだご飯の支度をしていなくて……あっちで手伝って貰えますか?」
アリシャは食事の準備をする提案をし、話すことを少しだけ先延ばしにした。ジョゼフの死を話さなくてはいけないが、どう話を切り出せばいいのかわからず時間を稼いだのだ。
「ええ、もちろん」
快諾して椅子から立ち上がるアヴリルだったが、やはり顔色の悪さが気になる。ボリスが話していた通り、体調が良くないのかもしれない。
「あー……無理はしないで大丈夫だから」
「何かしていたいの。本当に」
ボリスが行方不明なままだし、アヴリルはボリスが犯人でないことを知らない。従って顔色の悪さは兄の疑いに気を病んでいるのだと思った。
「アヴリル。ボリスは犯人ではないわ」
「え? 本当に? いえ、私はボリスの無実を信じているけど。何かわかったの?」
口を開いたアリシャだったが、その後が続かず何も言えずに口を閉じた。そんなアリシャの動きをみてアヴリルが「言いにくいことがあるのね?」と、慮る。
(真実を告げて、それでアヴリルが悲しまずにいられる方法なんて存在しない。だって家族が死んだのだから)
「一つ聞きたいことがあって……ジョゼフのことなのだけど」
「ジョゼフ……なぜ、ジョゼフのことを?」
アヴリルの眉間に皺がより、困惑しているようだった。
「その……働かないって聞いているし、どうしてボリスとはあんなに違うのかなって」
先にジョゼフが窃盗犯であることを告げようと考えた。そうすれば殺された理由が分かると思った。
「そうね。こんなに働かないなんて……思ってもいなかったわ。私も一応それとなく注意はしていたのだけど、上手くかわされちゃって」
アヴリルが言い終えた直後、足元で伏せていたアリシャの愛犬ココの耳がピンと緊張しだす。次に立ち上がり、表に出たいと扉を引っ掻き出した。引っ掻き音に外からの声が混ざり、それは次第に大きくなっていく。
「誰か戻ってきたわね」
何を話しているのかわからないのはココの立てる音が大きすぎるせいだが、声の主は一人ではない。しかも穏やかに話しているのではなく、怒号のように緊迫していた。
アリシャが扉を開くとルクがボリスを背負い、脚の悪いジャンが必死にボリスに声をかけていた。
「ほら、しっかり。宿屋に着くぞ! ユーリ、悪いが水を運んでくれ。ああ、アリシャ。シーツだ! 止血をするシーツをくれ。ああ、体が冷え切っちまってる」
「ボリス! それなら私のベットに運んでください。料理用の炉の火力を上げれば暖かくなります」
アヴリルは口を押さえボリスの後頭部を一心に見ていた。血が固まり黒くなっていた。
エドは決然と言い切ったあとに横向きで倒れていたジョゼフの体を引き倒した。仰向けになったジョゼフの懐からコロコロと銀貨がこぼれ落ちてきた。
「これ……」
他の銀貨に比べそれは特徴的な銀貨だった。
「ほら、アリシャ見てご覧よ」
その銀貨を手渡すリリーが笑いながら言った。
「大きさといい汚れといい、これはそら豆そっくりじゃないか!」
そう、もともと銀貨はそら豆に似ている。しかもその銀貨は縁がそら豆のように黒く線状に汚れていたのだ。
「私が持っていた銀貨だわ。盗まれた銀貨……」
ジョゼフは皆の前でまるで銀貨のことなどしらないフリをしていたことになる。しかも、ボリスに疑いの目が向くように──。
「じゃあ、ボリスはどこ? ジョゼフはまるでボリスが盗んだように話をしていたのよ。だから皆の疑いがボリスへ」
エドの表情がみるみる険しくなっていく。
「コイツはなんて言った?」
「『買い物に行く』とボリスが話したと」
エドはそれだけかと問うので、アリシャはうなずいた。少し考えてエドは村の北側の斜面を見上げた。
「もし、ボリスが居るとしたら北側だろう。買い物に行くと言ったのなら南側に誘導しようとしている。隠したいものの反対側だ」
アリシャも畑の向こうにある斜面を見つめる。
「坑道だわ……そうよ。ジャンとあそこに身を潜めていたのだから」
エドが行けと言うのでアリシャはユーリを連れてジャンに報告してから坑道に行こうとした。そんなアリシャの手首を捕まえてエドが拾った銀貨を握らせる。
「お前は防御の主だ。それはいつだって危険を呼び寄せる。しかし、お前が冷静さを失わなければ対処出来るんだ。忘れるなよ」
「うん。あの……エド、助けてくれてありがとう」
掴んでいた手首を離したエドが、ユーリが待っていると告げた。もっと話をしたかったアリシャは後ろ髪を引かれながらユーリと共に宿屋に走っていった。
既になんの収穫もなく戻ってきた女性陣が、日が暮れそうだから森を探しに行っている男たちを呼びに行ってくれたようで、顔色の優れないアヴリルとジャンが宿屋に残っていた。
アリシャはアヴリルが居ることに怯んでジャンになんと告げたらいいのか迷った。そんなアリシャとは打って変わってユーリはあっけらかんと「エドが坑道に行けって」と、ジャンに伝えてくれた。考えてジョゼフの死を報告しなかったのか、ただ単にエドの伝言を伝えたのか判断がつかなかったがアリシャの悩みを吹き飛ばす単純明快な言葉だった。
「ああ、あそこなら隠れられる。俺とユーリで行ってみよう」
ジャンが立ち上がると、ユーリも素直についていった。ユーリはジョゼフのことを触れなかったおかけで、アリシャがアヴリルに二人きりで事実を告げなくてはいけなくなった。
「あのー、まだご飯の支度をしていなくて……あっちで手伝って貰えますか?」
アリシャは食事の準備をする提案をし、話すことを少しだけ先延ばしにした。ジョゼフの死を話さなくてはいけないが、どう話を切り出せばいいのかわからず時間を稼いだのだ。
「ええ、もちろん」
快諾して椅子から立ち上がるアヴリルだったが、やはり顔色の悪さが気になる。ボリスが話していた通り、体調が良くないのかもしれない。
「あー……無理はしないで大丈夫だから」
「何かしていたいの。本当に」
ボリスが行方不明なままだし、アヴリルはボリスが犯人でないことを知らない。従って顔色の悪さは兄の疑いに気を病んでいるのだと思った。
「アヴリル。ボリスは犯人ではないわ」
「え? 本当に? いえ、私はボリスの無実を信じているけど。何かわかったの?」
口を開いたアリシャだったが、その後が続かず何も言えずに口を閉じた。そんなアリシャの動きをみてアヴリルが「言いにくいことがあるのね?」と、慮る。
(真実を告げて、それでアヴリルが悲しまずにいられる方法なんて存在しない。だって家族が死んだのだから)
「一つ聞きたいことがあって……ジョゼフのことなのだけど」
「ジョゼフ……なぜ、ジョゼフのことを?」
アヴリルの眉間に皺がより、困惑しているようだった。
「その……働かないって聞いているし、どうしてボリスとはあんなに違うのかなって」
先にジョゼフが窃盗犯であることを告げようと考えた。そうすれば殺された理由が分かると思った。
「そうね。こんなに働かないなんて……思ってもいなかったわ。私も一応それとなく注意はしていたのだけど、上手くかわされちゃって」
アヴリルが言い終えた直後、足元で伏せていたアリシャの愛犬ココの耳がピンと緊張しだす。次に立ち上がり、表に出たいと扉を引っ掻き出した。引っ掻き音に外からの声が混ざり、それは次第に大きくなっていく。
「誰か戻ってきたわね」
何を話しているのかわからないのはココの立てる音が大きすぎるせいだが、声の主は一人ではない。しかも穏やかに話しているのではなく、怒号のように緊迫していた。
アリシャが扉を開くとルクがボリスを背負い、脚の悪いジャンが必死にボリスに声をかけていた。
「ほら、しっかり。宿屋に着くぞ! ユーリ、悪いが水を運んでくれ。ああ、アリシャ。シーツだ! 止血をするシーツをくれ。ああ、体が冷え切っちまってる」
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