世話好きな不死鳥に拾われました!

のは(山端のは)

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余計なこと

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 しばらく歩いてネズミの巣を見つけた。
 群れに飛び込むのはさすがに危険なので、一匹になるのを待って、仕留める。
 武器を使おうとか考えずに、気づけば爪でネズミを狩り取っていた。

 そして自分の行動に、自分で引いてしまった。
「うわあ、俺、こんなことができるんだな……」
 できないよりはできるほうがいい。だけど、人間らしさから遠ざかっている気がして、少し寂しかった。
 ため息をついて、余計な考えを追い払った。

「ところで、ヴェルが食べるのって生肉かな、料理したほうがいいのかな」
 そこらへんもちゃんとリィに聞いてくるんだった。

 自分のうかつさを呪いながら重たい塊を抱える。いくらも歩かないうちに、ザワッと嫌な感じがして俺はとっさに身をかがめた。
 火羽鳥が俺に飛びかかってきた。獲物を横取りしようというのだろう。
 
 どうする、ネズミは諦めるか……。
 迷っているうちに、鋭い爪が俺の肩をかすって、獲物を取り落としてしまった。
 それでも、火羽鳥はネズミではなくまだ俺を狙ってきた。

 まさか、俺まで餌扱いされている!?
 慌てるあまり、ずるっと足を滑らせる。
 爪が眼前に迫ってもう避けられないと思ったその時、あたりがゴウッと燃え上がった。
 火羽鳥も、ネズミも、俺も。

「うわっ! 熱っ――くない……?」
 バサッと羽音をさせて地面に降り立ったのは、不死鳥から人に姿を変えたヴェルだった。
「ルアーカ!」
「ヴェル!」

 駆け寄ってくるヴェルに視線を向ける途中、視界の隅に入ったのは黒焦げの死骸が二つ。
 俺にとっては心地良いヴェルの炎が、魔獣にとっては脅威になるんだ。ごくりと唾を飲み込んだ。


「ルアーカ! 怪我を!」
「え? ああ、かすり傷だよ――って、リィに貰った服が!」
 破けているし、血だらけだ。
「リィ……、そうか」

 ヴェルは顔つきを厳しくして、俺から目を離さないまま叫んだ。
「リィ、いるんだろ!」
「え?」
 ぽかんとしていると、草むらから本当にリィが出てきた。

「リィごめん! 服破いちゃった!」
 すると彼はなぜか、うろたえたように顔をそむける。
「説明しろ、リィ。なぜルアーカがネズミなんか狩っている」
「なんでリィに聞くの? 俺に聞かなきゃ」

「リィはヴェルの好物を教えてくれただけで、勝手に抜け出したのは俺なんだから」
「……好物というのはまさか、あのネズミのことじゃないだろうな」
 ヴェルの目がほんの一瞬そらされて、また俺をじっと見下ろす。
 視線の強さにほんの少したじろぎながら、俺は首を傾げた。

「ちがうの?」
「ルアーカ、聞いていなかったのか? 私は今、人間のようにものを食べる必要がないんだ」
「生肉も?」
「おまえはあれを食べたいと思うか?」
「生はちょっと……」

 とはいえ、こんがり焼けていても、あまり食べたいとは思えず首を振った。
 人間だったころなら、ごちそうだと喜んだに違いないのに。

 話しながらも、ヴェルはどうしても俺の怪我が気になるらしい。リィが見ているというのに、肩口に唇を寄せた。
 ところが、「ワッ!」と叫んだリィは俺とは全然違うことが気になったようだ。
「ソンナことシタラ、マスマス!」
 ますます? どういうことか聞きたかったのだけど、ヴェルが低く脅すような声でリィを叱った。

「リィ、どうしてルアーカにでたらめを教えたんだ」
 リィは服の裾をキュッとつかんで震えていたが、やがて自棄のように声を荒げる。
「だって、ルアーカルアーカって、ちっともボクとアソンでくれナイじゃないか!」
「ひなを優先するのは当然だ」
 ヴェルときたら、リィのほうを見もせずに即答した。
 集中して何をしているのかと思ったら、どうやら俺の服にしみ込んだ血の汚れを、少しずつ炎で清めてきれいにしている。

 俺はハラハラと二人を見比べた。
 リィはかすかに震えている。喉が膨らみ、緑のうろこが真っ赤に染まった。
「ヴェル、あれ、ちょっとマズいんじゃない?」

「ヴェルのバカ!」
 叫ぶと同時にリィはボワッと炎を吹いた。
 それでも、本気で傷つけるつもりなど端からなかったのだろう。炎がこちらに届くことはなかった。

 ただ、リィはこちらに背を向けて駆け出していた。

「ヴェル、追いかけて仲直りしなきゃ!」
「どうせ忘れて戻ってくる」
 面倒そうに手を振って、ヴェルはあくびをこらえるように口元に手をやった。
 ヴェルとリィ、どっちも心配だったけれど俺は結局ヴェルとともに巣に戻った。

 ヴェルはすぐ鳥型に戻って丸くなった。
「ヴェル、具合が悪いんじゃないんだよね?」

 その日以来、ヴェルはますます眠っている時間が増えた。
 そして目覚めるとすぐ、俺のことを探す。ときには、半分眠りながら俺に水を与える。
 水ぐらい自分で汲みに行けるけれど、俺がそばにいないことのほうが不安だと言う。

 ヴェルを助けるつもりだったのに、余計なことをしてしまったんだ……。
 だから俺は、どこにも行かず、おとなしくヴェルのそばで丸まった。

 顔に何かがふわふわ当たってくすぐったかった。
 目を覚ますと、小精霊たちがかわるがわる俺の顔や手に体当たりをしていた。
「なに、どうしたの……?」

 眠たい目をこすりながら、体を起こして、俺はすぐに異変に気付いた。
「ヴェルは?」

 彼が眠っていたはずの場所に、羽根がごっそりと抜け落ちていた。ぞっとする光景に、たらりと冷や汗が背中を伝った。

「ヴェル……? どこへ行ったの?」
 なんとなく、大きな声を出すのも恐ろしく、俺は巣の中を見回した。
 洞窟内はしんと静まり返っていた。

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