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39、庭園での二人の思い出
しおりを挟むアレンは、椅子に腰掛けているエルティーナに目を向ける。
柔らかい金色の髪が揺れている……小さな肩がいつもより更に小さくなり、震えている。いつまでも聞いていたい可愛い声は、苦しげに何度も何度も謝っている。
心は痛む……だが「気にしなくてかまいません。大丈夫です」とは口が裂けてもアレンには言えない。
あの心臓が凍る思いはもうしたくない。今日の一件で、一刻も早く宦官となりたかった。誰よりもエルティーナの近くに入れる権利。それを皆に納得させる事ができる役職だからだ。今は撤廃された制度でもアレンには望む制度だ。
(私が〝男〟でなければ今以上にエル様の側へ近づける。誰よりも側に……)
エル様の一番は私。それがアレンの望む道だった。
エルティーナが男性を苦手とする理由の根本までは分からないが、成長し今だ男慣れしないのは十中八九、アレンやレオンの所為だろうと見当はつく。
アレンは分かっていて、あえて知らないフリをしてきた。普通の男がレオンを見てアレンを見て、敵わない事が分かりきっていて、エルティーナに声をかける強者はまずいない。
異常だと思うこの関係がいつまでも、続けばいいと思っていた罰……。
何も口にしないアレンに、エルティーナは絶望していた。
誠心誠意謝っても、アレンは話さない…何も言ってくれない。アレンはエルティーナの兄じゃない。兄のレオンと同じように許してくれたりはしない…。きっと呆れ、嫌われた。これは自業自得だ。先ほどまであの思い出の庭園で、エルティーナは本当に幸せだったのに…。
部屋の中は静寂に包まれている。
アレンの息づかいが、エルティーナの息づかいが、お互いの息づかいしか聞こえない。二人だけ……の……世界……。
「…エル様」
静寂の中に、アレンの低く甘い優しい声が聞こえてくる…。
エルティーナは声に反射的に反応し、アレンを見上げる。アメジストの瞳は穏やかにエルティーナを見ていた。
(「怒ってない?」)
強張っていたエルティーナの身体は、ゆっくりと解れていく。
「無事で良かったです。本当に…心配致しました。
……あの庭園………懐かしいですね……。
レオンに連れられエル様に初めてお会いした時を思い出しました。
まるで光の中から天使が舞い降りたかと…。美しく咲き誇った庭園で立つ貴女は、まさに天使だった。…当時騎士になって良かったと…何度も思いました。
エル様は私を美しいと言ってくださる。私はそう言って頂けるのが一番嬉しいです」
「…アレンは美しいわ、綺麗だわ、素敵だわ、私は今までお兄様が一番だと思ってきたの。でも庭園で、初めてアレンに会って。お兄様を超える人に出会ったと思ったのよ!」
力説したエルティーナを見つめるアレンの瞳は澄んでいた。
まるで身体を抱きしめられていると錯覚してしまうほど、優しさに包まれており、隠していた想いが溢れてしまう。
「アレンはどうしてそんなに素敵なの??
背は高く、銀色の髪は宝石みたいにキラキラしていて、私みたいなちょっと重い子でも簡単に抱き上げる腕力も。そして…アメジストの瞳も。
あのね、アメジストは〝真実の愛〟〝愛の守護〟って言われてるわ!!真実の愛を守りぬくのよ!! …本当…に…アレンそのまま。
私、アレンといる時が一番落ち着くし安心する…の」
「………ありがとうございます。エル様に会えた事を……神に感謝いたします」
アレンがまさか、自分が思っていたことを言ってくれるとは思わなかった。エルティーナは震える声で、両手を合わせ瞳を閉じる。
そして…エルティーナはアレンの言葉を繰り返す。
「…私も…アレンに会えた事。神に感謝いたします」
エルティーナの部屋の前で。開かれたままの扉の横で。
ナシルは腕にドレスを抱えたまま涙を流す。せっかく持ってきた明るいオレンジのドレスはナシルの涙で色が変わっていて…。
その横でレオンは拳を硬く握り締める。レオンの握り締める力に耐えられなくなった革のグローブがミシミシと悲鳴をあげていた…。
レオン、ナシル、の時は止まる…二人に魅せられて……。
「どうして…エルの相手はアレンじゃないんだ。
どうして…アレンの相手が…エルじゃないんだ?」
レオンは叫びそうになる思いをぐっとこらえた。
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