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第6章
68.悪魔VSケント
しおりを挟む◆◆◆ <ケント視点>
ケントは目の前の悪魔に勢いよく駆け出す。ディアボロスの出した剣はかなり長い。ケントの大剣と同じくらいだろうか。彼に向かって大剣を振り下ろすがそのまま右手の剣で防がれてしまう。
「躱しもせずにいきなり力比べかよ。」
『闘神の加護』を持つケントは今まで力で押し負けたことはない。だが目の前の敵はどうだ。涼しい顔をして右手の剣だけで自分の大剣をまともに受けているのにびくともしない。
一度後ろに飛び退いたあと足の筋肉に意識を集中させて最大限の速度で間合いに入る。ディアボロスの右手側に回り込み回転しながら横に薙ぎ払う。
――ガキーン
「何……?」
今の速度はワタルでも反応できないほどの速さだ。まるでそこに来るのが分かっていたかのように再び剣で防がれる。
――カンカンカンッ
最速を維持したまま様々な角度から何度も斬りかかるがすべて防がれる。どういうことだ。簡単に反応できる速度ではないはずだ。もう予測しているとしか……。
「予測、してるのか……?」
「ふふふ。なんのことかな?」
駄目だ、当たる気がしない。力で押してもびくともしない。加速しても全て予測されて防がれる。そう、防がれるのだ。躱すことも後退することもせずディアボロスは最初の場所から全く動いていない。ずっと右手のみで捌かれている。
「そろそろ攻撃させてもらうぞ。」
ディアボロスが右手の剣をケントへ向けて振り降ろす。躱せない。受けるしかない。やむなくそれを大剣の剣身で防ぐが、自分と同じくらいの速度で次々と斬撃を繰り出してくる。
――カンカンカン!
なんとか反応をしているがぎりぎりだ。
「ほぉ、これを防ぐとは大したものだ。それじゃ少しだけ本気を出そうか。」
そこから繰り出される斬撃のスピードが加速する。剣筋を何とか視認できるというほど、その速度はこれまでの比ではない。今まで全く本気を出していなかったということか……?
「くっ……!」
「ふっ。喋る余裕もないか?」
ディアボロスがニヤニヤしながら余裕の態度で問いかけてくる。
くそっ、捌ききれない!
圧倒的に増えた手数を捌ききれずときどき被弾してしまい頬や肩に傷が増えていく。その度に激しい脱力感に見舞われる。もしや奪われるのは魔力だけじゃないのか?
その手数の多さに一度距離を取ろうと後ろに飛び退こうとした時、視認できないほどの速さで目の前に漆黒の一閃が走り、胴を袈裟掛けに斬られる。
――ザクッ
「かはっ!!」
ケントの胴は鎧ごとザックリと斬られた。飛び退いた分致命傷には至っていないが反撃できるほど浅くはない。胴から広がる熱い痛みに意識を保つのがやっとだ。
「ぐっ……。」
「ケントーっ!!」
◆◆◆ <セシル視点>
セシルは膝をつくケントに駆け寄る。意識が朦朧としている。彼にこれ以上の戦闘は無理だ。
「う、うぅ……。」
「ああ、久しぶりに人を斬ったがやはりこの感触は最高だな……。」
ディアボロスが自らの剣についたケントの血を眺めながら、うっとりと恍惚の表情を浮かべる。そしてくるりとこちらを向き勢いよく間合いを詰めてきた。
やられる!
「行くぞ、ワタル!」
「はい、師匠!」
――ガキーン
目の前に現れたのはワタルと壮年の金髪の男だった。この人はもしかしてマスター・ハイノ?
2人の剣がディアボロスの攻撃を防いでくれた。今のうちになるべく距離を取らなくては。
ケントを引きずりながらなるべく距離を取る。すると突然後ろから声をかけられた。
「大丈夫ですか? イルザさん。」
「エリーゼさん!? なぜここに?」
エリーゼまでがこの地下に来てしまった。ディアボロスは聖女を憎んでいる。危険だ。
「エリーゼさん、わたし本当はセシルっていうんです。嘘を吐いてごめんなさい。」
「ええ、偽名なのは分かってました。貴女はミーナ様の身内の方だったのですね。それよりもケントさんの怪我を何とかしなければ。『生命力回復』。」
エリーゼが手をケントの傷に当てる。だが掌の光が消えてしまう。
「うぅ……はぁ、はぁ。」
「あら……。おかしいわね。」
「エリーゼさん、ケントに魔法は効かないんです。」
エリーゼはセシルの言葉を聞いて驚いたようだ。
「まあ、そうだったんですね。では回復薬で何とかしなければ。」
「はい!」
セシルはバッグから上回復薬を取り出しケントの口に含ませる。何とか嚥下したようだが相当の出血をしている上になぜか傷の治りが遅い。
もしかしてディアボロスの攻撃は魔力だけでなく体力や力を奪うのかもしれない。
ケントはなんとか意識を保っている。そしてディアボロスのほうを見るとハイノとワタルが悪魔と対峙していた。
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