『原作者が消えた世界で婚約破棄されましたが、転生者は負ける気しません』

夢窓(ゆめまど)

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ポロリと落ちた“世界の裏側”

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神殿の中庭を抜けると、わずかに甘い香が漂ってきた。
祝福の儀が終わった直後の控え室。白薔薇と香の花を浮かべた水鉢のそばに、鮮やかな布のパーテーションが立てられている。

「聖女さま、こちらにお客様をお通ししました」

神官の案内で通されたマリーとカイは、ふたり並んで静かに一礼した。

その奥にいたのが――彼女だった。

白と金の儀式服。ふわりとした栗色の髪。
子どもたちの頭を撫でたばかりの手で、今はストールを整えている。

「……マリーちゃん? あ、やっぱりそうだよね! 雰囲気ちょっと変わったけど、顔覚えてるよ~」

ミキは、花が咲いたように笑った。

初対面のはずなのに。
その言葉に、マリーの眉がわずかに動く。

(顔を覚えてる? どこで?)

「初めまして、のつもりだったけど……」

マリーが静かに応じると、ミキは首を傾げて笑った。

「そっか、覚えてないかも。たしかに、あのときメイド服でウィッグだったし。
でも私、イベントでよく“マリィちゃん”って呼んでたんだよ?」

その瞬間、カイの気配が変わる。
マリーは何も言わず、一歩前に出た。

「……あなた、わたしの前世を知ってるの?」

ミキは「え? あっ」と小さく声をあげ、口元を手で覆った。

「やだ、ネタバレしちゃった?」

笑って誤魔化そうとしたが、もう遅かった。

部屋の空気が、すっと冷え込む。
神官が戸口に立ち尽くし、カイが剣の柄にそっと手をかける。
だがミキは、それすら気づかず、無邪気な声で続けた。

「んー……でも、今日のあの演出――氷室京介ちゃんの書いてたSSに似てたかも」

手を洗っていた神官の手が、ぴくりと止まる。

「マリーちゃんも知ってるでしょ? 氷室京介ちゃん。
あの人、同人で“バラチカ”の二次創作書いてたじゃん?
ちょっと拗らせ系でさ、設定細かくて……わたしも大好きだったんだ~」

その瞬間、マリーの指が、ノートのページの上でピタリと止まった。

「……今、なんて言ったの?」

「え? あー、言ってなかったっけ?
氷室京介ちゃんって、前の世界で“うちのメイドカフェの常連”だったの。
衣装合わせも手伝ってくれてて――
“聖女コス、ぜったい似合うよ!”って、褒めてくれたんだ~」

笑いながら話すミキの声に、部屋の空気が完全に凍りついた。

ミキだけが、楽しげに笑っている。
だが、マリーの視線はもう、“その背後”を射抜いていた。

(――氷室京介。
バラチカの細部設定に異常なほど詳しかった、あの同人作家。
ルート改変SSを書き続けていた、あの狂信的な“推し主義者”。)

(まさか、あの女が、この世界の“原作者”……?)

そして――

(その“原作者”を、ミキは現実で甘やかされていた“ファン”として知っている。
つまり、ミキは最初から“内輪の人間”。
ゲームの外からじゃなく、“ゲームを作る会話の中”にいた)

静かに息を吸い込んで、マリーは呟いた。

「この世界、“信仰”じゃなくて、“身内のシナリオ会議”で動いてるってこと……?」

静かで、致命的な一言だった。
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