7歳の侯爵夫人

凛江

文字の大きさ
16 / 100
初恋、やり直し

6

しおりを挟む
エリアスはオレリアンを応接間に通して両親を呼ぶと、仕方なくコンスタンスも同席させた。

ずっと拒み続けてはきたものの、今はまだコンスタンスはオレリアンの妻であり、妻に対する権利は夫の方に分がある。

いつまでもこうして拒否するだけではいけないと、公爵側もそれをわかってはいたのだ。


公爵夫妻とエリアスを前に、オレリアンは
「どうか私に2ヶ月だけ時間をいただきたい」
と頭を下げた。

騎士団に長期の休暇を申し入れ、侯爵領へ赴く…、そこにコンスタンスを伴いたいと言うのだ。

侯爵領は、結婚以来1年近く、コンスタンスが暮らしていた場所である。

記憶はなくとも馴染んだ地であれば過ごしやすいだろうから、そこで夫婦として再出発したいのだと。

当然のごとく、公爵夫妻も兄エリアスも断固拒否した。

そもそも記憶のないコンスタンスと夫婦をやり直す必要は無いと。

彼女はまだ幼い少女同然なのだから。


「確かに夫婦と言うのには語弊があります。
私はコンスタンスに妻としての役目を果たして欲しいわけではありませんから。
ただ、コンスタンスが記憶を取り戻すまで…、いや、年相応に成長する過程を、側で、保護者として見守らせていただきたいのです。
侯爵領で一緒に過ごし、それでもやはり彼女が実家に戻りたいと言うなら、その時は必ずお返し致します。
どうか、結婚以来酷い夫であった私に償いをさせてください」

オレリアンは真摯に訴えた。

この1年、いくら王命での政略結婚とはいえ、妻を領地に放置したまま歩み寄る努力もしなかった。

それを今、激しく後悔している。

記憶は戻らないならそれでいい。

寧ろ、戻らない方がいいかもしれない。

ただ、今の彼女を、守らせて欲しいのだ。


そんなオレリアンを、ルーデル公爵は冷たく睨んだ。

「2ヶ月経ったらどうだと言うのだ。
実家に戻さない限り、結局は王都のあの邸に戻って来るのだろう?
その時はまたコニーを領地に残すつもりか?」

「いいえ。もちろん王都に伴うつもりです」

「それこそ言語道断だ。
父として、コニーをあんな家に戻すわけにはいかない」

長期休暇で領地に戻ると言っても、オレリアンは騎士団を辞めるわけではない。

休暇を終えて王都に戻ってくれば、あの邸には義母のカレンがいるのだ。

元伯爵夫人の義母があの邸を仕切っている限り、コンスタンスが平穏に暮らせるとは思えない。

例え領地で2人が穏やかな時を共有してきたとしても、王都に戻った途端以前と同じ事が起きるのではないか。

それにカレンはコンスタンスの記憶喪失の事実を知らない。

ヒース侯爵邸に滞在していた数日間、ルーデル公爵家の者がガードしてカレンをコンスタンスに近づけなかったからだ。

知ったらあの女のこと。

公爵家やオレリアンの弱みを握ったとばかりに振る舞うかもしれない。


しかし公爵の心配をよそに、オレリアンは静かに首を横に振った。

「王都の西に邸を借りました。
義母はそこに住まわせます」

「…隠居させるということか?
あの女が、大人しく従うのか?」

「今の当主は私です。
必ず従わせます」

オレリアンは表情を引き締め、力強く公爵を見つめた。

だが公爵はスッと目を逸らし、娘の方へ目を向けた。

コンスタンスは心配そうに父と夫を交互に見つめている。

父はそんな娘を見てフッと表情を緩めると、
「コニーはやらない…。
コニーを見守るのは父である私の務めだ…」
と呟いた。

「義父上、それは、」

「コニーは楽しいはずの少女時代をお妃教育に費やし、その挙句、見知らぬ男に嫁がされ、そして、その男に傷つけられた。
この子が7歳以降の記憶を失くしたのは神が与えてくれたなのだと思う。
きっと神が、少女時代からやり直すようにと、この子に時間をくださったのだ。
そのやり直しの時間に、そなたは必要ない」

公爵のキッパリとした物言いに、オレリアンは唇を噛んだ。

たしかに、幼い少女でしかないコンスタンスに、夫など必要無いのだ。

だがそこで突然、それまで黙って聞いていたコンスタンスが立ち上がった。

「お父様!
私、旦那様の領地に行きたいわ!」

そう言って。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

記憶が戻ったのは婚約が解消された後でした。

しゃーりん
恋愛
王太子殿下と婚約している公爵令嬢ダイアナは目を覚ますと自分がどこにいるのかわからなかった。 眠る前と部屋の雰囲気が違ったからだ。 侍女とも話が噛み合わず、どうやら丸一年間の記憶がダイアナにはなかった。 ダイアナが記憶にないその一年の間に、王太子殿下との婚約は解消されており、別の男性と先日婚約したばかりだった。 彼が好きになったのは記憶のないダイアナであるため、ダイアナは婚約を解消しようとするお話です。

騎士の妻ではいられない

Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。 全23話。 2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。 イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。

処理中です...