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闇にさす光
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部屋の奥にいたのは“幻香”――ジェラルディンの残留思念
――生と死の境界で呼びかける声
黒い広間は息を潜めたように静かだった。
床の香陣が淡く光り、壁がさざめくように香気を揺らす。
その奥から――声。
「……クリスティン……?」
どこか涙声で、優しく、歪んだ響き。
クリスティンは反射的に身構えた。
「ジェラルディン……?」
暗がりから、ふわりと香りが広がった。
甘くて苦くて、胸を締めつけるような香り。
彼の香り。その“残り香”。
(……でも、違う。これは……人の声じゃない)
影が現れた。
ジェラルディンの姿をしているのに、輪郭が揺れている。
完全な幻影。
だが、彼の感情だけが残っている“幻香”。
ジェラルディンの残像が、手を伸ばす。
「君を……探したんだ……
ずっと……ずっと……
どうしていなくなったの……?」
クリスティンは後ずさる。
「私は……あなたのものじゃないわ。
私を離して」
幻香は首をかしげた。
その動きは妙に柔らかく、
彼の本物が見せた“壊れた優しさ”のまま。
「離れる?
どうして……?
僕が……君を愛しているのに……」
クリスティンは震える息を吐いた。
(……この幻香……“死の直前の感情”だけが残っている……?
彼は……死んだの……?)
幻香はさらに近づく。
「クリスティン……
僕がね……君のいない世界で……
どうやって……息をすればいいの……?」
香陣が反応し、黒い花弁がひとつ散るように揺れた。
まるで“悲しみ”の香り。
クリスティンは目を閉じ、言った。
「ジェラルディン。
あなたが愛と言ったそれは……
私を閉じ込めて、壊して、消すためのものよ」
幻香はぴたりと止まった。
「……壊したかったんじゃない。
永遠に……守りたかった……
君を……僕だけの香りにしたかった……」
(……ああ……
これが……彼の本音だったのね)
胸が痛んだ。
憎しみではなく……哀れさに。
でも――。
クリスティンは涙を飲み込み、静かに首を振った。
「あなたは……私を愛してなんかいなかった。
私の“自由”を愛していなかったから」
その言葉は、幻香を切り裂く刃となった。
ジェラルディンの影が揺れ、
形が崩れはじめる。
「……自由……?
そんなもの……君が僕から離れる理由になるの……?」
香りが白く霧散し、
彼の瞳が涙を落とすように砕けた。
「やっぱり……僕は……君を……
幸せに……できなかったんだね……」
最後の言葉は、風に溶けるように消えた。
幻香は消滅した。
黒い広間だけが、取り残される。
ルシオン救出回――闇に差す光
――倒れそうになるクリスティンを抱きしめる
幻香が消えると同時に、
重厚な鉄扉が震えた。
ドンッ!!
クリスティンはびくりと振り返る。
(……誰? 敵? ジェラルディン?)
再び、強い衝撃。
ドンッ!
ドンッ!!
扉の向こうから男の声がした。
「クリスティン!!
そこにいるんだな!!」
――ルシオン。
クリスティンの目に涙が溜まった。
(……来てくれた……)
扉が蹴り破られる。
破片が床を転がった。
白い煙の向こうから、
ルシオンが息を切らして飛び込んできた。
香り耐性の副作用でまだ足元がふらつきながらも、
真っ直ぐ彼女に向かってくる。
クリスティンの姿を見るなり、
ルシオンの表情が崩れた。
「――無事か!!」
何も言えない。
声が出ない。
ただ、震えて立っているだけのクリスティンを見て、
彼は迷いなく腕を広げた。
「こっちへ来い」
クリスティンはゆっくり歩き出し、
足元が弱ってよろける。
倒れかけた瞬間、
ルシオンが彼女を抱きとめた。
強く、けれど優しく。
温かさに包まれた瞬間、
クリスティンの胸がついに決壊した。
「ルシオン……怖かった……
私……また閉じ込められたと思って……
誰も……いないから……」
「もう誰も閉じ込めない。
絶対に誰にも触らせない」
ルシオンは震える肩を抱き寄せ、
彼女の頭にそっと手を置く。
「お前は自由だ。
誰の香りにも縛られない。
……俺が必ず連れ出す」
クリスティンは涙に滲んだ声で言う。
「ジェラルディンは……?」
ルシオンの腕が少しだけ強くなる。
答えはまだ言わない。
でも、抱きしめる力だけが、真実を伝えていた。
ルシオンがジェラルディンの死を告げる
――クリスティンの涙、核香の暴走、そして広間の香陣崩壊
クリスティンはルシオンの胸に抱かれたまま、
震えるように息をしていた。
ルシオンは迷った。
どの瞬間に告げるべきか、
どうすれば彼女の心を傷つけずに済むのか――
だが、真実は逃げても変わらない。
そして、クリスティン自身が
震えた声で尋ねた。
「……ルシオン……
ジェラルディンは……どこ?」
ルシオンは目を閉じ、
ほんの少しだけ腕の力を強めた。
「……クリスティン。
彼は……戻らない」
クリスティンが静かに固まる。
「戻らないって……どういう――」
ルシオンは、逃げなかった。
苦しみを抑えて言った。
「ジェラルディンは……
自分で“死の香り”を纏った。
兵士に捕まる直前だった」
沈黙。
クリスティンの肩がふるふると震えた。
「……そんな……
そんなのって……」
ジェラルディンの最後の幻香が、
たった今消えたばかり。
彼の声も、存在も、
もうこの世界から完全に消えてしまった。
クリスティンは唇を噛んだ。
「私が……
私が逃げたから……?」
ルシオンはゆっくり首を振る。
「違う。
あいつは……最初から壊れていた。
お前が原因じゃない。
お前は被害者で――
それでも、あいつに最後まで“優しかった”」
クリスティンの胸がきゅっと締めつけられる。
(……優しくしたかったわけじゃない。
ただ……彼が、あまりにも孤独に見えただけ……)
涙がぽたりと落ちた。
その涙が――
広間の香陣に触れた瞬間。
光が爆ぜた。
核香の暴走――香りが“反応”を起こす
香陣の黒い花弁が一斉に震え、
広間全体に残っていた “ジェラルディンの香りの残滓” が
一気に逆流するように渦巻き始めた。
(……なに……?)
クリスティンは胸を押さえる。
心臓の奥で――核香が脈打っている。
ドン……
ドン……!
「クリスティン、離れろ!」
ルシオンが抱きとめるが、
もう止まらない。
恐怖、哀しみ、喪失、自由への渇望――
すべての感情が核香に火をつけた。
クリスティンの周囲に
淡い白金色の香りが立ち昇る。
「……嫌……
こんな香り、残さないで……
彼はもう……いないのに……」
涙とともに漏れた声は、
まるで祈りのようだった。
その瞬間。
核香が暴走した。
光が広がり、
広間の黒い香陣を一気に染め替えていく。
黒 → 白
闇 → 光
束縛 → 解放
バキッ!!
どこかで香陣の骨格が割れた。
ルシオンが目を見開く。
「……香陣を……相殺した……!?
クリスティン……お前……」
クリスティンは涙を流しながら、
淡々と言った。
「彼はもう戻らない。
香りも消えた。
なら……
この香陣も、もう必要ないでしょう?」
核香の光がさらに強まり、
広間の黒い花弁をすべて吹き飛ばした。
香りの支配も、苦しみも、
ジェラルディンの残滓すら
すべて――消し去られていく。
ルシオンは震える声で呟いた。
「……王家は、ジェラルディンの香りを再現できないはずだ。
“死の香り”も、“黒香”も……
お前が、全部無効化した」
クリスティンの核香が静かに収束する。
涙は止まらないのに、
瞳だけは強く光っていた。
「……もう誰にも……
あの香りは使わせない。
彼の狂気を……
誰かの手で再現なんかさせない」
ルシオンはそっと彼女の頬に手を添える。
「……お前は強いよ、クリスティン」
クリスティンは少しだけ笑った。
「私……強くならなきゃいけないのよ。
だって――
私は、自由に生きたいもの」
広間の香りが完全に消え、
静寂が戻った。
ジェラルディンの残り香も、
香陣も、
狂気の残滓も――
すべてクリスティンが消し去った。
もう、戻ることはない。
――生と死の境界で呼びかける声
黒い広間は息を潜めたように静かだった。
床の香陣が淡く光り、壁がさざめくように香気を揺らす。
その奥から――声。
「……クリスティン……?」
どこか涙声で、優しく、歪んだ響き。
クリスティンは反射的に身構えた。
「ジェラルディン……?」
暗がりから、ふわりと香りが広がった。
甘くて苦くて、胸を締めつけるような香り。
彼の香り。その“残り香”。
(……でも、違う。これは……人の声じゃない)
影が現れた。
ジェラルディンの姿をしているのに、輪郭が揺れている。
完全な幻影。
だが、彼の感情だけが残っている“幻香”。
ジェラルディンの残像が、手を伸ばす。
「君を……探したんだ……
ずっと……ずっと……
どうしていなくなったの……?」
クリスティンは後ずさる。
「私は……あなたのものじゃないわ。
私を離して」
幻香は首をかしげた。
その動きは妙に柔らかく、
彼の本物が見せた“壊れた優しさ”のまま。
「離れる?
どうして……?
僕が……君を愛しているのに……」
クリスティンは震える息を吐いた。
(……この幻香……“死の直前の感情”だけが残っている……?
彼は……死んだの……?)
幻香はさらに近づく。
「クリスティン……
僕がね……君のいない世界で……
どうやって……息をすればいいの……?」
香陣が反応し、黒い花弁がひとつ散るように揺れた。
まるで“悲しみ”の香り。
クリスティンは目を閉じ、言った。
「ジェラルディン。
あなたが愛と言ったそれは……
私を閉じ込めて、壊して、消すためのものよ」
幻香はぴたりと止まった。
「……壊したかったんじゃない。
永遠に……守りたかった……
君を……僕だけの香りにしたかった……」
(……ああ……
これが……彼の本音だったのね)
胸が痛んだ。
憎しみではなく……哀れさに。
でも――。
クリスティンは涙を飲み込み、静かに首を振った。
「あなたは……私を愛してなんかいなかった。
私の“自由”を愛していなかったから」
その言葉は、幻香を切り裂く刃となった。
ジェラルディンの影が揺れ、
形が崩れはじめる。
「……自由……?
そんなもの……君が僕から離れる理由になるの……?」
香りが白く霧散し、
彼の瞳が涙を落とすように砕けた。
「やっぱり……僕は……君を……
幸せに……できなかったんだね……」
最後の言葉は、風に溶けるように消えた。
幻香は消滅した。
黒い広間だけが、取り残される。
ルシオン救出回――闇に差す光
――倒れそうになるクリスティンを抱きしめる
幻香が消えると同時に、
重厚な鉄扉が震えた。
ドンッ!!
クリスティンはびくりと振り返る。
(……誰? 敵? ジェラルディン?)
再び、強い衝撃。
ドンッ!
ドンッ!!
扉の向こうから男の声がした。
「クリスティン!!
そこにいるんだな!!」
――ルシオン。
クリスティンの目に涙が溜まった。
(……来てくれた……)
扉が蹴り破られる。
破片が床を転がった。
白い煙の向こうから、
ルシオンが息を切らして飛び込んできた。
香り耐性の副作用でまだ足元がふらつきながらも、
真っ直ぐ彼女に向かってくる。
クリスティンの姿を見るなり、
ルシオンの表情が崩れた。
「――無事か!!」
何も言えない。
声が出ない。
ただ、震えて立っているだけのクリスティンを見て、
彼は迷いなく腕を広げた。
「こっちへ来い」
クリスティンはゆっくり歩き出し、
足元が弱ってよろける。
倒れかけた瞬間、
ルシオンが彼女を抱きとめた。
強く、けれど優しく。
温かさに包まれた瞬間、
クリスティンの胸がついに決壊した。
「ルシオン……怖かった……
私……また閉じ込められたと思って……
誰も……いないから……」
「もう誰も閉じ込めない。
絶対に誰にも触らせない」
ルシオンは震える肩を抱き寄せ、
彼女の頭にそっと手を置く。
「お前は自由だ。
誰の香りにも縛られない。
……俺が必ず連れ出す」
クリスティンは涙に滲んだ声で言う。
「ジェラルディンは……?」
ルシオンの腕が少しだけ強くなる。
答えはまだ言わない。
でも、抱きしめる力だけが、真実を伝えていた。
ルシオンがジェラルディンの死を告げる
――クリスティンの涙、核香の暴走、そして広間の香陣崩壊
クリスティンはルシオンの胸に抱かれたまま、
震えるように息をしていた。
ルシオンは迷った。
どの瞬間に告げるべきか、
どうすれば彼女の心を傷つけずに済むのか――
だが、真実は逃げても変わらない。
そして、クリスティン自身が
震えた声で尋ねた。
「……ルシオン……
ジェラルディンは……どこ?」
ルシオンは目を閉じ、
ほんの少しだけ腕の力を強めた。
「……クリスティン。
彼は……戻らない」
クリスティンが静かに固まる。
「戻らないって……どういう――」
ルシオンは、逃げなかった。
苦しみを抑えて言った。
「ジェラルディンは……
自分で“死の香り”を纏った。
兵士に捕まる直前だった」
沈黙。
クリスティンの肩がふるふると震えた。
「……そんな……
そんなのって……」
ジェラルディンの最後の幻香が、
たった今消えたばかり。
彼の声も、存在も、
もうこの世界から完全に消えてしまった。
クリスティンは唇を噛んだ。
「私が……
私が逃げたから……?」
ルシオンはゆっくり首を振る。
「違う。
あいつは……最初から壊れていた。
お前が原因じゃない。
お前は被害者で――
それでも、あいつに最後まで“優しかった”」
クリスティンの胸がきゅっと締めつけられる。
(……優しくしたかったわけじゃない。
ただ……彼が、あまりにも孤独に見えただけ……)
涙がぽたりと落ちた。
その涙が――
広間の香陣に触れた瞬間。
光が爆ぜた。
核香の暴走――香りが“反応”を起こす
香陣の黒い花弁が一斉に震え、
広間全体に残っていた “ジェラルディンの香りの残滓” が
一気に逆流するように渦巻き始めた。
(……なに……?)
クリスティンは胸を押さえる。
心臓の奥で――核香が脈打っている。
ドン……
ドン……!
「クリスティン、離れろ!」
ルシオンが抱きとめるが、
もう止まらない。
恐怖、哀しみ、喪失、自由への渇望――
すべての感情が核香に火をつけた。
クリスティンの周囲に
淡い白金色の香りが立ち昇る。
「……嫌……
こんな香り、残さないで……
彼はもう……いないのに……」
涙とともに漏れた声は、
まるで祈りのようだった。
その瞬間。
核香が暴走した。
光が広がり、
広間の黒い香陣を一気に染め替えていく。
黒 → 白
闇 → 光
束縛 → 解放
バキッ!!
どこかで香陣の骨格が割れた。
ルシオンが目を見開く。
「……香陣を……相殺した……!?
クリスティン……お前……」
クリスティンは涙を流しながら、
淡々と言った。
「彼はもう戻らない。
香りも消えた。
なら……
この香陣も、もう必要ないでしょう?」
核香の光がさらに強まり、
広間の黒い花弁をすべて吹き飛ばした。
香りの支配も、苦しみも、
ジェラルディンの残滓すら
すべて――消し去られていく。
ルシオンは震える声で呟いた。
「……王家は、ジェラルディンの香りを再現できないはずだ。
“死の香り”も、“黒香”も……
お前が、全部無効化した」
クリスティンの核香が静かに収束する。
涙は止まらないのに、
瞳だけは強く光っていた。
「……もう誰にも……
あの香りは使わせない。
彼の狂気を……
誰かの手で再現なんかさせない」
ルシオンはそっと彼女の頬に手を添える。
「……お前は強いよ、クリスティン」
クリスティンは少しだけ笑った。
「私……強くならなきゃいけないのよ。
だって――
私は、自由に生きたいもの」
広間の香りが完全に消え、
静寂が戻った。
ジェラルディンの残り香も、
香陣も、
狂気の残滓も――
すべてクリスティンが消し去った。
もう、戻ることはない。
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