召喚された世界でも役立たずな僕の恋の話

椎名サクラ

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モノローグ

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「行かないでくれ!」

 アーフェンは尖った肩を掴んだ。

「……痛いですよ、ベルマンさん。大丈夫です、一人ならそんなに力を使わなくていいと思うんです」

「なにを言っているんだっ! あんたはもう……もう……」

 指先に感じるのは骨の感触。初めて会ったときと同じに戻ったと思っていた頬は触ってみればやはり肉は少なく、死相という言葉があるが、うっすらと残って見えるのは、消えずに留まっているクマのせいだろう。
 照りつける太陽の下で作業をしている真柴は焼けているはずなのに白を通り越して蒼く見える肌色、骨を包むだけの皮、弱々しい笑み。すべてが儚くて、今にも消え入りそうだ。

 そんな状態で力を使ったなら、弱々しい命の灯火が消えてしまう。
 ぞくりと背中に恐怖が駆け上がっていった。

「行かないでくれ……俺が言える立場じゃないのは分かっている。しかもあんたをこんなにしたのは俺だ……それでも力を使ってほしくないっ!」

 骨と皮だけとなった細い指がアーフェンの厳つい頬を撫でた。細かい傷をいくつも刻んだ表皮を親指が辿る。

「泣かないでください。ベルマンさんのおかげで僕はやっと『信念を貫く』勇気が持てたんです。だから、人生で一度だけでいいんです、自分を貫かせてください」

 柔らかい笑みを浮かべ、冷たい掌が頬を包み込んだ。次から次へと流れ落ちていく涙でこれ以上そこを濡らさないように。
 こういう優しい人だ、彼は。なぜもっと早く知ることはできなかったのか。そしたらあんなにも……死んでしまうのではというくらい『力』を使わせなかったのに……。

 後悔はずっとアーフェンを苦しめている。
 道具のように彼を使った罪がのしかかり、膨れ上がっていく慕情すら押しつぶそうとする。

 ――けれど。

 それでも膨らみ続けた恋心は肥大して破裂しそうになる。
 枯れ枝のような細い身体を抱き締めた。

 筋肉が隆起するほど強く、腕の中に閉じ込めて初めて、彼から湧きあがる熱を感じてどうしようもない気持ちになる。自分の中にこんな感情があったなんて知らない。だがもう我慢なんてできない。

「……あんたを……愛しているんだ」

 決して言ってはいけないと押し殺し続けた言葉が、堪え続けた末にほろりと落ちた。

「あんたに死んで欲しくないんだっ!」

 あの日、初めて会ったあの日に戻れたら……。
 何度も願い続けてきた。あの日に戻れたら、あの日から知っていたら、彼はこんな姿にならなかったはずなのに……。
 アーフェンは漆黒のまっすぐな髪に幾粒もの涙を落とした。
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