運命の番は僕に振り向かない

ゆうに

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1 僕の運命の番

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「もしかして君がセン?」

待ち合わせ場所に現れたスーツの男に尋ねられ千遥ちはるはコクリと頷く。

「あんた…本当にオメガ?」
「はい…」

千遥を見た男は眉根を寄せ、あからさまに落胆する。

「チッ、ハズレだな」
「……」
「さっさと来い」

手首をつかまれ、千遥は男について行く。


この世界は男女の性別の他に、優れた能力をもつアルファ、人口の大半で一般的なベータ、男女共妊娠可能なオメガという性別が存在する。
千遥はオメガだった。
オメガは定期的に発情期があり、発情期には人を性的に誘惑するようなフェロモンを本人の意思とは関係なく放つ。
そのためオメガの社会的地位は低く、定職に就きづらい。

家族もパートナーも、頼れる人が誰もいない。アルバイトのお金だけでは生活が苦しくて、千遥は仕方がなく生活のため身体を売ることにした。
今日はネットで知り合った男と会い、初めて身体を売る。

こんなこと本当はしたくない。でもこうする以外千遥にはこれ以上お金を稼ぐ方法がわからなかった。

陰鬱とした気持ちでうつむき加減に、たくさんの人が行き交う雑踏を、スーツの男に手を引かれ歩いているときだった。

すれ違った背の高い男から強く甘い香りがして、千遥は思わず足を止めた。

(この香り…これって、もしかしてこの人が僕の運命の…)


高級そうなスーツを着た男はすらりと背が高く、切れ長の目にスーッと通った鼻筋の、整った顔立ちをしている。

(かっこいい…)

千遥は反射的に男に手を伸ばした。
(お願い、運命の番なら僕を助けて…)

男の方も驚いたように千遥を見て一瞬ビクリと身体を震わした。二人は数秒間お互い見つめ合っていた。
その時、長身の男の脇から人影が現れた。
アーモンドのような魅力的な大きな瞳に、艶のある長い黒髪、首元には項を守るためのオメガ特有のネックガードをしている。
美しい男性オメガだった。

「侑の知り合い?」
「いや、知らない」

侑と呼ばれた長身の男は一緒にいたオメガにそう答えると、そのまま歩いていってしまった。

千遥はしばし呆然と去っていく男の背を見つめた。
彼はこちらを振り返ることもなかった。

「おい、こんなとこで止まるな。ったく、トロい奴だな、早く来い」
再び手を引かれ、千遥はしかたなく歩き出した。



◇◆◇



十人並みの普通の容姿に、普通の学力、運動神経。だから千遥は自分のことをずっとベータに違いないと思っていた。千遥の両親もベータ同士だったから。

中学生の第二性別判定のとき千遥の性別がオメガだとわかった周りの反応は冷たいものだった。
オメガなのに全然可愛くないと嘲笑われることも多かった。ベータの両親も千遥のことで喧嘩が絶えなくなり、ついには離婚してしまった。

オメガだとわかってから辛いことばかりだった千遥の生活が一変したのは高校で枇々木ひびきと出会ってからだった。
不細工オメガと陰口を叩かれる千遥を庇い、ひとりでいることの多かった自分をいつも優しく気にかけてくれた。アルファなのに威張ったところも全然ない、顔を合わせると穏やかな笑みを浮かべてくれる枇々木のことを千遥はすぐに好きになった。
だから勇気を振り絞って告白して枇々木と恋人同士になれたとき千遥は本当に幸せだった。
このまま枇々木とずっと一緒にいたい、番にだってなりたい。
そう思っていたのに、幸せな日々は突然終わった。
二人で行った旅先で、枇々木が運命の番に出会ったからだ。
強烈に惹かれ合う枇々木とその相手を前に千遥はどうすることもできなかった。

それからはずっと孤独だった。
離婚後、千遥を引き取った父も亡くなり、頼るものがいないなか、大した職歴もないオメガの千遥の出来る仕事は限られたものだった。

一人狭いアパートに帰り眠りにつくとき、いつも想像した。
僕の運命の番はどんな人だろう――

悲しくて寂しくて孤独で。
だからずっと千遥は願っていた。自分の前にも運命の番が現れることを。
きっと千遥を見た瞬間、駆け寄ってきて抱き締めてくれる。ようやく見つけたと言って、千遥を孤独で辛い世界から救い出してくれるはずだ。

元恋人の枇々木とその運命の――あの二人のように幸せになりたい。



だが、そんな千遥の願いは待ち望んだ運命の番を前にして脆くも崩れさった。

花のような強く甘い香り。
一目見た瞬間、千遥は彼が運命の番だとわかった。

目が合ったのに、彼だって千遥が運命だとわかったはずなのに。

反射的に助けを求めるように手を伸ばした千遥を無視するように彼は目を逸らし、すぐにその場を立ち去ってしまった。

彼の隣には綺麗なオメガの男性がいた。
恋人なのかもしれない。

運命の番よりも恋人を選ぶ人もいるんだ。
去っていく彼の背を呆然と見送りながら千遥は思った。

運命の番は出会ってしまえば、離れることができない絶対的な絆があるのだと思っていたのにどうやら千遥に関しては違ったらしい。
まあ、わからなくもない。
千遥は見た目も能力も平凡以下で、何一つとしてオメガの魅力的な特徴を持っていない。

「侑」と呼ばれていた千遥の運命の番であるはずの、ただ困惑しか浮かんでいなかった彼の千遥を見る瞳が忘れられない。


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