中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた

Mr.Six

文字の大きさ
36 / 36

36話 鑑定屋の変人少女

しおりを挟む
 目の前にひっそりと建つ、【鑑定屋】――。どこから見てもお店と呼べるような風貌ではない。四方を高い建物に囲まれており、陽の光はほとんど差し込まない。じめじめと湿気がこもり、王都の華やかさとは無縁の空気が流れている。

 建物は木板を無造作に張り合わせたような造りで、ところどころ釘が浮き、壁の隙間からはわずかに風が吹き抜けている。入り口の上に掲げられた看板は片側の留め具が外れ、今にも落ちそうに傾いていた。

 扉は歪んでいて、ひと目で建付けの悪さがわかる。触れただけでギィッと悲鳴を上げそうだ。中に誰かがいるのかも分からず、不気味な静けさが漂っている。何というか、一言でいえばボロボロ廃屋といった感じだ。

「え~っと、鑑……定屋、店……主、ウィネラ」

 ブレイドを信じて、ここまで来てみたが、本当に大丈夫なのか? ただただ不安でしかないぞ。恐る恐る近づき、扉のドアノブをクルっと回す。

 ギィ―ッ……――

 うわ、怖っ。お化け屋敷じゃないよね? 扉を開けて中を覗き込むと、そこには、見慣れない品物が棚や、壁にびっしりと飾られている。現代でいう”雑貨屋”や”骨董屋”に近いな。ただ、違うのは――。

 そう、異形の形をしたものが置かれているという事だ。

 右の壁に視線を向ける。山羊の頭部に額には宝石のようなものが埋め込まれている。それに、指が3本しかない手や、人間程の大きさのある翼が釘で壁に打ち付けられ、禍々しさが店内に漂っている。

 左の棚には瓶に詰められた奇妙な数々、人の頭部程の眼球、得体の知れない舌が液体につけられ、青い液体に浸された草の瓶、他にもずらりと並んでおり、これもまた辛気臭い空気を放っている。

 そして、中央のカウンターの奥、壁に飾られている血の付いた鎧や、錆びた剣……。確かになんでも置いてあるし、お店である事は入った瞬間に理解したのだが……。

「う~ん、長居はしたくないかな」

 とりあえず、足を踏み入れよう。

 ミシィッ……

 床から悲鳴のような軋む音が響く。暗がりという事もあって、余計に恐怖心を煽ってくるな。店主の姿も見当たらない。どこかにいったのだろうか?

「すいませ~ん」

 声を掛けてみたが、返事はない。留守なのか? だとしたら店を空けるべきじゃないと思うんだが、不用心にも程があるだろう。

 そういえば、俺は金目になるものは持ってきてるのか? 来てみて金にならないんじゃどうにもならないだろう。とりあえず確認してみるか。

〈インベントリ〉
パン:12
木材:30
松明:32
木の棒:2
火打石:1
すり鉢:1
鉄のトラバサミ:1

―――

ベルナールの地図:1
蔓:8
腐った肉:1
回復薬:3

〈装備〉
右手 鉄の剣:59/100
左手 木の盾:3/10
頭 皮の兜:34/50
体 皮の鎧:34/50

 現状、金になりそうなのはトラバサミぐらいか……それに、ゾンビとマンイーターを相手にしたことで装備もそろそろ買い替えか、修理をしないといけない。王都に来てもやることは山積みってことかよ。

 まぁ、まずは資金を工面することと、ボルト山への経路を知ることだな。店主がいないんじゃ、仕方がない、改めて出直すとするか。ため息を吐き、後ろを振り返ろうとした瞬間、突然店の入り口が勢いよく開いた。いや、何かが扉をぶち破った。

 ガッシャーンッ!

「うおっ! な、なに?」

「うおぉぉぉー! ついに見つけた〈死霊の王冠〉! 持って帰れるとは、さすが僕、運がついておりますな~。ここまで長い道のりでありましたが、まぁ、その苦労に見合うだけの大変希少なレア素材ゲットです」

 そこに現れたのは、十五に満たない少女だった。

 ぶかぶかの帽子は絶妙なバランスを保ち、不思議と視界を塞がず、そこから覗く長い黒髪は大きめのツインテールに結われている。ぱっちりとした瞳の下には、並んだ2つの泣きぼくろ。小さな口からのぞく片方だけの八重歯が、彼女の愛らしさをさらに際立たせていた。

 レザージャケットに白シャツ、身の丈に合わない大きなズボンという装いは奇妙なのに妙に様になり、独り言を大きく呟く彼女は、他の人とは全く異質の独特な雰囲気を醸し出している。

「あ、あの~……」

 俺の言葉は彼女の耳には全く届かず、それどころか、存在すら認知されていないようだった。

「それでは、さっそく、これを鑑定しますかな~、待っててくだされよ~」

 彼女は、手に持った〈死霊の王冠〉と呼ばれる品を大切に胸に抱え、カウンターの裏に回ると、おもむろに虫眼鏡を取り出し、キャッキャしながら鑑定を始めた。

「おぉ~、なるほど、材質は”金”のように重く、そして、”ダイヤモンド”のような固さを誇る、特殊な材質……プガッ! は、鼻水が! いかんいかん、興奮して鼻水が止まりませぬぞ、鼻紙、鼻紙!」

 彼女は近くにある鼻紙を束ねた箱に手を伸ばし、鼻をかみながらも、鑑定を続ける。彼女がこの店の店主、ウィネラさんである事は確かなのだろうが、それにしても若すぎるだろ。その後も鑑定は続き、10分ぐらいすると、白い布にくるみ、高級そうな木箱にそっとしまった。

「ふぅ~、ランクはA、市場価値にしておよそ、金貨100枚といったところですかな? ……おや? 貴方様はどちら様で?」

 ようやく存在に気づいたらしい。額の汗を拭い、つぶらな瞳でこちらを見つめている彼女は、普通にしていると、天使のような美少女なのだが……。それでも独特な雰囲気をは隠しきれていない。

「あ、すいません……ここはアイテムを買い取っていただけると聞いたのですが」

 俺がそう話すと、目を変え、カウンターから飛出して、顔をグッと近づけた。身長が低く、必死に背伸びをしているのがなんとも愛らしい。

「むっ!? 貴重なアイテムをお持ちになられたのですが? どんな希少アイテムですか? 〈深海の宝珠〉? それとも〈大自然の幹枝〉? それともそれとも……!」

 なんとか聞き取れる早口でまくしたてられ、言いたいことがなかなか伝えられない。興奮しすぎて、鼻水が少し垂れている。相当希少品が大好きなんだな。

「いや、まだ買い取って欲しいものは持ち合わせていないのですが、例えば使い道とかも教えていただけるのかなと……ほら、鑑定屋と看板はありましたし」

 そう告げた瞬間、彼女の顔は潮が引いたように一気に冷め、肩を落としながら、ゆっくりとカウンター裏に回り込んだ。

「あぁ、はい……、一応鑑定はさせていただいてますが、どれを鑑定すれば?」

 うわ、いきなり塩対応。えっ? こんな急降下することある? 椅子に座って頬杖ついてるし。まぁ、期待をさせてしまった俺も悪いか。今のところ、使い道がわからないのはこの蔓だな。〈インベントリ〉から蔓を取り出した瞬間、またも目の色が変わる。

「むむっ、変わったスキルをお持ちで。どんなスキルなのですか?」

 へっ? 驚き方が他の人とは違うな。何というか、他の人は、動揺したり、驚愕したりするのだが……。まるで、酒場のマスターのように淡々と分析されているみたいだ。

「あぁ、いや。私にもさっぱりで、知らないうちにこういうことができるようになったというか」

「……なるほど、良ければ、貴方様のスキルも鑑定して差し上げましょうか? 銀貨5枚でどうでしょうか?」

 ほぉ、人のスキルも鑑定してくれるのか、この方は中々に凄い人なのかもしれない。アイテムだけでなく人間も鑑定できるとは。とはいえ、今は銀貨5枚もないし、お金が溜まれば見てもらってもいいかもしれない。

「いや、今は現金を持ち合わせていませんし、この蔓の使い道を教えていただければ……」

「ふ~ん、この蔓……マンイーターの蔓ですね。強度、柔軟性、共に優れていて、主に、弓の弦や、トラバサミの装置部分、他にも、ロープなんかにも活用できますよ、最近では武器の一部に滑り止めとして巻かれることもあるみたいで、〈滑り止めロープ〉に加工すればそれなりのお金になります。そのままだとあまり価値はありませんが、そうですね……銀貨2枚にはなりますね」

 俺はおもわず目を疑った。この少女、俺が手に持った蔦をパッと見ただけで、マンイーターの蔓だと見抜くなんて、それだけじゃない、使用用途、加工先、市場価値まで答えるなんて、とんでもない知識量だぞ。正直侮っていた……。

「凄いですね……見ただけでわかるなんて」

「……あぁ、まぁ」

 表情は変わらず冷たい。そこまで嬉しくないってことだろうな。それとも、それが彼女にとっては当たり前なのか。それにしても、この蔓が銀貨2枚に変わるのは悪くないな。

「よし、少し待っていてくれませんか?」

 俺は〈クラフト〉のタブを開き、木材を3つ消費して、作業台を即興でクラフトして、そのまま、床に配置した。作業台が無ければ、何もできないからな。そして、蔓を使って、〈クラフト一覧〉で検索していくと、確かに、〈滑り止めロープ〉を作ることができるのを確認した。

【滑り止めロープ】
必要資材:蔓2

 なるほど、ということは合計で滑り止めロープが4つできるのか。銀貨が8枚になるなら結構デカいぞ。早速作業に取り掛かろう。作業台の上に蔓を2個配置し、クラフトを開始すると、2つの蔓が互いを巻きつけながら、1本のロープに変化していく。細い糸が、少しずつ織り込まれ、太くなっていく。この様子をカウンター越しに眺めていた彼女は途端に態度を一変させた。

「むっ! そ、それは始めて見るスキルです! 一体、どんなスキルなのですか? ぜ、ぜひ鑑定させていただ――ふ、ふがっ! 鼻水がっ、鼻紙!」

 やけに慌ただしいなこの人は、興奮すると、鼻水が出てしまう体質らしいな。

「それは、構いませんが、お金がかかると……」

「そんなものいりません! 特殊なスキルはぜひ鑑定させた頂きたいのです! むしろ、お金を払わせていただきたい~、何卒~!」

 彼女はカウンターに身を乗り出し、何度も土下座をして懇願してきた。とはいえ、まだクラフトが終わっていない。少し待ってもらうとするか……。

「あの、とりあえず、クラフトが終わるまで待ってもらっていいですか? 多分、そんなに時間かからないので」

「ク、クラフトというスキルですか!? おぉ、中々にそそる名ですな~。これは興味深いですぞ」

 ちょいちょい、挟む、そのオタク口調は一体何なんだ? とりあえず、クラフトを終わらせるか。俺は一通り、蔓を滑り止めロープにクラフトした後、それらを〈インベントリ〉にしまいこみ、彼女に話しかけた。

「終わりました……え~っと、私は中島佑太と申します。この店のオーナー、ウィネラさんですよね?」

「そ、そうです! ウィネラ・フィリオスと申しまする。早速鑑定させていただけるので?」

 この人の頭には、もう鑑定のことしかないんだろうな。笑みを浮かべ、快諾すると、カウンターで何やらゴソゴソし始め、水晶玉を取り出した。

「それでは、両の手のひらに水晶玉を乗っけていただけますか?」

 言われるがまま、水晶玉を両手で持つと、途端にウィネラさんの漂わせる空気がガラッと変わった。まるで、水晶玉と会話をするかのように、視線、表情、空気、そのどれもが異質。水晶玉がほんのり光を帯び始め、何やら文字が浮かび上がる。

「こ、これは……――!」

 ウィネラさんが目を見開き、驚きの声をあげた――
しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

マイン
2025.10.18 マイン

20話

鍬の一本銅貨10枚で売ると決まったのでは?

「5枚じゃ安い10枚にしよう」と言ってたよね。

解除
マイン
2025.10.18 マイン

18話 感想

偽商人捕縛、兵士引き渡して経緯報告~
事件解決までが早すぎる。
まるでコントの様な感じですね。

解除
マイン
2025.10.18 マイン

16話 感想

店の商品を断り無しで勝手にインベントリに入れたら駄目でしょ。
万引きだよね?
鑑定の為と言っても駄目だと思う。
店の外に出ていなくても駄目
その行為はアウトかも。

解除

あなたにおすすめの小説

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲
ファンタジー
「普通がいちばん」と教え込まれてきた佐藤啓二は、日本の平均寿命である81歳で平凡な一生を終えた。 死因は癌だった。 癌による全死亡者を占める割合は24.6パーセントと第一位である。 そんな彼にも唯一「普通では無いこと」が起きた。 死後の世界へ導かれ、女神の御前にやってくると突然異世界への転生を言い渡される。 それも生前の魂、記憶や未来の可能性すらも次の世界へと引き継ぐと言うのだ。 啓二は前世でもそれなりにアニメや漫画を嗜んでいたが、こんな展開には覚えがない。 挙げ句の果てには「質問は一切受け付けない」と言われる始末で、あれよあれよという間に異世界へと転生を果たしたのだった。 インヒター王国の外、漁業が盛んな街オームで平凡な家庭に産まれ落ちた啓二は『バルト・クラスト』という新しい名を受けた。 そうして、しばらく経った頃に自身の平凡すぎるステータスとおかしなスキルがある事に気がつく――。 これはある平凡すぎる男が異世界へ転生し、その普通で非凡な力で人生を謳歌する物語である。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

yukataka
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。