美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾

文字の大きさ
116 / 131
チーズとかぼちゃのタルト蜂蜜掛け

チーズとかぼちゃのタルト蜂蜜掛け4

しおりを挟む
 アリシャはナジが鼻を啜るのを聞いて、胸が痛かった。希望はまだあるということだ。

「ここで提案なのだが、子供や妊婦以外の者で捜索をしてみてはどうだろうか。もちろん天候が悪化したら直ぐに捜索は中止するが――」

 ここでレオが村人たちの方を向いて「足が悪いジャンとナジも残りなさい」と言うと、ナジが弾かれたように顔を上げた。

「何で俺も! 探しに行きます、探させてください!」

 ナジの横に立っていたドクがナジの肩を叩く。

「聞いたろ? 獣にやられているかもしれん。もしかするとルクもそうなっているかもしれないという事だ。そうだったとしたら、お前さんは見ない方がいい」

 やっと状況が飲み込めたのかユーリが「え……ルクが死んだのか? 嘘だ」と、手に持っていた帽子を落とした。

「まだわからん。何があったのかわからないのだから答えを急ぐべきではない。ただ、ナジは動揺しておるし、捜索の妨げになりそうだから残るべきだと私は思っている」

 ジャンがゆっくりと足を引き摺りながらナジの元へと歩いて行くと腕を二回撫でた。

「わしは足が悪い。残って一緒に家畜の世話をしてくれ。ユーリ、君も家畜の世話をしてくれるな?」

 ユーリはナジを見上げてから、おずおずと首を縦に振った。

 アヴリルがアリシャにそっと話かけてきた。

「今夜は何を作るつもりだったの? 簡単なものなら私が引き受けるわ。ほら、リアナもいるし」

「今日は塩漬けの肉を焼いて、それとは別にカボチャのパイを作るつもりだったの。薄くスライスしたカボチャをパイ生地の上に花びらのように広げて焼くだけよ。最後にチーズと蜂蜜をお願い。シナモンも少し掛けてください」

 熱心に耳を傾けながらアヴリルがアリシャの言ったことを繰り返していく。そして、横で一緒に聞いていたリアナに「覚えた?」と問う。リアナは真面目な顔でこくんと一つ頷いた。

「たぶんそれなら出来そうよ。じゃあ、私たちは行けないからお願いね」

  段取りができ、準備ができて順に外へと出ていった。エドは外に出ていく前に「絶対に一人にはなるなよ」とアリシャの額に唇をおとしていった。

 外套を纏ったレゼナがアリシャの帽子を手から取って、アリシャに被せてくれた。

「男の人がまずはご遺体を一か所にまとめてくれるらしいわ。ココを連れて行きましょう。犬は匂いがわかるし……雪の中に埋もれていても教えてくれるかもしれないわ」

 頷いたアリシャは自室に居たココにウィンが作ってくれた革製のリードを付けて連れてきた。紐など付けなくてもココは一緒に来てくれるのだが、匂いを追ってどんどん雪深い所に行かれると困るので、作っておいてもらったのだ。雪が降ってからはココがトイレに出たがったり、運動しに行く時にリードを使用している。

 なぜ連れてこられたか分からないココははしゃいでいたのが、アリシャにはそれが少しだけ救いだった。とにかく憂鬱な空気が辺りを支配していたから。

 アリシャがレゼナと森の方へと歩いて行くと、既に男たちが探索を始めていた。場所によっては腰より深い場所もあり男たちは皆棒を手にし、深さを確認しながら進んでいく。

「レゼナとアリシャ、こっちへ」

 エクトルはレオと一緒に歩いたが、二人も呼び寄せ川沿いの雪がほぼないところへと連れて行った。そこには広げられた服が置いてあった。ココが服の匂いをしきりに嗅いでいる。

「……見覚えはあるな?」

 エクトルに問われた二人は互いに顔を見合わせて頷いた。ジャンヌの服にはそれは豪華なレースがついていた。それが今目の前に広げられている。悲しいことに服はかなり破れてぼろぼろだった。

「あの、身体はどこに?」

 レゼナが服しかないことに疑問を感じてエクトルに問うと、エクトルは少し離れたところに視線を投げた。

「あちらに穴を掘ってそっちに。見ない方がいい。はっきり言えばいくばくかの肉片と骨になっている」

 レオがエクトルの視線の先に首を伸ばして覗いていたが見ることを諦めて首を引っ込めた。敢えて遠い場所に穴を掘ったのだろう。この場所から見ることは出来ないのだ。

「その遺体がジャンヌのものだというのは服でしか判断できないということか?」

 エクトルに代わってイザクが答える。

「残念ながら頭部は骨になっておりましたので。他に身体的な特徴がわかればよいのですが……レオ様はご覧になりますか?」

「見てみよう。骨ばかりではわからぬかもしれぬが、死因も気になるのでな」

 そこでレゼナも一歩前へと足を出した。

「私もお供いたします」

 レゼナの申し出にアリシャは驚いていたが、レオはそれをすんなり受け入れた。二人がイザクと共に行ってしまうとエクトルが呟く。

「さすがドクトールの妻だな。なかなか肝が据わっておる」

「大丈夫なのかしら……」

 アリシャは恐ろしくて自分も行くとは言えなかった。それどころかここにある服ですらあまり直視できない。無残に引き裂かれているところを見ると、ジャンヌがどんな目に遭ったのか想像してしまって気分が悪くなりそうだった。

「アリシャはここに居ればよい。見たところで生き返るわけでもないのでな。私もあの女のことは何度か見たが……まぁ、あれではわからん」

 問題は死因だと最後に付け足すと、足元にある服を屈んでまじまじと観察し始めた。

「刃物キズは見当たらない。刺された訳ではなさそうだな。他殺か、自殺か、自然死か」

「え?」

 驚いてアリシャもエクトル同様に屈んで服をよく見てみた。アリシャはてっきり凍死してしまったのかと思っていたのだが、エクトルはそうは考えてないらしい。

 切り裂かれているが、確かに服の傷には刃物で切られたような鋭さはない。引き裂いた時に出来るギザギザな切り口ばかりだ。

「血の跡はないのかしら。私には見つけられないけど」

 生き物を捌いたときに血が飛ぶこともあるのでたぶん血がついていればアリシャでもわかると思った。ジャンヌの服は見た感じ泥汚れだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...