幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな

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第五部

第43話 女神様とぼっちと幼馴染と

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「……美桜。気持ち悪い想像しないでくれるか。僕達はだ。それ以上はない、以下はあるかもだが」

「そこまで言うなら最後まで庇えよ!」

 伊月は僕の意図した美桜の思考をみ取ったらしい。
 だからこそ、僕が何を回避したいのか一目瞭然なのだろう。

「……ってことはなんだ? オレは、真城さんに認めてもらったって解釈でいいのか?」

「そうなんじゃないか? 実際どうなんだよ、美桜」

「……あくまでも妥協です。本当に妥協ですから」

 ツンデレの常套句を使ってくるんじゃない。それだとまるで──『本当は認めているのに素直に言えない』、本当のツンデレと化するぞ。
 ……絵面的には可愛さが増すだけだろうけど。

「うん。嬉しい。嬉しいんだけど……何か変な誤解を与えてる気がする」

「後でなるべくフォローしとくよ。ま、その結果がどんな影響を及ぼすかなんて知ったことじゃないけどな」

「最後まで庇えよっ!」

 伊月は僕の制服の裾をこれでもかというぐらいに強く掴んで上下に激しく動かす。

 痛い痛い痛い! 変な攻撃してくるなよ!

 ……というか、お前のその行動で自体がどんどん悪化してるって現状を早く理解した方がいいぞ。

 鋭い目で伊月を睨みつける美桜は、まれに見る『怒った』ときの顔に似ていた。

「……いい加減にしてください、部外者めが」

「美桜さん一体そんな汚い言葉どこで覚えてきたの……!」

 清楚で、可憐。そんな学校側が勝手に抱く彼女の姿──しかし、僕達にはそれは全てまがい物。

 本物にして、本当の彼女は、そんな素振りは何1つない。
 世間知らずで、心臓に悪い常識外の行動を起こす、劣勢の姫君だ。

 そんな姫君は、僕の腕にまるでコアラのようにしがみついてきた。
 ぎゅっと、僕のことを『逃がすまい』とするかのような頑固な姿勢だ。

「湊君は、私の…………幼馴染です。主導権はこちらにあります」

「個人の尊重って言葉、知ってます?」

 他人に決定権を渡す前提として、僕自身が決定権を有しているのだから、それを忘れるなんて笑止千万。一般常識外れ案件は受け付けないからね?

 後、さっき何で地味に溜めたりしたんだ? ……謎だ。

 その様子を観察していた伊月は、ふーんと軽く鼻を鳴らした。

「……まさかとは思ってたけど、やっぱりそうだったんだなぁー……──」

「? 何訳のわからないこと言ってるんだ?」

「いや、真城さんが健気だなぁーと思ってさ」

「……何だよそれ」

 健気なのは寧ろ僕の方だと思うんですけど。
 この子はあくまで、僕しか頼る相手がいないから僕に懐いているのであって、僕のような欲望塗れな感情は一切無いぞ。
 寧ろ、純粋と呼ぶべきだと思う。

「……大変な思いしてるんだな、真城さん」

「あなたに同情されたくありませんが……でも、今限りは許します」

「えっ……いつの間に仲良くなったの?」

「なってます。一時的な協定です」

「もう少し信用してよー!」

 伊月が美桜に完全に認めてもらうには、まだまだ時間を有するっぽいな。

 無理もない。
 小学生の頃の美桜でさえ、他人とは違うオーラがあったし、クラスメイトの誰よりも他人への警戒心が強かった。

 きっとあれは──自分を守る、唯一の武器だったのかもな。
 他人とは違う自分自身を守って……自分は他人と馴れ合うことは叶わなくとも、信じたものを信じたいと。

 そして、それを乗り切るのに、僕は1年もかかったのか……。

 美桜は僕の腕の絡めを離すが、すぐさま今度は身体からだごと預けにきて、再び弁当を食べ進めようとしていた。

「ふぁあ……。ちょっと眠れましたぁ……」

「本当にちょっとそうだな……」

 眠気まなこを摩りながら、ゆっくりと起き上がる鈴菜さん。

「はい……。まだ、瞼を開けるので精一杯ですぅ……」

「安心しろ。午後の授業には出させねぇから!」

 伊月はドヤッとした効果音と共にそう言い切った。

 事情を知っているから何もツッコミを入れようとは思わないが、敢えて心の中で言わせてもらおう。

 鈴菜さんの状態を知らない見ず知らずの人が今の伊月の台詞を聞いたら、絶対誤解すると思うぞ。小学生の悪戯よりタチ悪いからな、知ってる僕が聞いても尚この感想だからな。

 ──何かいじめでも起きてるのかっ!? って、普通に疑問抱くって。

「伊月君。……さすがに今の台詞はタチ悪いと思うよ?」

「えぇっ!?」

 わざわざ心の中に仕舞った台詞を、鈴菜さんは容赦なく叩き込む。さすが、こんな奴の幼馴染をしているだけのことはある。

「……何て言うのかな。他人のために本気で心配してくれるのは、伊月君の良いところだって私は思うよ?」

「ち、ちかぁ……!」

「──でも同時に、悪いところでもあるよね……」

「やめて! そんな同情するのような目で見ないでぇ!」

 いや実際同情されてるんだろ。
 未だに欠伸あくびが出る鈴菜さんにまで言われるとは、さすがは伊月だな。褒めてるぞ一応。

「……何というか、少し意外ですね」

「な、何が……ですか?」

 噛み噛みになっている。やはり鈴菜さんは伊月とは平常通りに話せるだろうけど、知り合ったばかり、それも『女神様』の肩書きを持つ美桜には敬語になるようだ。一応同い歳なんだけどな。

 極度の引っ込み思案だからな……下手をしなくとも、僕以上の陰キャ属性なのは間違いない。

「いえ。先日お会いしたときは、もっとブルブル震えていたので、余っ程の

「えっ……? い、和泉君って……どういうことですか?」

「美桜。意味不明な例えはやめようか」

「事実だと思ったのですが」

「美桜の言ってること、僕には伝わってるけど、絶対鈴菜さんには伝わってないから!」

「……わかりやすいかと思ったんですけど」

 寧ろはてなマークが増えそうな例えだと思う。

 つまり美桜はこう言いたいのだろう──『僕と同じようなぼっちでコミュ障だと思っていた』と。平たくまとめたらそんな感じだ。

 こんな内容を普通質問しようとは思わないけど、美桜だもんな。うん。もう慣れた。

「……なぁ、湊」

「どうした浮気偽善者」

「……敢えて突っ込まないでやるよ感謝しろ。それで、1つ訊きたいことがあるんだが」

「何だ?」

「真城さんってさ──実は?」

「……答えるまでもなく、目の前の美桜が事実で、みんなが思うような才色兼備の優等生の美桜は“理想の塊”だよ」

 現実というのはとても恐ろしい。
 特に優等生の仮面を被った人の中身というのは、理想を粉砕してしまうほどの威力を誇る。

 他人に理想を抱くのはやめた方がいい。
 ここに、そのお手本がいるからだ。

 現実と理想のギャップに萌える者もいるだろうが、抱きすぎは要注意だ。



 つくづく思う。

 変な幼馴染は持たない方が余っ程理想的だと。
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