義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました。

夢窓(ゆめまど)

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昼ご飯:魚料理

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市場から戻ると、私は早速台所に立った。


伯爵家の食堂は広すぎて、今の人手では掃除も行き届かない。
 だからメイベルは思い切って、台所の窓際に小さなテーブルを置いた。

「ここなら……窓から光も入るし、料理を運ぶのも楽ですし」

 椅子を二脚並べて置いた瞬間、胸がどきんと跳ねる。
 ――それは、どう見ても“夫婦だけの食卓”だった。

「あわわ……なんか、てれる……!」
 自分で置いておきながら、顔が赤くなる。


 で、袋から取り出したのは、大ぶりの川魚。

「さて……さばきますか!」

 まな板に魚を乗せ、手際よく包丁を入れる。
 鱗を落とし、内臓を抜き、ぶつ切りに。
 油のはねる音がじゅわっと響き、オリーブオイルの香ばしい匂いが広がる。

「ん~~! いい匂い!」

 塩をぱらりと振りかければ、衣もつけずにカリッとした黄金色の仕上がり。
 皿に盛りつけると、さながら居酒屋の揚げ物。

アドレ登場

「……何の匂いだ」
 背後から低い声。振り返ると、アドレが無表情のまま立っていた。

「あっ、アドレ様! お昼です! 今日は市場で買った魚を揚げてみました!」

 私は胸を張り、皿を差し出す。

無表情のアドレがやってきて、当たり前のようにふたり用の椅子に腰を下ろす。

「……ふたり用か」
「え、えっと……その……」
「合理的だ。食堂よりも落ち着く」

 短く言って、いつもの鉄面皮で皿を手に取る。

 メイベルは小さく息をつき――そして心の奥で、じんわり嬉しさが広がっていった。

 パンと、スープは、サラダは、すでにセットしてあり、(侍女が用意した分)


揚げたての一切れを口へ。

 ──カリッ。

「……」
「……」

 無表情のまま飲み込む。
 そして、短く。

「……うまいな」

「ほんとですかっ!?」
 思わず身を乗り出す私。

「……明日も揚げろ」

 それだけ言って、また黙々と食べ続ける。
 私は思わず笑みをこぼした。

昼のほのぼの

 魚をカリッと揚げて、サラダやパンとスープと、一緒に卓へ並べる。
 私は「どうぞ!」と胸を張り、アドレは無表情のまま一口。

「……うまいな」

 その短い言葉だけで、私は思わず頬をゆるめた。
 昼の陽射しが差し込む食卓に、どこか穏やかな空気が流れる。
 まるで普通の夫婦みたいで、くすぐったいほどだった。

夜の仕込み

 日が暮れると、私はまた台所に立っていた。
 鶏肉を漬け込み、枝豆を洗い、酒瓶を冷やす。
 うろうろと走り回り、調味料を取り出してはしまい、また取り出す。

「えっと……唐揚げは明日のお昼にも……枝豆は夜に……」
「ポーチの中に醤油……あれ、入れたっけ……?」

 カタカタ、バタバタと音を立て、落ち着きなく動き回る。
 公爵令嬢の優雅さはどこにもない。
 そこにいるのは、ただの居酒屋バイト経験者の娘だった。

執務室から

 その様子を、二階の執務室からアドレが眺めていた。
 帳簿を広げ、ペンを走らせながら、ふと視線を下に落とす。
 庭に面した窓から、台所を駆け回るメイベルの姿が見える。

 タオルを頭に巻き、スカートをつまみ上げて走る令嬢。
 額に汗をにじませながらも、楽しげに笑っている。

 アドレはしばし無言でそれを見下ろし、やがて小さく呟いた。

「……興味深い」

 それからまた、無表情のまま帳簿に視線を戻した。
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