世話好きな不死鳥に拾われました!

のは(山端のは)

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人間らしい羞恥心

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 雨の日は少し気だるい。だから不死鳥の姿のヴェルと、寄り添うように過ごしている。
 こんなふうに何もせずウトウトするだけの一日なんて、人間だったころには体験したこともなかった。

 とはいえ、少し暇だなと思いかけたその時、ツピツピと声がした。小鳥が洞窟の中へ迷い込んで来たようだ。
「ヴェル、見てよ。可愛いよ!」
 するとヴェルは片目をちょっと開けてすぐに閉じた。
 黄色い小鳥は俺たちを怖がることもせず、ヴェルの前にぴょんぴょん進み出て、お辞儀をするように「ツピ!」と鳴いた。

「か、可愛い!」
 俺はヴェルの羽の中から這い出して、猫みたいな恰好のまま、そっと小鳥に指先を近づけた。
 すると、ちょんとくちばしで答えてくれた。悶えちゃうくらい愛らしい。
 小精霊たちも、ヴェルの羽の間からチラチラ覗いている。

 向こうも俺を楽しませようというのか、飛んだり跳ねたり羽を広げたりしてくれた。
 夢中になりすぎて、いつのまにか俺までおしりを振っていたら、人型のヴェルにひょいと抱き上げられた。

「いつまでそれに構っているんだ。雨はもう上がった」
 ヴェルがおざなりに手を振ると、小鳥は飛んで行ってしまった。
「なんだよ、じゃあ、ヴェルが遊んでくれるの?」
「いいだろう」

 ヴェルはゆったりとうなずいた。いいんだ……。忍び笑いをこらえきれなかった。
 するとヴェルは俺の髪に指を突っ込んでわしゃわしゃとかき乱しながら言った。
「どうした、鳴いてみろ」
「え、俺が鳴くの?」
「当然だろう。鳴くのはひなの仕事だ」

 性懲りもなくひな扱いしてくるので、くるりと振り向きざまにキスしてやった。
 そうだ、今度からひなって呼ばれたらキスしてやろう。ひそかに決意しながら、暇つぶしにリィが持ち込んだ布を眺め、ヴェルに似合いそうなのを適当に当ててみたりした。

 そこへ底抜けに明るい声が響いた。

「ヴェルー! キタヨー!」
「わっ! やば!」
 散らかしっぱなしにしていた布を、慌ててかき集める。
 リィはこちらをチロっと見たものの、ヴェルを見た途端、自分が持ってきた布までぼとぼとと床に落とした。
「ヴェル……なんだかマリョクが」
「魔力?」
 首をかしげる俺を、リィはまじまじと見たかと思うと、ヴェルと俺を交互に見比べた。
 なんだろう。
 
「リィ」
 ヴェルが呼びかけても、目はきょろきょろしていて、ずいぶん戸惑っているようだった。
 だけどヴェルが一言、
「服を寄こせ」
 と言えば、たちまち彼の瞳に輝きが宿る。

「え!? キテくれるノ?」
「見たい!」

 そこからは、大騒ぎだった。
 ヴェルがはらりとローブを床に脱ぎ捨て、紐やらボタンやらを外して胸筋や腹筋のくぼみを見せたあたりで、耐え切れなくなった。

「きゃーっ!!」
「キャーッ!!」
 叫んだのはリィと同時で、顔を覆ったつもりで指の間からしっかり見ている仕草までおんなじだった。

 ヴェルはチラリとこちらを見て呆れたようにつぶやいた。
「……騒がしいな」
 そして着る予定の服を次々つまみ上げたかと思うと、ボッと燃やしてしまった。
「ヴェル!?」

 焦っているのは俺だけで、リィはむしろ身を乗り出しているし、ヴェルは自信ありげに俺を見た。
 息を飲んで事の次第を見守っていると、ヴェルが手を一振りした。
 彼の周りを小精霊たちが盛んに飛び回ったと思ったら、次の瞬間には服が変わっていた。
 ヴェルはまるで戦にでも行くような黒のロングコートに、真っ黒なブーツを着ていた。
「わっ!」
 と思った時には、真紅のローブに代わっている。その次は青のチュニックと目まぐるしい。

「マッテマッテ! モット ゆっくり ミセテ!」
 リィの言葉に完全同意だ。
「うん。もっと見たい」
 すると彼は満足そうに微笑んで、今度は心行くまでその姿を眺めさせてくれた。
「ヴェルは何を着てもかっこいいよ!」
「ルアーカ、次はおまえが見せてくれ」
「え、いや……」

 もっとヴェルを見たいんだけど、着られるなら服を着たいという気もする。やっぱりまだ、人間らしい羞恥心が残っているみたいだ。

「リィ、ルアーカの分もあるんだろう?」
 嬉々とした表情で話を向けられて、リィはあからさまに不服そうな顔をした。
「ソリャ、あるケド……」
 などと言いつつ、俺に袋ごと手渡した。
「さあルアーカ、次はおまえの番だ」
「俺はその……、あとでもいいって言うか」

 もっとヴェルを見せろという、リィからの圧も感じるし。
「私の後ろで着替えろ。リィ、見るんじゃないぞ」
「ふん、ミナイヨ そんなの! オモシロクもなんともない!」
 そう言ってリィはそっぽをむく。一方ヴェルは後ろで着替えろと言った割に俺のほうを見ている。
「ヴェル? 自分で着られるよ」

 なんせ俺は、相変わらず布一枚巻き付けているだけなのだ。脱がされるほうは一瞬。
 うう、下着が欲しい。
 半泣きで袋に手を突っ込んだら、求めていたものが出てきた。

「リィ、下着も入れてくれたんだ、ありがとう!」
「デてクルな!」
 素っ裸のまま顔を出したら叱られてしまった。それでも、ぱんつを手にした感動は去らない。いや、握りしめてないでさっさと履こう。
 ヴェルが手を出したそうにしている。

 リィが用意してくれたのは、白いシャツと茶色のチュニック。裾に着けられた赤い縁取りや、金縁の赤いボタンがおしゃれだった。
 もそもそ着込んでいると、待ちきれなかったらしく、ヴェルが服のボタンを留めてくれた。

「よく似合っている」
「ボクのミタテだからネ」
 胸を張るリィにも見てもらいたくて、俺は彼の前に進み出てくるりと回ってみた。
「ありがとう、リィ、大事に着るよ」
 またツンツンするんだろうなと思っていたのに、リィは予想に反して顔をうつむけた。
 そしてヴェルを見て、口を開きかけ、結局何も言わず閉じてしまう。
 彼はキュッとこぶしを握り締めるのを、俺は見た。

 「カエル!」
 リィは叫んで、突然こちらに背を向けた。

「え、どうしたの!?」
 あまりにも様子がおかしいから、とっさに追いかけようとしたのだけど、ヴェルに引き留められる。
「放っておけ」
「だけど」

 振り返る前に一瞬だけ見えた、リィの表情が気になった。
 なんだか、傷ついているようだった。
 ……俺のせい、なのかな。
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