世話好きな不死鳥に拾われました!

のは(山端のは)

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じゃあね

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 わあ、騒ぎになってる。
 ヴェルが俺を抱えて飛んでいくと、村の人たちは普通に襲撃と勘違いした。

「弓を持ってこい!」
「ちょっと待って、攻撃はやめて!」
 俺のほうも声を張り上げるけど逆効果みたいだった。
「コイツ、人を抱えているぞ」
「俺たちを食べる気だ」
「子供たちを逃がせ」

 なんてますます恐慌状態になり、何なら弓矢も飛んできた。
 ヴェルにとってはハエにたかられるくらいの煩わしさだろうけど、俺にとっては恐怖だ。それでも必死に悲鳴を飲み込んだ。
 自意識過剰かもしれないが、「ひなが泣くから」とかいう理由で、ヴェルが村人を攻撃してしまうのはもっと怖い。

「ヴェル、ごめんね。みんな怖いだけなんだ。ヴェルは強すぎるし……」
「わかっている。ひなを泣かせるようなことはしない」

 ヴェルは地面に降り立つなり人の姿に変わった。
 村の人たちが弓矢を構える前に、俺は両手を上げて声をかける。
「待って! 攻撃しないで、俺だよ!」

「ルアーカ、か? 死んだんじゃなかったのか」
「魔物が化けているんじゃ」
「驚かせてごめん、イシャズに会いに来たんだ。済んだらすぐ帰るよ」

 村人たちは互いに顔を見合わせ、俺をどうするか決めかねているようだった。
 そんな中、イシャズの父親が進み出てきた。
「本当に、ルアーカなのか」

「村長、危険です」
 幾人かは彼を止めようとしたが、村長は首を振った。
「イシャズに会ってどうする」
 俺はちらりとヴェルを見上げ、それから村長にうなずいて見せた。

「彼なら、治せるかもしれないんだ」
「なんだって……」
「これまでの恩を返したい」

 わずかな逡巡の末、村長は俺たちに背を向けた。
「ついてきなさい」
 イシャズの母と顔を合わせると、彼女は俺を見て悲鳴を上げた。
 ずいぶんと憔悴した様子が気にかかり、言葉をかけようとしたのだが拒否されてしまった。
「近寄らないで! 化け物!」

 投げつけられた言葉に、俺はうつむいた。
 やっぱり、警戒されるよな。
「いまごろ何をしに来たの、イシャズを連れていくつもりなの!」
 家族みたいに接してくれた思い出があるから、つらくないといえば嘘になる。
 だけどイシャズを大切にしているからこそだろう。
 
「あの子に近寄らないで!」
「よさないか、どのみちあの子はもうだめだ。高名な魔術師が匙を投げたんだぞ。だったらせめて、イシャズの願いを叶えてやろう」
「イシャズの願い?」

「そうだ、あの子は、君に会いたがっている」
「どなたかは存じませんが、息子を、イシャズを助けてください」
「勘違いするな。私が叶えるのはルアーカの望みだけだ」

 ヴェルは村長を冷ややかに見下ろした。普段の態度とあまりにも違うので、びっくりしていたら、ふわりと微笑まれてしまった。
 そうか、本当に、俺のためにここまで来てくれたんだ……。
 わかっていたはずなのに、今頃じわじわときた。
 甘えることに慣れ切っちゃってるぞ。

 でも実際今は、彼だけが頼りだ。
「イシャズに会わせて……。じゃないと、助けられるかどうかもわからない」

 そのとき、奥の扉がガチャリと開いた。銀髪に青い瞳の少年が顔を出す。
「ル、ルアーカ……」
「イシャズ!」
 彼が床に崩れ落ちたのを見て、俺が駆け寄るよりも早く、母親が彼のそばに膝をついた。
 だが、イシャズの目はまっすぐ俺に向けられていた。

 その視線に勇気づけられて、俺は彼のもとへ歩み寄った。
 怖がられても、もう二度と会えなくても、彼が死んでしまうよりもずっといい。

「ルアーカ! 無事だったんだな!」
「イシャズ」

 俺はイシャズに手を伸ばしかけて、そっと引っ込めた。母親に睨まれたからというよりは……、今の自分が、触れてもいいのか迷ったのだ。
 そしてイシャも、半端に上げかけた腕を振るわせた。

「……ルアーカ? 本当に、ルアーカなのか?」

 彼も気づいたんだろう。俺がもう、元の俺ではないことに。
 俺はへにゃりと笑って、ヴェルを見上げた。

「紹介するよ、彼はヴェル。――精霊なんだ。イシャズの魔力の捻じれ、彼なら治せるかもしれない」
 彼らの前でヴェルを不死鳥と呼ぶのはやめておいた。
 不死鳥の卵は長らく人間たちの間で万病の薬と伝えられている。

 この村では伝承が歪んだのか、別の魔獣を不死鳥と呼んでいたけど。
 どちらにしても、ヴェルのもとへ、人間が押しかけてきたら迷惑がかかる。
 ただの人間が、彼の巣まで無事にたどり着けるとも思わないけど。

「ヴェル、どうかな」
「やってみよう。――邪魔だ、下がれ」
 王様のように命じても、イシャズの母は我が子を抱きしめたまま動かなかった。村長が説得してなんとか引き離す。

 ヴェルはその間怒るでもなく、俺にこっそり話しかけてきた。
「あれは親子か」
「うん、そうだよ」
「ふむ、やはりな」

 芝居でも見ているかのように、楽しげですらあった。
 ヴェルにとっては人間に恐れられることなど、どうでもいいらしい。
 それはよかったけど……。本題を忘れてないよね?

 心配になって彼の袖を引っ張ると、ヴェルは「ああ、そうだったな」とうなずいて、イシャズの前に立つ。
 そして彼の前に手をかざした。

 すると俺にも、イシャズの中にある、ぐしゃぐしゃに絡まった青い糸のようなものが見えた。ヴェルの指先からあふれた光が、絡まった糸をするするとほどいていく様子も。

 五つ数えるまでもなく、ヴェルは静かに手を下ろす。

「すんだ。帰るぞ」
「早いね」
「魔法は私の領域だ」
「そっか」

 実際見ていたから納得できたけれど、本当にあっけなく終わってしまった。
 チラリとイシャズを見ると、彼は自分の両手をしげしげと見つめ、「嘘だろ……」と困惑した様子だった。
 それでも、顔色は幾分マシになった気もするし、呼吸も楽そうだ。
 もう、大丈夫そうだ。

「よかったね、イシャズ、これで魔法使いになれるよ」
「ルアーカ……」
 
 青い瞳に涙をためて、彼はじっと俺を見た。
 初めて会った時も、こんな顔をしていたっけ。
 食べるものもなく体力も尽きて、地面に倒れてぼんやりしていた俺を見て、泣くのをぐっとこらえて大人を呼びに行ってくれた。

 いつもその背を見ていた。
 村に馴染めず、嫌がらせされていた時も。独り立ちしてからも、それとなく様子を見に来てくれた彼を見送るときも。

 まっすぐ瞳を覗き込むのは、あまりにも照れくさくて。
 ああ、俺、イシャズのことが好きだったんだ。
 自分の命と引き換えにしてもいいくらい。

 その時、ヴェルが後ろから俺をぎゅっと抱きしめた。
「早く帰ろう」
 もはや歩かせてももらえない。そのまま連れ去られる前に、俺はもう一度だけ振り向いた。

「じゃあね、イシャズ、元気で!」
 たぶん俺はもう、人里では暮らせない。
 彼の名前をこうして呼ぶのも最後になる。



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