ここは世田谷豪徳寺

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
20 / 139

20《あいつが近所に!?》

しおりを挟む
ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)

第20話《あいつが近所に!?》さくら 



 ノタァ……バシャバシャ

 前を走る自転車が急に減速したかと思うと、荷台の荷物をぶちまけ、呪われたように止まった!

 ブレーキを掛けたわけでもなく、なにか悪魔の手によって止められたかのようにノターっという感じで! 

 ベスト豪徳寺の前、年末の買い物客でごった返している中で、この珍事が起こった。

 乗っている男の人も周囲の人も――ええ!?――という感じ。

 昨日、お姉ちゃんが渋谷で大橋むつおというお母さんの同業者を助けた話を思い出した。


――助けてあげよう!――


 そう思って……ウ……惨状に目を落とす男の人の顔を見て気が変わった。

 なんと四ノ宮忠八だ。こいつとは、もう関わりになりたくない……と、思ったら目が合ってしまった(-_-;)。

「しょうのない人ね!」

 そう言って、あたしはその惨状の収拾にかかった。

 自転車は、悪魔が止めたわけではなかった。ハンパに止めた荷台のゴムロープが外れ、買ったばかりの商品が散乱。で、ゴムロープのフックが後輪のスポークに引っかかり自転車を止めてしまったのだ。東大生とは言え、ガードマンをやるほどの力があるので、ロープはフックの根本で千切れかかって使い物にはならない。

「あたしの前カゴに半分入れて」

「す、すまん」

「あんたの新居まで送ってあげるから、そのあとで、あたしの買い物につきあってよ」

 そうすれば、二度の往復を覚悟していたのが一度で済む。我ながら瞬間の計算が早い。


 忠八の新居は、同じ町内の杓子神社の近所『シャトー豪徳寺』と、名前だけ立派な昭和の匂い満点のアパートだった。ほんの近所なのに、ここは知らなかった。

「改装したてなんだ。オーナーの好みで昭和風になってる」

 言わずもがなのことを忠八は言った。子どもの頃から知っているボロアパートが思い出された。外装と窓枠なんかをサッシに替えただけの「改装」のようだった。


「チュウクン、遅いわよぉ!」


 二階の窓が開く気配がして、可愛い女の子の声がした。あたしのチャリは死角で見えていないようだ。

「ああいう人がいるんなら、二人で行けばいいでしょ!」

「お帰り……あ、こんにちは」

 可愛い声は、階段を降りてきて、想像より二割り増しの可愛い実体を、あたしの目にさらした。

「あ、ゴムロープが切れたんで、彼女が手伝ってくれたんだ」

「まあ、そうなの。それは、どうもありがとうございました。ちょうど片づきましたから、お茶でもどうぞ」

 こういう状況では、あたしは尻込みする。でもその子には、何とも言えない無垢な人の良さを感じて上がり込んでしまった。

 三畳と六畳にミニキッチンとユニットバス。この界隈でも最低の居住条件。だけど女の子のセンスがいいのだろう。部屋は品良く片づけられていた。

「ほんとうにチュウクンは一人じゃ何もできない人なんで、困ってしまいます」

 手際よくお茶とプチケーキを整え、時代物の櫓ごたつのトイメンに彼女が座った。

 訳の分からない胸苦しさを感じた。単語にすると「理不尽」になる。

 こんなトンカチを、こんな可愛い子が世話をしていることが理不尽。昔ハトポッポが総理大臣をしていたような理不尽さ。チョウチンに釣り鐘、ブタに真珠、猫に小判なんて慣用句が頭に浮かんだ。

「こんないい人がいるんだったら、わたしが手伝いにくることなんか要らなかったかもしれませんね」

「こいつは、そんなんじゃないんだ」

「女の子を、こいつだなんて、いけません」

「いや、これは……」

「いいんです。あたしも、この人のことは、こいつと思ってますから」

「まあ……あの、お名前伺ってよろしいですか?」

「あ、佐倉さくらっていいます。最初のが苗字で、後のが名前」

「まあ、ゆかしいお名前。わたし篤子と申します。チュウクン、こいつはやっぱりいけません」

 女の子が意味深な顔つきになった。

「あ、あたし買い物の途中だから……手伝ってくれるんでしょうね」

「ああ、もちろん。約束だからな」


 お茶を飲むのもそこそこに、あたしは忠八を連れて、アパートの駐輪場に向かった。


「チュウクーン、お父さんに知られてしまった。いま携帯に……!」

 あの子が、また窓から叫んでいる。可愛くうろたえて、いよいよ怪しいぞ。

「もう……だったら、今夜は泊まっていけよ」

「うん、そうする。じゃ、さくらさんよろしく」

 え、あっさりお泊り?


 この胸くそ悪い出会いから、年末のドタバタが始まった……。


☆彡 主な登場人物
佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
佐倉  さつき       さくらの姉
佐倉  惣次郎       さくらの父
佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
秋元            さつきのバイト仲間
四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
四ノ宮 篤子        忠八の妹
香取            北町警察の巡査
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。 そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。 すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。 それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。 やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」 美人生徒会長の頼み、断れるわけがない! でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。 ※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。 ※他のサイトにも投稿しています。 イラスト:siroma様

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

先輩から恋人のふりをして欲しいと頼まれた件 ~明らかにふりではないけど毎日が最高に楽しい~

桜井正宗
青春
“恋人のふり”をして欲しい。 高校二年の愁(しゅう)は、先輩の『柚』からそう頼まれた。 見知らずの後輩である自分になぜと思った。 でも、ふりならいいかと快諾する。 すると、明らかに恋人のような毎日が始まっていった。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...