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第五部
第42話 間違っていない決定的証拠
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「……それで、オレらが出会ったキッカケ……だっけか?」
「はい」
今までの弄りに対して何か咎めるつもりなのかと思いきや、ため息を吐いて、大人しく美桜の質問に答えるつもりらしい。
往生際がいい、というのだろうか。
「……こいつ、鈴菜とはいわゆる『幼馴染』ってやつでさ。物心ついた頃から一緒にいたし、常に互いには互いが必要だった。欠けてる部分の補い……っつーのかな。互いが自分には足りない『何か』を助け合って、補い合ってた。まぁそんな感じの。でも、始めから繋がりがあったわけじゃない」
伊月はまだ寝惚けている鈴菜さんの頭を優しく撫でる。
大切なものを大事に守る、小さな子どものようにして──。
「鈴菜は、昔からこんな性格だからさ、ちょくちょく絡まれることが多くてな。ただ引っ込み思案なだけの同じ人間なのにって、何度思ったか数知れねぇ。いつも1人でいるこいつが、何か無性に寂しく見えてさ。それからだよ、一緒にいるようになったのは。馴れ初めはまた別の話だけどな」
伊月はハハッと、簡素な笑いをする。
2人は僕達と同じように、性格も特技も趣味さえも、まるで合っていない凸凹な幼馴染だ。
彼らと初めて会ったのが、中学1年生の春。
奇妙な縁から知り合いになった僕と伊月だが、最初からこうも積極的だったわけじゃない。寧ろ邪魔だと思っていたぐらいだ。……その辺は、今も一緒か。
あまりにもしつこく話しかけてくるもんだから、僕の方が折れたのだ。
今にして思えば、それが鈴菜さんと関わるキッカケをくれた発端なのだろう。決して認めたくはないけど。
それから少しして、伊月と鈴菜さんが幼馴染であることを知った。
どうしてこうして、こんなにも意気投合しない2人がここまで付き合ってこれたのか正直に言って謎に近いが、まぁ人によって理由ってのは必ずしもあるものだしな。深くは追及しないつもりだ。
すると、美桜が食べ進めていた箸を止め、お弁当に軽く蓋をした。
「……同情、ですか?」
──その沈黙、僅かに思えて長いと感じた誰も喋ろうとしない無の空間。
その中へと誘ったのは、美桜の完全無自覚で、本来であればとても訊いてはいけないような質問だ。それが、たとえ伊月だとしても。
言及され、身ぶりも少し揺れ動き、微かに動揺していることが窺えた。
「……っ!! ……痛いとこ突くのな、真城さんって」
「……悪い、伊月!」
「いや、間違ってない。別に謝ってほしいわけでも、謝られる覚えもない。本当のことだからな」
「伊月……」
「……大した理由じゃなかったけど、オレも昔は、1人だった。こいつと同じだ。……同情って決めつけられたらそこまで──間違ってないことに口を挟むつもりはないからな。だから、別に謝んなくていい」
「謝る気もありませんが」
「酷いねぇ。そこまでオレが気に入りませんか?」
根に持ってるじゃないか……。美桜に本心を言い当てられて。少なからず動揺していたのは事実だし、伊月としても多少は不本意だったのだろう。
止めなかった僕も悪いが、伊月はそれでも構わないと言った。
……けれど実際は、本人はそのつもりでいても心の中の本音まで隠せるほど人間は万能な生き物ではないのだ。漏れてしまっても、不思議ではない。
すると、美桜は「いいえ」と否定した。
「村瀬君だから訊きました。私もさすがに、無神経だとわかっている質問をしたりなんかしません。村瀬君だから訊いたんです。あなたは──嘘をつけない人間です」
そのときだった。
僕は美桜の今の台詞が、つい先日の台詞と一致していることに気づいた。
『少なくとも私は、同じに見えました。動揺するところ、親切なところ。そして──嘘をつけないところ』
美桜は、そう言った。
そしてこうも言っていた。──鈴菜さんは、昔の僕に似ていると。
美桜は未だに僕以外の人をあまり信用していない。
それは、信用するにあたっての『材料』が欠けているからだ。彼女が他人を信用する上での絶対条件定義──嘘をつかないこと。
……まさかとは思うが、この質問自体が伊月のことを“信用するため”のものだったってことなんだろうか。
でなければ、こんな偶然はありえない。
手の込んだことをすると思うが、けれど僕もそんな彼女の部分を『良いところ』と認めている。
ならば、美桜の決めたことに首を突っ込んでやる義理もないだろう。
人間というのは強欲な生き物だ。
己の目的に溺れ、平気で嘘をつくときがある。例えば、自分のためだとか他人のためだとか。美桜はそれらの『嘘』が嫌いだ。自分に真っ直ぐな人間だからこそ……なのかもしれない。
自分のためなのは兎も角として、他人のための嘘は時には優しさにもなるとか言うけれど──美桜が言うのには『単に言い訳をしたいだけ』だそうだ。
結局のところ、それは逃げているのと変わらない。僕達みたいなのがいい例だろうな。
けれど、嘘は絶対に後悔することになるものだ。
百発百中……とまではいかないが、少なくともあまり居心地のいいものではない。
僕達は──約束をした。
『いずれ、全てを話す』と。
そのときも、もう近いのかもしれない。……僕の嘘を、解き放たなければならないときが。
「今の話を聞いてそう判断しました。あなたのことは信じます。──ですが、あまり湊君に擦り寄らないでください。他をあたってください」
「……何をお考えで、美桜さん?」
「本当のことじゃないですか。……湊君、いつも迷惑そうに抱きつかれてますし……変なトラブルに巻き込ませるわけにはいきません」
本当に保護者みたいなこと言い出してきたよ。
伊月はただただ『わんこ系』なだけ。
擦り寄っているように思えたのは、こいつの性格を把握しきれていないせいだろう。非常に厄介な展開になってしまったじゃないか。
最もしてほしくない誤解を、僕が不注意だったばっかりに、この純粋無垢な女神様に与えてしまっまたようだ。
「はい」
今までの弄りに対して何か咎めるつもりなのかと思いきや、ため息を吐いて、大人しく美桜の質問に答えるつもりらしい。
往生際がいい、というのだろうか。
「……こいつ、鈴菜とはいわゆる『幼馴染』ってやつでさ。物心ついた頃から一緒にいたし、常に互いには互いが必要だった。欠けてる部分の補い……っつーのかな。互いが自分には足りない『何か』を助け合って、補い合ってた。まぁそんな感じの。でも、始めから繋がりがあったわけじゃない」
伊月はまだ寝惚けている鈴菜さんの頭を優しく撫でる。
大切なものを大事に守る、小さな子どものようにして──。
「鈴菜は、昔からこんな性格だからさ、ちょくちょく絡まれることが多くてな。ただ引っ込み思案なだけの同じ人間なのにって、何度思ったか数知れねぇ。いつも1人でいるこいつが、何か無性に寂しく見えてさ。それからだよ、一緒にいるようになったのは。馴れ初めはまた別の話だけどな」
伊月はハハッと、簡素な笑いをする。
2人は僕達と同じように、性格も特技も趣味さえも、まるで合っていない凸凹な幼馴染だ。
彼らと初めて会ったのが、中学1年生の春。
奇妙な縁から知り合いになった僕と伊月だが、最初からこうも積極的だったわけじゃない。寧ろ邪魔だと思っていたぐらいだ。……その辺は、今も一緒か。
あまりにもしつこく話しかけてくるもんだから、僕の方が折れたのだ。
今にして思えば、それが鈴菜さんと関わるキッカケをくれた発端なのだろう。決して認めたくはないけど。
それから少しして、伊月と鈴菜さんが幼馴染であることを知った。
どうしてこうして、こんなにも意気投合しない2人がここまで付き合ってこれたのか正直に言って謎に近いが、まぁ人によって理由ってのは必ずしもあるものだしな。深くは追及しないつもりだ。
すると、美桜が食べ進めていた箸を止め、お弁当に軽く蓋をした。
「……同情、ですか?」
──その沈黙、僅かに思えて長いと感じた誰も喋ろうとしない無の空間。
その中へと誘ったのは、美桜の完全無自覚で、本来であればとても訊いてはいけないような質問だ。それが、たとえ伊月だとしても。
言及され、身ぶりも少し揺れ動き、微かに動揺していることが窺えた。
「……っ!! ……痛いとこ突くのな、真城さんって」
「……悪い、伊月!」
「いや、間違ってない。別に謝ってほしいわけでも、謝られる覚えもない。本当のことだからな」
「伊月……」
「……大した理由じゃなかったけど、オレも昔は、1人だった。こいつと同じだ。……同情って決めつけられたらそこまで──間違ってないことに口を挟むつもりはないからな。だから、別に謝んなくていい」
「謝る気もありませんが」
「酷いねぇ。そこまでオレが気に入りませんか?」
根に持ってるじゃないか……。美桜に本心を言い当てられて。少なからず動揺していたのは事実だし、伊月としても多少は不本意だったのだろう。
止めなかった僕も悪いが、伊月はそれでも構わないと言った。
……けれど実際は、本人はそのつもりでいても心の中の本音まで隠せるほど人間は万能な生き物ではないのだ。漏れてしまっても、不思議ではない。
すると、美桜は「いいえ」と否定した。
「村瀬君だから訊きました。私もさすがに、無神経だとわかっている質問をしたりなんかしません。村瀬君だから訊いたんです。あなたは──嘘をつけない人間です」
そのときだった。
僕は美桜の今の台詞が、つい先日の台詞と一致していることに気づいた。
『少なくとも私は、同じに見えました。動揺するところ、親切なところ。そして──嘘をつけないところ』
美桜は、そう言った。
そしてこうも言っていた。──鈴菜さんは、昔の僕に似ていると。
美桜は未だに僕以外の人をあまり信用していない。
それは、信用するにあたっての『材料』が欠けているからだ。彼女が他人を信用する上での絶対条件定義──嘘をつかないこと。
……まさかとは思うが、この質問自体が伊月のことを“信用するため”のものだったってことなんだろうか。
でなければ、こんな偶然はありえない。
手の込んだことをすると思うが、けれど僕もそんな彼女の部分を『良いところ』と認めている。
ならば、美桜の決めたことに首を突っ込んでやる義理もないだろう。
人間というのは強欲な生き物だ。
己の目的に溺れ、平気で嘘をつくときがある。例えば、自分のためだとか他人のためだとか。美桜はそれらの『嘘』が嫌いだ。自分に真っ直ぐな人間だからこそ……なのかもしれない。
自分のためなのは兎も角として、他人のための嘘は時には優しさにもなるとか言うけれど──美桜が言うのには『単に言い訳をしたいだけ』だそうだ。
結局のところ、それは逃げているのと変わらない。僕達みたいなのがいい例だろうな。
けれど、嘘は絶対に後悔することになるものだ。
百発百中……とまではいかないが、少なくともあまり居心地のいいものではない。
僕達は──約束をした。
『いずれ、全てを話す』と。
そのときも、もう近いのかもしれない。……僕の嘘を、解き放たなければならないときが。
「今の話を聞いてそう判断しました。あなたのことは信じます。──ですが、あまり湊君に擦り寄らないでください。他をあたってください」
「……何をお考えで、美桜さん?」
「本当のことじゃないですか。……湊君、いつも迷惑そうに抱きつかれてますし……変なトラブルに巻き込ませるわけにはいきません」
本当に保護者みたいなこと言い出してきたよ。
伊月はただただ『わんこ系』なだけ。
擦り寄っているように思えたのは、こいつの性格を把握しきれていないせいだろう。非常に厄介な展開になってしまったじゃないか。
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