69 / 96
第6章
67.闇の脅威
しおりを挟む目の前の邪悪な気配を纏うディアボロスに、セシルはなす術なく立ち尽くす。エメリヒを殺したくないが、負ければ世界そのものが危なくなるかもしれない。どうしたらいいのだろう。
とりあえず次の攻撃に備えて防御結界を張る。
すると次にディアボロスは先程よりは少し小さい闇の塊を両手の上に無数に作り出した。
「これなら避けれないでしょう?」
「ッ……!」
彼は両手の上の大量の塊を一斉にこちらへ繰り出した。
「『聖光球』!」
ウィルが先程よりも大きな直径3メートルほどの光の塊に姿を変える。そしてその後ろに立ち闇の塊に構える。防御結界と聖光球の2重のバリアで何とか凌がなければ!
彼の手から放たれた無数の闇の塊によってすぐに結界は破られた。光のスフィアで真正面からの闇の塊は打ち消せたが、右と左の塊がセシルの体を掠める。聖光球を回り込むようにセシルの方へ向かってきたからだ。防御強化がなかったら左右の腕が抉れていたかもしれない。
「うぅっ!」
それでもダメージは大きい。闇の塊が接触した両腕からの出血が酷い。セシルは自身に生命力回復を施す。これ以上の体力の消耗は避けなくてはならない。
「しぶといですね……。これだから聖女っていうのは嫌いなんですよ。」
先程からディアボロスがしきりに聖女を嫌いだと言っている理由は一体何だろう? これだけ破壊力のある攻撃を持っているのに、無尽蔵の魔力があり無敵ともいえる強さなのに、嫌いというのは何か理由があるのか?
「はぁ、はぁ……。」
足に力が……。不覚にも膝をついてしまう。
あの闇の塊は破壊だけじゃない。接触した箇所から何かを奪われてしまったみたいに力が入らない……。取りあえず防御結界を張る。
「これはどうですか? 塵も残しませんよ。ふふふ。」
次に彼が作ったのは直径5メートルはあるかというほどの大きさの塊だ。あんなのを食らったら一溜まりもない。彼はあっという間にそれを作り上げ再びこちらへ投げつける。
「『聖光球』……。」
『セシル……。』
ウィルが気遣わしげにこちらを見たあとその姿を再び光の塊に変える。だけど今度の攻撃には間に合いそうにない。
「ケント……。」
もう駄目だと思った瞬間、思わず彼の名前をつぶやいてしまう。
「おう、呼んだか?」
「ケ、ケント……!?」
ケントが目の前に立ち塞がり闇の塊を遮る。危ないっ!
闇の塊は彼にぶつかると同時に打ち消された。
「たまにはこの体も役に立つな!」
「ケント……!」
ケントが来てくれた! 嬉しい……!
「なん、だと……!? なぜ魔法が効かない……!?」
ぎりぎりと歯ぎしりをしながら忌々しそうにディアボロスが呟く。
「ごめん、俺にもそれ分からないんだわ。」
ケントがニヤリと笑い彼に答える。そしてセシルの方へ振り返り話す。
「大丈夫か? 随分きつそうだな。」
「うん、闇の塊が触れたところから何かを奪われたみたいに力が入らないの。たぶん魔力かな……。」
「そうか。じゃあ、俺には関係ないな。」
そうか、ケントには魔力がない。そもそも魔法が効かない。周囲を見ると先程の闇の塊の散弾により地下聖堂の壁のあちこちが見るも無残に変わり果てていた。
「それにしてもあれはエメリヒか……? 遠くから感じてた邪悪な気配はあいつからなのか?」
「ケント、エメリヒさんが死霊を召喚しようとしてディアボロスっていう悪魔の封印が解けたの。それが彼に憑依したみたい。」
「そうか。この気配はディアボロスって奴の気配か。厄介だな。」
ディアボロスがニヤリと笑ってケントに話しかける。
「魔法が効かずともお前を殺す方法ならいくらでもあるぞ。」
急にディアボロスの口調が変化したかと思うと、彼の体が闇の靄に包まれ邪悪な気配が数倍に、いや数十倍に膨れ上がる。しばらくして靄が晴れると中から現れたのは全身漆黒で体長2メートルほどもあるまさに悪魔といった感じの魔物の姿だった。
そして彼が右手を前に出すとその掌から漆黒の大きな剣のようなものがすっと伸びる。
「もうどこから見ても完全な悪魔だなっ!」
ケントがディアボロスに勢いよく駆け出していった。
21
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~
雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。
左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。
この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる