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こころ、近づく
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「私には王太子殿下との婚約解消も、侯爵様との結婚も記憶にこざいません。
父に話を聞き、この2ヶ月間、実家に引きこもって泣いてばかりいました。
でも、このままでは家族にも、そして侯爵様にも迷惑ばかりかけていると、ようやく思い至りました。
おそらく社交界では侯爵様との別居も面白おかしく噂されていることでしょう」
「社交界での噂など、どうでもいい」
オレリアンは憮然と言い放った。
「ええ、侯爵様は噂などお気になさらない方でしょう。
貴方はきっと、とても誠実な方です。
私のようなキズモノの令嬢を娶ってくださったのですから。
しかも記憶を失って厄介者になった私を見捨てず、大事にしていただいたともお聞きしています」
「それなら、何故試すようなことを?」
「貴方の本心を、貴方のお口からお聞きしたかったのです。
私は今の自分の立ち位置を理解してから、これからのことを考えました。
本当は、私みたいな面倒な女から、貴方を解放して差し上げられればいいのでしょう。
でも貴方との別居が噂になっている上離縁などしたら、余計に醜聞になってしまいます。
出戻ってこれ以上実家に迷惑をかけるのも、貴方を醜聞に巻き込むのも、私は嫌なのです。
それから、一時は婚約までしていた殿下に、側妃に望まれたということも私には衝撃でした。
私は側妃になどなりたくありません。
でも私は何の力もなく、結局は実家や貴方の力を借りなくては生きていけないのです。
侯爵様…、貴方は貴方を夫として覚えていないような、こんな狡くて厄介な女を、お側においてくださるのですか?」
真剣に訴えかけるコンスタンスを前に、オレリアンは一瞬言葉を失った。
そしてあらためて思ったのは、
(もう、俺の知っているコニーは居ないのだな)
ということだった。
今のコンスタンスは、自分の中では16歳になったばかりだと言う。
当然、オレリアンと蜜月を過ごした、自由闊達な『7歳のコニー』はもういない。
そして、何もかも悟ったような目をしていた、あの、オレリアンと結婚した当時の『18歳のコンスタンス』とも違っていた。
今の彼女は、真剣に『これからの自分』をどうするか考えている。
貴族の令嬢が一人で生きていくのは難しく、結局は実家や婚家で生きていかなければならないから。
だから、結婚をこのまま続行することを望めば、それはオレリアンに対して『狡い考え』だと思いこんでいる。
オレリアンはフッと肩の力を抜き、表情を和らげた。
何歳であっても、例え彼女の中に自分の記憶がなくても、それでもやはりオレリアンは、目の前のこの女性が愛おしいと思った。
表情も、紡ぐ言葉も違うが、彼女は紛れもなく自分が愛し、慈しんだ少女なのだ。
だから、強く思った。
彼女を守りたいと。
オレリアンはソファから立ち上がると、コンスタンスの前に移動した。
驚いたコンスタンスが立ち上がろうとするのを押し留め、その前に跪く。
「私の心は最初から決まっています。
貴女が私の隣を選んでくれるなら、私はその座を死守するでしょう。
もし、許されるなら…、出来ることなら…、私は貴女と死がお互いを分かつまで、共にあることを望みます。
コンスタンス。
どうか私のところへ戻って来てください」
目の前に差し伸べられた手を見て、コンスタンスは戸惑った。
これほど真摯に、真っ直ぐに想いを伝えられたのは初めてだったから。
「私は貴方と夫婦だったことを何一つ覚えていないのですよ?
それでも貴方は私を妻に望んでくださるのですか?」
「王族や貴族なら、結婚式で初めて顔を合わせる夫婦だっています。
私たちも、これから始めればいいでしょう?
まずは、婚約者から始めてみませんか?」
「婚約者…、ですか?
結婚しているのに?」
「ええ、結婚していることはひとまずおいておきましょう。
私とお付き合いしてください、コンスタンス嬢」
コンスタンスは、自分を真摯に見上げる蒼い目を見つめた。
その目はいつか見た深い湖のような澄んだ蒼色で、コンスタンスはそれを知っているような気がした。
「はい、よろしくお願い致します」
コンスタンスが差し出された手の上に自分の手をのせると、オレリアンは柔らかな笑顔を見せた。
その笑顔も、コンスタンスは知っているような気がした。
父に話を聞き、この2ヶ月間、実家に引きこもって泣いてばかりいました。
でも、このままでは家族にも、そして侯爵様にも迷惑ばかりかけていると、ようやく思い至りました。
おそらく社交界では侯爵様との別居も面白おかしく噂されていることでしょう」
「社交界での噂など、どうでもいい」
オレリアンは憮然と言い放った。
「ええ、侯爵様は噂などお気になさらない方でしょう。
貴方はきっと、とても誠実な方です。
私のようなキズモノの令嬢を娶ってくださったのですから。
しかも記憶を失って厄介者になった私を見捨てず、大事にしていただいたともお聞きしています」
「それなら、何故試すようなことを?」
「貴方の本心を、貴方のお口からお聞きしたかったのです。
私は今の自分の立ち位置を理解してから、これからのことを考えました。
本当は、私みたいな面倒な女から、貴方を解放して差し上げられればいいのでしょう。
でも貴方との別居が噂になっている上離縁などしたら、余計に醜聞になってしまいます。
出戻ってこれ以上実家に迷惑をかけるのも、貴方を醜聞に巻き込むのも、私は嫌なのです。
それから、一時は婚約までしていた殿下に、側妃に望まれたということも私には衝撃でした。
私は側妃になどなりたくありません。
でも私は何の力もなく、結局は実家や貴方の力を借りなくては生きていけないのです。
侯爵様…、貴方は貴方を夫として覚えていないような、こんな狡くて厄介な女を、お側においてくださるのですか?」
真剣に訴えかけるコンスタンスを前に、オレリアンは一瞬言葉を失った。
そしてあらためて思ったのは、
(もう、俺の知っているコニーは居ないのだな)
ということだった。
今のコンスタンスは、自分の中では16歳になったばかりだと言う。
当然、オレリアンと蜜月を過ごした、自由闊達な『7歳のコニー』はもういない。
そして、何もかも悟ったような目をしていた、あの、オレリアンと結婚した当時の『18歳のコンスタンス』とも違っていた。
今の彼女は、真剣に『これからの自分』をどうするか考えている。
貴族の令嬢が一人で生きていくのは難しく、結局は実家や婚家で生きていかなければならないから。
だから、結婚をこのまま続行することを望めば、それはオレリアンに対して『狡い考え』だと思いこんでいる。
オレリアンはフッと肩の力を抜き、表情を和らげた。
何歳であっても、例え彼女の中に自分の記憶がなくても、それでもやはりオレリアンは、目の前のこの女性が愛おしいと思った。
表情も、紡ぐ言葉も違うが、彼女は紛れもなく自分が愛し、慈しんだ少女なのだ。
だから、強く思った。
彼女を守りたいと。
オレリアンはソファから立ち上がると、コンスタンスの前に移動した。
驚いたコンスタンスが立ち上がろうとするのを押し留め、その前に跪く。
「私の心は最初から決まっています。
貴女が私の隣を選んでくれるなら、私はその座を死守するでしょう。
もし、許されるなら…、出来ることなら…、私は貴女と死がお互いを分かつまで、共にあることを望みます。
コンスタンス。
どうか私のところへ戻って来てください」
目の前に差し伸べられた手を見て、コンスタンスは戸惑った。
これほど真摯に、真っ直ぐに想いを伝えられたのは初めてだったから。
「私は貴方と夫婦だったことを何一つ覚えていないのですよ?
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「王族や貴族なら、結婚式で初めて顔を合わせる夫婦だっています。
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「ええ、結婚していることはひとまずおいておきましょう。
私とお付き合いしてください、コンスタンス嬢」
コンスタンスは、自分を真摯に見上げる蒼い目を見つめた。
その目はいつか見た深い湖のような澄んだ蒼色で、コンスタンスはそれを知っているような気がした。
「はい、よろしくお願い致します」
コンスタンスが差し出された手の上に自分の手をのせると、オレリアンは柔らかな笑顔を見せた。
その笑顔も、コンスタンスは知っているような気がした。
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