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34話 身震いするUIの使い道
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まさか、こんなところでまた出会うとは思わなかった。人に対してここまで嫌悪感を抱くとはな。酔いもそこそこに回ってきてるし、なるべく事を荒立てたくない俺は目を合わせることなく、路地を進む。
「おい、無視かよ!」
ブレイドは俺の後をついてくるが、構っている暇はない。とりあえず、インベントリを開けば、木材はあるんだ。拠点ぐらいすぐに作ってやるさ。そのためにも、早くこの男から離れないといけないんだが……。
「あそこのマスターの作るお酒はうまいよな、俺もたまに寄ることがあるんだ」
「へぇ」
俺は適当な相槌を挟み、歩くスピードを少し上げる。
「どうしたんだよ、そんなんじゃドラゴンの情報教えてやんないぞ?」
残念でした~。すでにドラゴンの情報は掴んでるんだよ、お前よりも確かな情報筋からな! と思ったが、多分悔しむだろうから伝えるのは止めておこう。俺は後ろを振り返り、勝ち誇ったような表情を浮かべた
「問題ない、他の方法で探すさ」
俺がそう言うと、ブレイドはため息を吐きながら、宿の入り口の前で立ち止まった。
「チッ、釣れない奴だな。まぁ、いいや、俺はここの宿だから、また会うことがあればいろいろと教えてやるよ」
何? 宿があるのか? こんな奴に、王都で宿に泊まるだけの資金力があると……。この時、俺の思考がフル回転する。クラフトで拠点を作ったとして、勝手に王都内に建物を作っていいものだろうか……と。日本であれば、土地の所有権を購入して、家の建築材料を購入してなど、色んな工程を挟んでようやく家を建てることができる。まぁ、俺の場合、最初が森だから、そこまで考えていなかったが、ここは王都だ。あとで厄介ごとに巻き込まれるのは御免だ。
だとするなら、あえてこの男に交渉を持ちかけるのは判断として間違っていないんじゃないか? 確か、UIについて知りたいって言ってたし、うん。これは彼を利用するとか、邪な気持ちがあるとかではない。いわば”助け合い”だ。俺はブレイドが宿に入ろうとするのを呼び止めた。
「なぁ……」
「ん?」
「その……なんだ。確か、知りたいことがあるって言っていたろ? 教えてやらんでもないぞ」
交渉下手くそか。あれ? こんなに話をするの難しかったっけ? なんで上から目線なんだよ。営業マンだったはずなのに、ブランクができたのか……いや、そうじゃない。俺は恐らく心のどこかで折れたくないって思っているんだ。プライドが邪魔をしてるってやつか。そういう気持ちが相手に伝わって今まで何度も契約失敗してきたのに、また同じことを繰り返すのか。
よし、ここは交渉を上手くいかせるために、ステータスの魅力に残った能力値振り分けを全振りして少しでも成功率をあげるとしよう。
魅力:16(9→16)
これで、全て使い切った。あとは、全力でぶつかるだけだ。俺は気を引き締めるため、眉間にしわを寄せる。プライドなんて、生きるために必要ない、それが俺のプライドだ! 声のトーンを落とし、手のひらを見せる。
「あ、いや。実は今、宿を探してるんだが、王都に来たのは初めてだからよくわからないんだ。君がよければ、相部屋にしてもらえないだろうか? そのかわり、昼のことについて話をしよう。どうかな?」
俺が誠意をもって伝えると、ブレイドはしばらく考えた。そして、首を傾げながら答える。
「それは良いんだけどさ、相部屋できるかわかんないぞ?」
「そこは問題ない、俺が交渉をする。後、大変申し訳ないんだが。今手持ちが少ないんだ、必ず返すから、ここは立て替えてくれないか?」
俺がそう伝えると、ブレイドは満面の笑みを浮かべる。
「あぁ、いいって。昼、アンタに迷惑かけたし、ここは俺が出してやるからさ。困ったときはお互い様ってな! じゃあ、フロントに説明だけ頼むぜ!」
嬉しそうにそう話すブレイドに少しだけ、俺は心を許した気がした。案外悪い奴じゃないのかもしれない。宿の中は開放的な空間が広がっていた。まず目に入ったのは、木材と白壁を上手く織り交ぜたフロントだ。和を連想させるゆったりとした空間は、まるで日本に戻ってきたのかと思わせるほどになつかしさが込み上げてくる。壁沿いには壺に活けられた桃色と紫の花が綺麗に咲き誇っている。天井には燭台を吊るし、ユラユラと揺れる火の光が疲れを癒してくれるかのよう。
俺とブレイドはフロントのカウンターに立っている店主に挨拶をして、相部屋ができるか交渉をした。交渉の結果、料金を追加で支払ってくれれば相部屋は問題ないとのことだった。そのことをブレイドに伝えると、快く了承し、ブレイドはポケットから数枚の銀貨を取り出し、店主に渡した。
「ありがとう、おかげで助かったよ」
「いいってことよ、俺の部屋は3階だ、早く行こうぜ」
店主から受け取った部屋の鍵を指先でクルクルと回しながら、ブレイドは階段をのぼっていく。こうして何度か共に行動すると、冒険者も悪くないと思ってしまう。よく考えてみろ? 宿にも泊まれるし、そこそこの武器も身に着けているんだぞ。報酬もあるみたいだし、生活が保障されるのは俺が冒険者になりたいと思うには十分だった。
だけど、やはり俺には向かないだろうとも感じていた。
それは恐らく、前の世界が影響しているんだと思う。もう誰かの下について、自由の利かない毎日を送るのが心底嫌なんだろう。別に会社が嫌だったわけではないんだけどな、こっちの世界に来てまで、自由を失いたくないってこと……かな。
「……ふっ」
思わず笑みをこぼす。俺もかなりこの世界に染まってきたんだな。
「おい、どうしたんだよ、急に笑って」
「あぁ、ごめん。大丈夫」
俺はブレイドの背中を追いかけ、少し距離を置いて階段を上がった。きしむ木の段を踏むたびに、古い宿らしい落ち着いた匂いが鼻をかすめる。廊下は木材の壁と白い漆喰で整えられていて、質素ながらも清潔感があった。
ブレイドが部屋の扉に鍵を差し込み、ゆっくりと扉を開く。
「散らかってるけど、まぁ、ゆっくりしてくれよ」
扉の向こうに広がったのは、まさに“男の部屋”といった光景だった。片隅には使いかけの研ぎ石と、手入れ途中らしき剣が無造作に立てかけられている。床には冒険用の革袋や衣服が投げ出され、椅子の背には外套が無造作に掛けられていた。
部屋自体は平凡な造りだ。窓際に置かれた木製の小さな机、簡素な木枠のベッドがひとつ。部屋の奥には小さな扉があり、覗けば個室の便所がついているようだ。風呂はついてないらしく――この宿には共同浴場しかないらしい。
白壁に反射したランプの明かりが、散らかった部屋をやんわり照らし出している。その光景はどこか気取らず、いかにもブレイドらしい住まいだった。だが、借り物の部屋だという事をブレイドは忘れているのか?
「ゆっくりとは、程遠いな……」
「まぁ、そういうなよ。俺は片づけが苦手なんだよ」
俺は一歩足を出すと、床に散らばった武器が、足に当たる。正直、足の踏み場が無い。仕方ないな……。しゃがんで一通り手でスペースを確保した後、床に座ってあぐらをかく。
「ところで、俺はどうやって寝ればいいんだ?」
まぁ、俺からすれば当然の質問だ。ここでどうやって寝るんだよ。泊まらせてもらっておいてこんなことを言うのもなんだがな。ブレイドは自慢げに窓際のソファを指差した。
「あそこなら、寝れるだろ? 毛布は貸してやるよ」
ソファの上にも当然の如く物が散乱している。しばらくここを拠点にしているのか、ソファは少し薄汚れていて、とても寝れるような場所ではないが……ないよりマシか。ため息を吐きながら立ち上がり、足場を確保しながら、ゆっくりとソファに近づくと、ソファの上に置かれた物を床に少しずつ移動させる。
「ったく、こんだけ物を散乱させるなんて、一種の才能だよ……」
「褒めても何も出ないぞ~♪」
褒めてないっての。
ガツンッ……。
「ん?」
俺の手に何か鈍い金属のようなものが触れた。手に取ってみると、〈鉄のトラバサミ〉だ。まだ使用されていないみたいだが……。俺はゆっくりとブレイドに視線を向けた。
「これはなんだ?」
「あっ! いや、それはだな……」
ブレイドは慌てた様子で、ベッドから立ち上がり、俺から鉄のトラバサミを取り上げた。
「な~にが、最強の剣士になるだ。剣に関係ない道具を使用する気満々じゃないか」
顔を真っ赤にしながら焦るブレイドに、俺は不敵な笑みを浮かべながら冷やかした。
「馬鹿っ! 剣が通じないモンスターだって出てくるだろう? 罠を張れば、大型のモンスターとだって互角に戦えるんだぞ!?」
「へぇ、大型のモンスターねぇ……」
俺はトラバサミを片手でプラプラ揺らしてみる。鉄製だからか、ガチャガチャと音を立て、このトラバサミに挟まれたら、さすがのモンスターも、そう簡単に身動きはできない……か。確かに、これで相手の動きを封じれば、戦闘はグッと楽になるだろうな。無理に戦いをする必要も減るし、もしかして、これはドラゴン相手にも通用する戦法なんじゃないのか?
ふと、マスターの言葉を思い出す。
『人と竜では真向から立ち向かっても、なかなか難しいでしょうね。立ち回り……は意識しますかね、とはいっても、あくまで私の意見ですが』
そうだ、立ち回りだ。ドラゴンと真っ向から勝負する必要はない。UIを駆使すれば、瞬時に罠の設置も、武器の入れ替え、回復薬だって一瞬で可能。頭の中でまるでパズルが物凄いスピードで組み立てられていく感覚……。
ブルッと身震いした。
ちょっと待て。改めて思ったが、このUI……、チートだぞ。よく考えてもみろ。普通なら、武器を切り替えるには多少のタイムラグが生じる、だけど、俺の場合は、〈インベントリ〉を開いて、意識を向けるだけで、瞬時に切り替えられるし、予備動作無しに手元に持つことができる。
回復薬も、ゾンビに襲われたときに瞬時に使用できた。恐らく他のアイテムだって瞬時に結果だけが得られる。過程工程なんかフル無視だ。
そして、罠の設置……。グリッドを活用すれば、離れたところに設置が可能。UIを操作すれば、”空間”にいとも簡単に配置できるって、そんなのアリかよ。
つまりだ、俺は、戦闘において、必ず生じるであろう隙――
”時間”そのものを完全に無視した圧倒的チート能力。もし、使いこなすことができれば、どんなモンスターにだって互角以上に立ち向かえる、いや、それどころか、一人で軍を相手にすることも可能なんじゃないのか?
考えれば考えるほど、背筋が寒くなる。これは……便利とかそれ以前の話。
世界の理そのものをぶっ壊す力だ。
「おい、どうしたんだよ。急に固まって……トラバサミがどうかしたのか?」
不意に話しかけられ、俺はハッと我に返る。相当集中していたみたいだな。
「あぁ、いや。なんでもない。これ、もし使わないならドラゴンに使ってもいいか?」
「それは、別に構わないけど、ドラゴンの情報は手に入れたのか?」
「まぁ、とりあえずはな」
俺はそう言って、鉄のトラバサミを〈インベントリ〉にしまい込んだ。シュッと煙のように消えたトラバサミに、ブレイドは目を見開き、口をパクパクとさせている。
「なっ……トラバサミが消えた!? どういうことだよ……」
そういえば、ブレイドに話していなかったな。そりゃ、驚くわけだ。タダで泊まらせてもらうわけだし、そろそろ話すとするか――
「おい、無視かよ!」
ブレイドは俺の後をついてくるが、構っている暇はない。とりあえず、インベントリを開けば、木材はあるんだ。拠点ぐらいすぐに作ってやるさ。そのためにも、早くこの男から離れないといけないんだが……。
「あそこのマスターの作るお酒はうまいよな、俺もたまに寄ることがあるんだ」
「へぇ」
俺は適当な相槌を挟み、歩くスピードを少し上げる。
「どうしたんだよ、そんなんじゃドラゴンの情報教えてやんないぞ?」
残念でした~。すでにドラゴンの情報は掴んでるんだよ、お前よりも確かな情報筋からな! と思ったが、多分悔しむだろうから伝えるのは止めておこう。俺は後ろを振り返り、勝ち誇ったような表情を浮かべた
「問題ない、他の方法で探すさ」
俺がそう言うと、ブレイドはため息を吐きながら、宿の入り口の前で立ち止まった。
「チッ、釣れない奴だな。まぁ、いいや、俺はここの宿だから、また会うことがあればいろいろと教えてやるよ」
何? 宿があるのか? こんな奴に、王都で宿に泊まるだけの資金力があると……。この時、俺の思考がフル回転する。クラフトで拠点を作ったとして、勝手に王都内に建物を作っていいものだろうか……と。日本であれば、土地の所有権を購入して、家の建築材料を購入してなど、色んな工程を挟んでようやく家を建てることができる。まぁ、俺の場合、最初が森だから、そこまで考えていなかったが、ここは王都だ。あとで厄介ごとに巻き込まれるのは御免だ。
だとするなら、あえてこの男に交渉を持ちかけるのは判断として間違っていないんじゃないか? 確か、UIについて知りたいって言ってたし、うん。これは彼を利用するとか、邪な気持ちがあるとかではない。いわば”助け合い”だ。俺はブレイドが宿に入ろうとするのを呼び止めた。
「なぁ……」
「ん?」
「その……なんだ。確か、知りたいことがあるって言っていたろ? 教えてやらんでもないぞ」
交渉下手くそか。あれ? こんなに話をするの難しかったっけ? なんで上から目線なんだよ。営業マンだったはずなのに、ブランクができたのか……いや、そうじゃない。俺は恐らく心のどこかで折れたくないって思っているんだ。プライドが邪魔をしてるってやつか。そういう気持ちが相手に伝わって今まで何度も契約失敗してきたのに、また同じことを繰り返すのか。
よし、ここは交渉を上手くいかせるために、ステータスの魅力に残った能力値振り分けを全振りして少しでも成功率をあげるとしよう。
魅力:16(9→16)
これで、全て使い切った。あとは、全力でぶつかるだけだ。俺は気を引き締めるため、眉間にしわを寄せる。プライドなんて、生きるために必要ない、それが俺のプライドだ! 声のトーンを落とし、手のひらを見せる。
「あ、いや。実は今、宿を探してるんだが、王都に来たのは初めてだからよくわからないんだ。君がよければ、相部屋にしてもらえないだろうか? そのかわり、昼のことについて話をしよう。どうかな?」
俺が誠意をもって伝えると、ブレイドはしばらく考えた。そして、首を傾げながら答える。
「それは良いんだけどさ、相部屋できるかわかんないぞ?」
「そこは問題ない、俺が交渉をする。後、大変申し訳ないんだが。今手持ちが少ないんだ、必ず返すから、ここは立て替えてくれないか?」
俺がそう伝えると、ブレイドは満面の笑みを浮かべる。
「あぁ、いいって。昼、アンタに迷惑かけたし、ここは俺が出してやるからさ。困ったときはお互い様ってな! じゃあ、フロントに説明だけ頼むぜ!」
嬉しそうにそう話すブレイドに少しだけ、俺は心を許した気がした。案外悪い奴じゃないのかもしれない。宿の中は開放的な空間が広がっていた。まず目に入ったのは、木材と白壁を上手く織り交ぜたフロントだ。和を連想させるゆったりとした空間は、まるで日本に戻ってきたのかと思わせるほどになつかしさが込み上げてくる。壁沿いには壺に活けられた桃色と紫の花が綺麗に咲き誇っている。天井には燭台を吊るし、ユラユラと揺れる火の光が疲れを癒してくれるかのよう。
俺とブレイドはフロントのカウンターに立っている店主に挨拶をして、相部屋ができるか交渉をした。交渉の結果、料金を追加で支払ってくれれば相部屋は問題ないとのことだった。そのことをブレイドに伝えると、快く了承し、ブレイドはポケットから数枚の銀貨を取り出し、店主に渡した。
「ありがとう、おかげで助かったよ」
「いいってことよ、俺の部屋は3階だ、早く行こうぜ」
店主から受け取った部屋の鍵を指先でクルクルと回しながら、ブレイドは階段をのぼっていく。こうして何度か共に行動すると、冒険者も悪くないと思ってしまう。よく考えてみろ? 宿にも泊まれるし、そこそこの武器も身に着けているんだぞ。報酬もあるみたいだし、生活が保障されるのは俺が冒険者になりたいと思うには十分だった。
だけど、やはり俺には向かないだろうとも感じていた。
それは恐らく、前の世界が影響しているんだと思う。もう誰かの下について、自由の利かない毎日を送るのが心底嫌なんだろう。別に会社が嫌だったわけではないんだけどな、こっちの世界に来てまで、自由を失いたくないってこと……かな。
「……ふっ」
思わず笑みをこぼす。俺もかなりこの世界に染まってきたんだな。
「おい、どうしたんだよ、急に笑って」
「あぁ、ごめん。大丈夫」
俺はブレイドの背中を追いかけ、少し距離を置いて階段を上がった。きしむ木の段を踏むたびに、古い宿らしい落ち着いた匂いが鼻をかすめる。廊下は木材の壁と白い漆喰で整えられていて、質素ながらも清潔感があった。
ブレイドが部屋の扉に鍵を差し込み、ゆっくりと扉を開く。
「散らかってるけど、まぁ、ゆっくりしてくれよ」
扉の向こうに広がったのは、まさに“男の部屋”といった光景だった。片隅には使いかけの研ぎ石と、手入れ途中らしき剣が無造作に立てかけられている。床には冒険用の革袋や衣服が投げ出され、椅子の背には外套が無造作に掛けられていた。
部屋自体は平凡な造りだ。窓際に置かれた木製の小さな机、簡素な木枠のベッドがひとつ。部屋の奥には小さな扉があり、覗けば個室の便所がついているようだ。風呂はついてないらしく――この宿には共同浴場しかないらしい。
白壁に反射したランプの明かりが、散らかった部屋をやんわり照らし出している。その光景はどこか気取らず、いかにもブレイドらしい住まいだった。だが、借り物の部屋だという事をブレイドは忘れているのか?
「ゆっくりとは、程遠いな……」
「まぁ、そういうなよ。俺は片づけが苦手なんだよ」
俺は一歩足を出すと、床に散らばった武器が、足に当たる。正直、足の踏み場が無い。仕方ないな……。しゃがんで一通り手でスペースを確保した後、床に座ってあぐらをかく。
「ところで、俺はどうやって寝ればいいんだ?」
まぁ、俺からすれば当然の質問だ。ここでどうやって寝るんだよ。泊まらせてもらっておいてこんなことを言うのもなんだがな。ブレイドは自慢げに窓際のソファを指差した。
「あそこなら、寝れるだろ? 毛布は貸してやるよ」
ソファの上にも当然の如く物が散乱している。しばらくここを拠点にしているのか、ソファは少し薄汚れていて、とても寝れるような場所ではないが……ないよりマシか。ため息を吐きながら立ち上がり、足場を確保しながら、ゆっくりとソファに近づくと、ソファの上に置かれた物を床に少しずつ移動させる。
「ったく、こんだけ物を散乱させるなんて、一種の才能だよ……」
「褒めても何も出ないぞ~♪」
褒めてないっての。
ガツンッ……。
「ん?」
俺の手に何か鈍い金属のようなものが触れた。手に取ってみると、〈鉄のトラバサミ〉だ。まだ使用されていないみたいだが……。俺はゆっくりとブレイドに視線を向けた。
「これはなんだ?」
「あっ! いや、それはだな……」
ブレイドは慌てた様子で、ベッドから立ち上がり、俺から鉄のトラバサミを取り上げた。
「な~にが、最強の剣士になるだ。剣に関係ない道具を使用する気満々じゃないか」
顔を真っ赤にしながら焦るブレイドに、俺は不敵な笑みを浮かべながら冷やかした。
「馬鹿っ! 剣が通じないモンスターだって出てくるだろう? 罠を張れば、大型のモンスターとだって互角に戦えるんだぞ!?」
「へぇ、大型のモンスターねぇ……」
俺はトラバサミを片手でプラプラ揺らしてみる。鉄製だからか、ガチャガチャと音を立て、このトラバサミに挟まれたら、さすがのモンスターも、そう簡単に身動きはできない……か。確かに、これで相手の動きを封じれば、戦闘はグッと楽になるだろうな。無理に戦いをする必要も減るし、もしかして、これはドラゴン相手にも通用する戦法なんじゃないのか?
ふと、マスターの言葉を思い出す。
『人と竜では真向から立ち向かっても、なかなか難しいでしょうね。立ち回り……は意識しますかね、とはいっても、あくまで私の意見ですが』
そうだ、立ち回りだ。ドラゴンと真っ向から勝負する必要はない。UIを駆使すれば、瞬時に罠の設置も、武器の入れ替え、回復薬だって一瞬で可能。頭の中でまるでパズルが物凄いスピードで組み立てられていく感覚……。
ブルッと身震いした。
ちょっと待て。改めて思ったが、このUI……、チートだぞ。よく考えてもみろ。普通なら、武器を切り替えるには多少のタイムラグが生じる、だけど、俺の場合は、〈インベントリ〉を開いて、意識を向けるだけで、瞬時に切り替えられるし、予備動作無しに手元に持つことができる。
回復薬も、ゾンビに襲われたときに瞬時に使用できた。恐らく他のアイテムだって瞬時に結果だけが得られる。過程工程なんかフル無視だ。
そして、罠の設置……。グリッドを活用すれば、離れたところに設置が可能。UIを操作すれば、”空間”にいとも簡単に配置できるって、そんなのアリかよ。
つまりだ、俺は、戦闘において、必ず生じるであろう隙――
”時間”そのものを完全に無視した圧倒的チート能力。もし、使いこなすことができれば、どんなモンスターにだって互角以上に立ち向かえる、いや、それどころか、一人で軍を相手にすることも可能なんじゃないのか?
考えれば考えるほど、背筋が寒くなる。これは……便利とかそれ以前の話。
世界の理そのものをぶっ壊す力だ。
「おい、どうしたんだよ。急に固まって……トラバサミがどうかしたのか?」
不意に話しかけられ、俺はハッと我に返る。相当集中していたみたいだな。
「あぁ、いや。なんでもない。これ、もし使わないならドラゴンに使ってもいいか?」
「それは、別に構わないけど、ドラゴンの情報は手に入れたのか?」
「まぁ、とりあえずはな」
俺はそう言って、鉄のトラバサミを〈インベントリ〉にしまい込んだ。シュッと煙のように消えたトラバサミに、ブレイドは目を見開き、口をパクパクとさせている。
「なっ……トラバサミが消えた!? どういうことだよ……」
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