中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた

Mr.Six

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35話 王都の何でも屋!?

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 さて、まず何から話すのがいいんだろうか? ソファに散らばった物を床に置いて、ゆっくりと腰を掛ける。といっても、なんでできるかなんて、本当に理解してないからな……。

「え~っと、そうだな。俺にもなぜできるのかわからないんだけど、俺は、物や武器を自由に出し入れすることができるみたいなんだ」

 俺は、ソファに腰かけたまま、〈インベントリ〉にしまった、鉄のトラバサミや木材を手に取り出し、実演して見せる。こういうのは”百聞は一見に如かず”ってやつだ。何度か見てるはずなのに、やはり理解が追いつかないのか、ブレイドはなおも口をポカンと開けて、驚きを隠せずにいた

「どうなってんだこれ……、出たり入ったり……」

「あとは、最近気づいたんだけど、手持ちも瞬時に変えれるみたい、剣と盾だけじゃないようだな」

 俺は左手に持った鉄のトラバサミと、右手の木材を瞬時に入れ替えて見せた。正直、俺もこの瞬間はゾッとするというか、気味悪いというか……。目の前でシュッと煙のように消えて瞬時に入れ替わるのは、全然慣れないな。

「これ、他にもできるのか?」

 ブレイドは少しずつ興味をだし始めた。正確には、この状況に馴染んできたというのが正しいのか? 他にできることと言えば、やっぱりクラフトだな。

「そうだな、その場で即興クラフトなんかもできるぞ」

「即興クラフト?」

「あぁ、例えば、こんな風に……」

 俺は〈クラフト〉のタブを開いて、〈木材:2〉を〈木の棒:4〉にクラフトした。目の前で木材が誰の手も借りることなく、淡い光に包まれて木の棒に変わっていく様子を俺とブレイドは終始眺めていた。やがてクラフトが終わった木の棒と木材をインベントリにしまい込む。あまりに突然の出来事過ぎて、ブレイドの口からは涎がたらーっと滴り落ちていた。顎でも外れたのかよ……。

「何が、どうなってやがるんだ?」

「さぁ……こればっかりは俺にもさっぱりだな。わかってるのは、アイテムを瞬時に自由に出し入れできる。身に着けてるものも瞬時に変更できる。素材と素材をクラフトできる。そして……――」

 俺は指を1つずつ立てながら、説明を続け、グリッドを意識すると、ブレイドが腰を掛けるベッドの壁際に先程クラフトした木の棒を配置した。ふいに視界に現れた木の棒を見て、ブレイドはビクッと反応すると、そのまま、後ろに転げ、ベッドから落下してしまう。

「な、木の棒が壁に!? しかも、微動だにしてねぇし……」

「う~ん、俺はアイテムを空間に”配置”できるみたいなんだ。力を加えれば、勿論とることはできるみたいだけど、と、まぁ、君が知りたいのは、このぐらいかな?」

 ブレイドはベッドの角を掴みながら、起き上がり、顎についた汗を腕で拭った。

「とんでもねぇな。マジで理解が追いつかねぇ。頭の中はどうなってるんだよ」

「いや、頭の中というよりは”視界”かな? ずっと俺の視界にこう~、文字が浮かぶって言うか……」

 俺は身振り手振りで伝えようとするが、どうも説明しづらい。いや、恐らく普通の人は説明できるわけがない、こんな非科学的なことなんて。天才のアインシュタインでもできないんじゃないか?

「それって、鬱陶しくないのか? ずっと視界にチラつくってことだろ?」

「まぁ、最初はね……わけわからなかったし、何度も指先で触れようとしたよ。でも今はかなり慣れたかな」

 俺は最初に来た時の出来事を笑いながら話した。そう、今では笑い話。あの時は無我夢中だったから、そこまで考える余裕はなかった。なんせ死にかけたからな……。

「そっか、アンタも色々大変だったんだな」

 ブレイドは、軽く息を吐き、ベッドに腰を掛ける。そういえば、俺も聞きたかったことがある。それは……。

「俺からも1つ聞かせてくれ。どうして、そんなに俺の事が知りたかったんだ?」

 やけに突っかかってきたことがどうしても気になっていた。それが功を指して、こうして宿に泊めさせてもらえているのだが、もしかして、深い理由でもあるのではないかと勘繰ってしまう。たとえば、昔に同じような人間にあったことがあるとか、もし、そうなら、聞いておいて損は無いし、その人がどうやってこの世界を生き抜いたのか参考にしたい。

 しかし、ブレイドから帰ってきた返答は、彼らしい最もな理由だった。

「あぁ、いつか俺のライバルになる奴なら、どう戦うのか知っておきたいだろ? アンタには負けたくないしな」

 すまん……いつから、俺は土俵に上げられてたんだ? しかもライバルだって? 勘弁してくれ、競争とかそういった類はしばらく願い下げだっての。俺は頬を引きつらせて、無理やり笑顔を作った。俺とブレイドの他愛もない談笑は続き、気づけば、二人で寝落ちしていた。

 鳥の可愛い鳴き声が部屋の中に届き、気持ちのいい朝を迎えた。窓から差し込む朝日に顔を照らされ、俺はゆっくりと目を覚ます。

「んん……ふあぁぁぁ」

 ソファの上で、両手足をまるで赤ん坊のように伸ばしながら欠伸をする。ゆっくりと起き上がり、首をポキポキ。ありとあらゆる関節が悲鳴のような音を鳴らす。さすがに35歳にもなると、体の節々が衰えますな……、年はあまりとりたくないものだ。

 チラッとベッドに視線を向けると、ブレイドはベッドに収まりきらず、なんとも不格好な寝かたをしている。片足はベッドからずり落ち、両手は万歳状態、挙句の果てには口から涎、そして鼻風船……。

「……きったねぇ」

 思わず、ドン引き。若いのに、これでは女性は寄り付かないぞ? まぁ、そんな俺も無精ひげを生やしたただのオッサンだがな。ソファから起き上がると、ベッドに近づき、ブレイドの肩を軽く揺らした。

「おい、朝だぞ。そろそろ起きないと、ダメなんじゃないのか?」

「ん……もう少し……」

 子供か。自分の子供を起こしているみたいで、イラっとする。俺はお前のお守りじゃないっての……。無性に腹が立った俺は、昨日クラフトした木の棒を2つ取り出し、彼の鼻の穴に入れると、大きく開けた口に引っかける。

 そう、ドジョウ掬いの完成だ。

 なんとも、おかしな顔で少しずつ笑いが込み上げてくる。笑い声で起こすと勿体ない、必死に笑いを堪えるが、見れば見るほど滑稽だ。彼は呼吸がしづらそうで、「フガッ……フガッ」と変な声を漏らす。やがて、力を入れ過ぎたのか、木の棒を折ってようやく目が覚める。パチパチと瞬きをしながら、こちらを見つめる。

「どうしたんだ?」

 それはこっちのセリフだ。キョトンとした表情を浮かべ、ツツーッと鼻から血が流れる。どうやら木片が鼻に刺さったみたいだ。これは痛いぞ……。そう思うと、我慢が出来なくなり、思わず吹き出してしまう。

「のわっ! なんだこれ、アンタ、なんかしただろ!」

「はははっ、あぁ……ちょっとな」

 腹を抱えて、笑う俺を軽く睨みつけながら、ブレイドは手で鼻を抑えながら、血を止める。しばらくしてから、宿を出る準備を整えた俺は、ブレイドと共に、宿を出た。

「ありがとう、助かったよ」

「あぁ、それより、アンタ大丈夫か? 今日以降の宿はどうするんだ?」

 言われてみれば、そうか……。元々、仮拠点を作るつもりでいたからな。しばらく王都にお世話になるのなら、宿も必要になってくる。ブレイドに何度も迷惑をかけるわけにもいかない。今の所持金では必ず野宿確定、さてどうしたものか……。しばらく考えたが、ここですぐに答えを出す必要も無いだろう。両手を上げ、肩をすくめると、笑みを浮かべて答えた。

「そうだな……、まぁ、なんとか工面するさ」

「あ、そうだ! ”鑑定屋”に行ってみたらどうだ?」

 ブレイドが、何かを思い出したかのように手のひらを叩いて、口を開いた。初めて耳にする言葉だな。

「鑑定屋?」

「クエスト広場の通りの狭い路地を進んだ先にある小さな小屋なんだけど、なんでもどんなアイテムも買い取ってくれるらしい。店主いわく『この世に無駄な物はない』とかなんとか……」

 へぇ、そんなところがあるのか。今の俺にはうってつけの場所だな。丁度、資金調達をしたいと思っていたし、ブレイドの言葉が正しいなら、その店主は物にかなり拘りを持っていると見た。それに鑑定もしてくれるってことは、俺の持っているアイテムが何に役にたつのか教えてくれそうだ。

「そうだな、今からちょっと立ち寄ってみるよ」

「おう! じゃあ、またな! 何かあれば、いつでも教えてやるからよ!」

 教えてもらったことはあまりないけどな。まぁ、ここでわざわざ喧嘩を吹っ掛けるような言葉をかける必要もない。ブレイドは満面の笑みを浮かべながら手を差し出した。まったく、彼にはムカつくことばかりだが、どこか憎めない性格というか、悪い奴ではないことは昨日の晩をともにしたことで理解した。俺は差し出された手を払いのけるような手は持ち合わせていない。ため息を吐きながらも、握手を交わし、ブレイドと別れた。

「さてと……確か、クエスト広場の路地だったよな」

 ブレイドの言葉通り、俺はクエスト広場の通りに向かった。相変わらず、大通りは凄い人混みで、体の弱い人は酔ってしまうだろうな。てか、今ふと思ったんだが、この世界には”曜日”なる概念は存在するのか? まぁ、どうでもいいことだが……。

 しばらく歩くと、狭い路地がいくつも現れる。しまった、ブレイドに通りの路地を聞いておくんだった。……こうなったら、しらみつぶしに探すしかないか、幸いまだ、時間はあるし、もう少し情報を集めておきたい。狭い路地に続く道は5つ、探す間、特に何も起こりませんように。

 まずは一つ目の路地、特に小さな小屋もなく、ただの行き止まり。ゴミ箱代わりの樽や木箱が乱雑に置かれていて、少なくともここでないことは確かだ。来た道を戻り、二つ目の路地へ、どうやらここはEの字の通路のようで、三つ目と四つ目の路地に繋がっているのがわかった。王都って意外に入り組んでいるんだな。建物の上には看板が掲げられており、どこも、夜に営業をするお店のようだ。

 となれば、最後の路地か。目線の先には小さな看板、まるで子供が立てかけたのかと勘違いしてしまいそうな程仕事が雑である。【鑑定屋・オールマイティ】か……、つまり、なんでもござれって意味なのだろう。狭い路地の隙間に顔を出して路地を覗きこむ。薄暗く、人気もまるでない。というより、ここの道は狭すぎる……。人が体を横にしてようやく通れそうな程狭い道、いや、これは道と言っていいのか? 巨漢には絶対通れない場所だな。よかった、まだ瘦せ型で……。路地に体を横向きにして、ちょっとずつ足を運んだ。身体を壁にこすりながら、ようやくたどり着いたそこは、ブレイドの言った通り、小さな小屋がポツンと佇んでいた。

「これ……本当に鑑定屋か?」

 建物の隙間から覗く、空には1匹のカラスが不気味に鳴き声を発し、俺の警戒心は頂点に達していた――
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