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「推しに世界を作ってあげた」作者の幻想
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神殿の舞台で、ミキは光の柱に包まれながら、そっと唇を開いた。
――まるで「おまじない」を囁くように。
その声は優しく、甘く、観客の胸に染みこむように響く。
幼い子供が寝る前に聞く子守歌のように、
あるいは――かつてメイドカフェで、彼女自身が耳にした「おかえりなさいませ」の声のように。
胸がいっぱいになった。
あのとき、レイヤーの制服姿で笑ってくれたあの人が眩しくて、ただ眩しくて。
だから私は――
あの人のために、この“聖女の物語”を作ってあげようって思った。
祝詞は、可愛ければいい。
癒しは、光ればそれでいい。
貞操観念? そんなの、なくたっていい。
これは、“あの子”のための物語なのだから。
そう信じていた。“原作者”である自分のことを。
だが、その裏側で。
舞台袖の暗がりにいたマリーが、冷たく微笑む。
ミキの独白は続く
「“おまじない♡”って囁くだけで、チップを弾んでくれたわよね」
「当時の“キャストの私”に、勝手に神格を感じて。
あれがあなたにとっての“信仰”だったんでしょう?」
髪のカールを手に巻きながらミキが微笑む。
マリーの瞳は、聖女を演じるミキをまっすぐに射抜く。
「安い神様だこと。
三百円のチップと、“バラチカ”ひとつで、あっさり信仰を捧げちゃうなんて」
「でも今ごろ……泣きながら、私の姿を拝んでるんじゃない?」ミキは自信満々で笑う。
「“どうして主役じゃないの?”って。
“なんでそんなに冷たい目で見るの?”って。
だって――これは、あなたの見たくない現実そのものよ」
ミキは舞台の中央で、観客に向けて微笑みながら、演技を続けている。
けれど――その背中は、かすかに揺れていた。
「え~、知らなかった~。マリーちゃんって、そんな怖い顔できるんだ♡」
「怖~い。でも、なんか……ドキドキするかも?」
笑って言葉を返すミキ。けれど、その瞳は、わずかに曇っていた。
(……やめて。そんな目で見ないで)
(私を、“作られた主役”だなんて言わないで)
(だって私は――望まれたんだよ。
あの人が、私を“かわいい”って言ってくれたんだよ?
“聖女にぴったり”って、褒めてくれたんだよ?)
舞台の光が揺れる。
その眩しさの中で、マリーは静かに、冷酷な断罪の言葉を告げた。
「あなたの“特別扱い”は、たった一人の“贔屓”から始まった」
「それを世界の法則にまで引き上げたなら――
それはただの我欲。独裁。破壊にすぎない」
「“神”が“推し”に狂った時、世界は壊れるのよ」
沈黙が降りる。
神殿の光はまだ彼女を照らしているが――
もはや、その光には祝福の意味などなかった。
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