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モフモフ
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「ヴェル!」
慌てて外へ飛び出そうとする俺を引き留めるように、背後で「ピイ!」と声が聞こえた。
「……え?」
振り返ると、てっきり抜けた羽の塊だと思っていたところから、小鳥が這い出てきた。
「ピイピイ!」
ヴェルの髪の色と同じ、ピンク色の羽に、オレンジの瞳に青い瞳孔。
「まさか……、ヴェルなの?」
「ピイ!」
「えええええっ!! ヴェルがひなになっちゃった!」
手のひらにヴェルを載せたはいいものの、どこへ向かうべきかもわからずウロウロした。
すると小精霊たちまでぞろぞろと、俺の後ろに列を作ってついてきた。
「……うん?」
俺は瞼を半分下ろして小精霊たちを見つめる。
彼らの言いたいことは相変わらずよくわからないけれど、わかってきたこともある。
これは俺をからかっているときの行動だ。
そこで俺は、一度座ってじっくりとひなを観察した。大人のヴェルよりもずっと、モフモフしている。
体調は特に悪くなさそう。地面に下ろすと、ひょこひょこ歩き回った。
いったいどうしてこんなことに……。
頭をひねるうち、ヴェルが何気なく言った言葉を思い出した。
「たしか、魔力の調整でひなに戻ることがあるって!」
「ピイ」
正解だと言うように、小さいヴェルが鳴く。
俺はぶるっと震えた。
そんな場合ではないと思うのだけど、俺はどうしてもこみ上げてくる思いがあった。
「か、可愛い……」
口に出してしまったが、ヴェルは怒るでもなくしっぽをふって、ますます愛嬌を振りまいた。
「は、反則ぅ……」
これが夢中にならずにいられるだろうか。
今こそヴェルが俺にしてくれたようなことを、彼にもする時が来たのだと思った。
「食料を取ってくる!」
出かけようとすると、ヴェルは俺の頭にぴょんとのっかった。
「ヴェルは危ないから留守番!」
行ってみたものの、びっくりするくらい強い力で俺の髪をつかんでいた。
仕方ないので、頭にヴェルを載せたまま崖を降りることにした。
「ちゃんとつかまっててね」
ヴェルに言ったつもりなのに、なぜか小精霊たちまで俺の体に引っ付いた。
おまえら飛べるよな?
重たいわけでもないから、別にいいけど。
ヴェルは赤い木の実が好き。どんぐりは食べない。湧き水の在り処は小精霊たちが教えてくれた。
俺も飲んでみたけれど、普通に水って感じ。
ヴェルが指先に集める水はもっと美味しい気がする。
「俺にも水、出せるかな。うむむ!」
うなずいて指先に力を込めてみたものの、出せそうもなかったし、いつの間にか注目を集めていてちょっと決まりが悪かった。
次の日にはヴェルは二倍以上大きくなっていた。
まだひなって感じのふわふわ感だけど、頭に乗せるとだいぶ重い。
今日もまた、食料探しだ。
崖の下に降り立つと、ヴェルも俺の頭から降りて、ひょこひょこついてきた。小精霊たちも面白がってヴェルの後ろを低空飛行している。可愛いって言ってほしいのかな。
俺は道の途中で赤く色づいた落ち葉を拾った。
甘酸っぱくていい匂いがするけど、これは食べないらしい。興味本位でかじってみたけど、土の味がして残念だった。
ヴェルがびっくりした様子で羽ばたいて肩に乗り、しきりに口の中をのぞき込もうとした。
どうやら変なものを食べたと心配されているらしい。
少々反省した。
三日目の朝になると、ヴェルはさらに大きくなっていて、もう頭にのせるのは無理そうだった。
「今度こそ、ヴェルは留守番だよ。水を汲んでくるから待ってて」
そういうと、彼は文句を言う代わりに羽ばたいて、そしてコロンと人の姿に変身した。
ぶかぶかのローブを身にまとった三、四歳くらいの男の子の姿だった。
ぷにっとした頬や短い手足が非常に愛らしい。俺は自分の両頬を挟んで、叫びたいのを必死で堪えた。
「ヴェ、ヴェル~っ!」
モフモフひな姿も可愛いけれど、これはこれで可愛すぎる。
頭をなでようと思ったら、ひょいとよけられた。
「ルアーカ」
「声まで可愛い!」
身もだえていたら、ヴェルがふくふくした指を俺に突き付けてきた。
「うん?」
よく見ると、ヴェルは指先に水を溜めてくれたようだった。
「それはヴェルが飲むんだよ」
ヴェルが自分の指をちゅぱちゅぱ舐めるところ、絶対かわいい。網膜に焼き付けないと。
ところがヴェルはくるりと俺に背を向けて、洞窟の奥へ向かった。
布の山をかき分けると木箱が出てきて、彼はその中からきれいなグラスを取り出した。
「いや、グラスあったの!?」
俺の突っ込みに構わず、彼は淡々とした様子でグラスを炎で清め、水を注いで飲んでいる。
俺に指を吸わせていたのはいったいなんだったんだ!
軽く衝撃を受けて、俺はふらふらと木箱をのぞき込んだ。
「俺の分はないの?」
すると木箱の中からはいくつものグラスや食器が出てくる。
「あるんだー」
いつも、ヴェルが手ずから食べさせてくれてたから、てっきりそういう文化なんだと思っていた。
木箱を漁るうち、ひときわ俺の目を引いたのは、きれいな青いグラスだった。
ヴェルの瞳をのぞき込んだ時に見える、青い瞳孔に少し似ていた。
「すごくきれいだ……」
「使っていい」
子供には似つかわしくない落ち着いた声と態度だった。
中身はやっぱりヴェルなんだなと、分かり切ったはずのことなのに俺は妙に感心してしまった。
それでも、きれいだけど、やっぱり使おうという気にはなれない。
実のところ、こうして持っているだけでかなり怖い。
指を滑らせたらどうしよう。
おそらく、この木箱の中身すべて、ものすごく高価なものなんじゃ……。
陶器には細かい模様が描かれ、ガラスは薄く透明度が高い。
確かにしまっておくのが正解だと思う。
「それはもう、おまえのものだ」
「嬉しいけど、壊しそうだ」
「貸せ、壊れにくくなる魔法をかけて――」
言いかけて、ヴェルはぴたりと口を閉ざした。
それから非常に憮然とした顔で言った。
「もう少し大きくなったらかけてやる」
俺は笑いをこらえながら、そっとグラスを木箱に戻した。
「わかった、楽しみにしてる。……けど、小さいヴェルも可愛いけどね」
にへらと笑うと、ヴェルはムッと眉を寄せた。
「そう待たせはしない」
なんか、変な決意をしちゃったぞ。
慌てて外へ飛び出そうとする俺を引き留めるように、背後で「ピイ!」と声が聞こえた。
「……え?」
振り返ると、てっきり抜けた羽の塊だと思っていたところから、小鳥が這い出てきた。
「ピイピイ!」
ヴェルの髪の色と同じ、ピンク色の羽に、オレンジの瞳に青い瞳孔。
「まさか……、ヴェルなの?」
「ピイ!」
「えええええっ!! ヴェルがひなになっちゃった!」
手のひらにヴェルを載せたはいいものの、どこへ向かうべきかもわからずウロウロした。
すると小精霊たちまでぞろぞろと、俺の後ろに列を作ってついてきた。
「……うん?」
俺は瞼を半分下ろして小精霊たちを見つめる。
彼らの言いたいことは相変わらずよくわからないけれど、わかってきたこともある。
これは俺をからかっているときの行動だ。
そこで俺は、一度座ってじっくりとひなを観察した。大人のヴェルよりもずっと、モフモフしている。
体調は特に悪くなさそう。地面に下ろすと、ひょこひょこ歩き回った。
いったいどうしてこんなことに……。
頭をひねるうち、ヴェルが何気なく言った言葉を思い出した。
「たしか、魔力の調整でひなに戻ることがあるって!」
「ピイ」
正解だと言うように、小さいヴェルが鳴く。
俺はぶるっと震えた。
そんな場合ではないと思うのだけど、俺はどうしてもこみ上げてくる思いがあった。
「か、可愛い……」
口に出してしまったが、ヴェルは怒るでもなくしっぽをふって、ますます愛嬌を振りまいた。
「は、反則ぅ……」
これが夢中にならずにいられるだろうか。
今こそヴェルが俺にしてくれたようなことを、彼にもする時が来たのだと思った。
「食料を取ってくる!」
出かけようとすると、ヴェルは俺の頭にぴょんとのっかった。
「ヴェルは危ないから留守番!」
行ってみたものの、びっくりするくらい強い力で俺の髪をつかんでいた。
仕方ないので、頭にヴェルを載せたまま崖を降りることにした。
「ちゃんとつかまっててね」
ヴェルに言ったつもりなのに、なぜか小精霊たちまで俺の体に引っ付いた。
おまえら飛べるよな?
重たいわけでもないから、別にいいけど。
ヴェルは赤い木の実が好き。どんぐりは食べない。湧き水の在り処は小精霊たちが教えてくれた。
俺も飲んでみたけれど、普通に水って感じ。
ヴェルが指先に集める水はもっと美味しい気がする。
「俺にも水、出せるかな。うむむ!」
うなずいて指先に力を込めてみたものの、出せそうもなかったし、いつの間にか注目を集めていてちょっと決まりが悪かった。
次の日にはヴェルは二倍以上大きくなっていた。
まだひなって感じのふわふわ感だけど、頭に乗せるとだいぶ重い。
今日もまた、食料探しだ。
崖の下に降り立つと、ヴェルも俺の頭から降りて、ひょこひょこついてきた。小精霊たちも面白がってヴェルの後ろを低空飛行している。可愛いって言ってほしいのかな。
俺は道の途中で赤く色づいた落ち葉を拾った。
甘酸っぱくていい匂いがするけど、これは食べないらしい。興味本位でかじってみたけど、土の味がして残念だった。
ヴェルがびっくりした様子で羽ばたいて肩に乗り、しきりに口の中をのぞき込もうとした。
どうやら変なものを食べたと心配されているらしい。
少々反省した。
三日目の朝になると、ヴェルはさらに大きくなっていて、もう頭にのせるのは無理そうだった。
「今度こそ、ヴェルは留守番だよ。水を汲んでくるから待ってて」
そういうと、彼は文句を言う代わりに羽ばたいて、そしてコロンと人の姿に変身した。
ぶかぶかのローブを身にまとった三、四歳くらいの男の子の姿だった。
ぷにっとした頬や短い手足が非常に愛らしい。俺は自分の両頬を挟んで、叫びたいのを必死で堪えた。
「ヴェ、ヴェル~っ!」
モフモフひな姿も可愛いけれど、これはこれで可愛すぎる。
頭をなでようと思ったら、ひょいとよけられた。
「ルアーカ」
「声まで可愛い!」
身もだえていたら、ヴェルがふくふくした指を俺に突き付けてきた。
「うん?」
よく見ると、ヴェルは指先に水を溜めてくれたようだった。
「それはヴェルが飲むんだよ」
ヴェルが自分の指をちゅぱちゅぱ舐めるところ、絶対かわいい。網膜に焼き付けないと。
ところがヴェルはくるりと俺に背を向けて、洞窟の奥へ向かった。
布の山をかき分けると木箱が出てきて、彼はその中からきれいなグラスを取り出した。
「いや、グラスあったの!?」
俺の突っ込みに構わず、彼は淡々とした様子でグラスを炎で清め、水を注いで飲んでいる。
俺に指を吸わせていたのはいったいなんだったんだ!
軽く衝撃を受けて、俺はふらふらと木箱をのぞき込んだ。
「俺の分はないの?」
すると木箱の中からはいくつものグラスや食器が出てくる。
「あるんだー」
いつも、ヴェルが手ずから食べさせてくれてたから、てっきりそういう文化なんだと思っていた。
木箱を漁るうち、ひときわ俺の目を引いたのは、きれいな青いグラスだった。
ヴェルの瞳をのぞき込んだ時に見える、青い瞳孔に少し似ていた。
「すごくきれいだ……」
「使っていい」
子供には似つかわしくない落ち着いた声と態度だった。
中身はやっぱりヴェルなんだなと、分かり切ったはずのことなのに俺は妙に感心してしまった。
それでも、きれいだけど、やっぱり使おうという気にはなれない。
実のところ、こうして持っているだけでかなり怖い。
指を滑らせたらどうしよう。
おそらく、この木箱の中身すべて、ものすごく高価なものなんじゃ……。
陶器には細かい模様が描かれ、ガラスは薄く透明度が高い。
確かにしまっておくのが正解だと思う。
「それはもう、おまえのものだ」
「嬉しいけど、壊しそうだ」
「貸せ、壊れにくくなる魔法をかけて――」
言いかけて、ヴェルはぴたりと口を閉ざした。
それから非常に憮然とした顔で言った。
「もう少し大きくなったらかけてやる」
俺は笑いをこらえながら、そっとグラスを木箱に戻した。
「わかった、楽しみにしてる。……けど、小さいヴェルも可愛いけどね」
にへらと笑うと、ヴェルはムッと眉を寄せた。
「そう待たせはしない」
なんか、変な決意をしちゃったぞ。
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