世話好きな不死鳥に拾われました!

のは(山端のは)

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何かしたい

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 きっかけは指だった。
 いつものように、ヴェルから水を飲ませてもらっていた俺は、彼の指を捕まえて「ん?」と眉を寄せた。
「なんか、ヴェル、痩せた?」

 頬も少しこけた気がする。そろりと腕を伸ばしたら、彼はいたずらをするように手のひらにキスをした。
「もう満足か?」
 微笑むヴェルはいつも通りゆったりしていて、特に体調が悪いようにも見えなかったけれど……。
 思えば彼は、俺のお世話ばかりで、自分の食事や休息をおろそかにしているんじゃないか。

 気づいてしまったら、落ち着かない気分になった。

「ヴェル、ちゃんと寝てる? 何か食べたいものはない?」
「どうした、食べたいものがあるのか?」
「いや、俺じゃなくてヴェルの食べたいもの!」
「特にないな」

 考えるそぶりもなく言われて、俺は口を尖らせた。
 するとヴェルは少し困った様子で俺の頭をなでる。

「食事が必要なのはひなのうちだけだ」
「じゃあ、俺がヴェルのためにできることはないの?」
「ここにいるだけでいい」

 ヴェルはたぶん、本心から言っているんだと思う。
「そりゃ、ひなならそれでいいと思うけど……」

 だけど、なんの手立ても浮かばないのだ。
 気づけば、ヴェルは鳥になってウトウトしていることが増えてきた。
 小精霊たちに尋ねてみてもピカピカ光るだけでさっぱりわからない。

 ……あの日のことが、原因なんじゃないかな。
 俺は地べたに座り込んでじっと考え込んでいた。
「俺を食べる予定だったのに、途中でやめたから、不完全燃焼を起こしたとか?」

 精霊のことはほとんど知らないから、わからないからこそ、ばかばかしい妄想も捨てきれない。
 あの時、ヴェルが俺を食べるために炎を出して、それを変にこらえたから発情した。
 そのうえ、最後までせずに俺が寝ちゃったから余計にマズかったんじゃないかって。
 なんなら、今も堪えているのかも。

「俺がヴェルに抱かれれば、ヴェルは元気になる?」
 独り言に答えたのは、小精霊たちだ。
 わっと俺の周りに集まって、はやし立てるみたいに動き回った。
「え……? 本当に?」
 俺は頬を押さえた。

 となると、誘惑の必要があるかな。だけど、俺の素っ裸を見ても、ヴェルは冷えると心配してもムラっとは来ないみたいだし……。
 悩んでいると、視界の端で小精霊が二匹、くっついたり離れたりしていた。あれは、ひょっとしてキスのつもりだろうか。
 からかわれている……よなぁ。

「あー、もう!」
 俺はごろんと地べたに寝転がった。
 こうして一人で騒いでいても、ヴェルはくちばしを背中に突っ込んで眠るばかりだ。

 落ち着かない時間を過ごしていたところに、リィがやってきた。

「ヴェルがなんか、調子悪そうなんだ! 俺にできることないかな」
 彼の顔を見るなりそう詰め寄ると、リィは口ごもった。
 ズケズケ言うような印象だったから、その態度に少し違和感を覚える。
 知っていて、隠しているんじゃないかって。

 だけど聞かずにはいられなかった。
「ヴェルはどうしちゃったのかな。俺、心配で」
「……ヴェルはキミに、なにかハナシた?」
 俺は力なく首を振った。
「大丈夫だって繰り返すだけ」
「ふーん……カンモウキじゃない?」

 その言い方がすごくおざなりに聞こえて、俺はびっくりした。
「リィ、まだ怒ってる」
 リィは眠るヴェルをじっと見つめた。
 俺と会話しているというよりは、ヴェルに愚痴を聞かせているみたいだった。

「ボクはヌノがスキ」
 彼はぽつぽつと語った。布が好きで、ヴェルに服を着てもらいたかったって。でも、ヴェルはちっとも興味を示してくれないって。
「でもヴェルは、キミのためならキカザるんだ……」
 そうして俺をチラリとみて弱弱しい笑みを浮かべた。
「タベラレチャウとおもったのになあ」

 俺は実際、ヴェルに食べられかけたけど、それを言う気にはなれなかった。
 先ほどの浮かれた思い付きをリィに聞かせるのも無理だ。

「となるとやっぱり、食べ物でも取ってくるしかないんじゃないかな」
 それくらいしか、俺にできることが思いつかない。

「リィはヴェルの好物って知ってる?」
「トリに、イクつもりナノ?」
「うん、何かしたいんだ。ヴェルのために。――おいしいものを食べたら、ヴェルも少しは元気が出るんじゃないかな」
 ひなの間しかものを食べないと言っていたけど、好物なら別なんじゃないかな。

 リィは少し考えて小さな声でつぶやいた。
「……アオいネズミのニク」
「ああ、藍色ネズミのことかな」

 不死鳥……いや、火羽鳥が、よくネズミをさらっていたっけ。ヴェルも好きなんだ。
「あれなら、俺でも狩れそうだな」

 村にいた頃も、狩りに参加したことがある。
 チラリとヴェルの様子を見ると、彼はやっぱり目覚めない。

 洞窟の外は、平らな岩棚になっていて、ヴェルが鳥になって飛び上がれるくらいの広さがある。
 そこから下をのぞきこむと、冷たい風が頬に吹き付けていった。
 ヴェルのそばはいつも暖かい。ただ一緒にいるだけで、常にヴェルは俺を守っているんだ。

 俺はふんと鼻息を荒くして、ますます決意を固めた。

 人間だったころは、絶望的に高いと思った崖だけど、今は全然怖くなかった。
「うん、降りられそうだ」
 小精霊たちが引き留めるように俺の周りを飛んだ。
 リィも何か言いたげに俺を見つめていた。だけど俺と目が合うとふいと顔を背ける。
 俺は苦笑いを無理やり笑顔に変えて、明るい声になるよう意識した。

「心配いらないよ。ヴェルが目覚める前に帰ってくる。俺だって、ヴェルのために何かしたいんだ」

 
 崖を降りるのは思ったよりも簡単だった。体が驚くほど軽いのだ。
 岩に手や足をかけて、するすると降りていけば、あっという間にもう地面だ。
 ヴェルが力を分けてくれたみたいだった。
 小精霊たちはここまではついてこなかった。

「よし、行こう!」
  数歩進んだところで視線を感じて振り返る。 リィが俺をじっと見つめていた。

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