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第二章 魔獣討伐
02.聖者出立2
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囁かれた言葉の裏には「一言も発するな」と込められているようでゾクリと嫌な痺れが駆け上がっていく。
恐る恐る空いている大司教の隣に立てば、にこやかに笑って背中をパンパンと叩かれた。
背の低い大司教は頭の天辺が真柴の肩よりも低い位置にあるのに、糸のように細い目にギラリと見つめられると先程の神官よりもずっと怖ろしく感じる。
威厳というのとはまた違った恐怖に、真柴は唇を噛み締めた。
「皆のもの、これより神殿が召喚した聖者が騎士団と共に、我らの敵である魔獣を討伐に向かう。皆がこれより魔獣に苦しめられることのないよう、聖者が神より授かった力でもって鎮めてくれるであろう。皆々よ、共に神に祈りを捧げ成果を期待して待っておくれ」
わっと神殿の前がざわめき、民衆がキラキラとした目で真柴を見つめてくる。
(見ないでくれ、期待しないでくれ!)
自分がなにをしていいかも分からない真柴に寄せる期待が恐くて一歩下がろうとするが、小さな身体からは信じられないくらいの力で前へと押し出される。
「それ、騎士団の前に行きなされ。そしてしっかりと務めを果たしてくるのだ」
言いようのないプレッシャーと共に背中を押してくる。
フラフラと階段を下りれば、膝を突いて待っていた髭を蓄えた精悍な壮年の男性が顔を上げた。
隣には前日会ったばかりのアーフェンが男性と同じように膝を突いている。
「本日よりご一緒させていただきます騎士団長のカナリオ・ローデシアンでございます。さあ聖者様、こちらへどうぞ」
真柴の手を取り導いた先は、大きな黒い馬の前だ。
「えっ、これに乗るんですか?」
「聖者様は馬車酔いをされると聞きました。この馬は騎士団の中でも大きく安定した走りをします。当然お一人で乗られるのではなく、馬術に長けたベルマンがご一緒させていただきます」
その言葉と共にアーフェンが軽々と馬具を使い馬に乗った。細い真柴の身体をローデシアンが厳つい腕で持ち上げ、それをアーフェンが受け取る。無駄のない一連の動きであっという間に真柴の身体は馬上のものとなった。
初めて跨ぐ馬の背は乗り心地が良いとは言いがたいが、いつにない目線の高さは別の世界が広がっている。
見上げてくる人々から守ってくれているようでホッとするが、いざ動き出せばそんなことは言ってられなくなる。
なんせバランスが難しいのだ。
パカリパカリと動く度に身体が左右に揺らされるような錯覚に陥った。
「しっかりローシェンの鬣を掴んでいろ、落ちるぞ」
真柴の後ろから手綱を掴んだアーフェンは真柴の身体を固定させると、馬の歩みを僅かだが速めた。
「ひっ!」
「……もしかして、馬は初めてなのか?」
「いっ……うわっ! あ、はい……僕のいた世界では馬で移動することはないので……」
電車や車で充分事足りるし、健康志向の人間ならばスポーツバイクに乗ることもあるが、馬ではないのは確かだ。
ちっと舌打ちされ、ビクリと肩が跳ねた。
「なら最初から言え。馬車も酔うとなったら他の移動手段がないだろうが」
「……すみません……」
小さな謝罪は民衆の歓声に掻き消され、アーフェンには届かなかったようである。不機嫌なオーラを背中に浴びたまま、王宮から真っ直ぐ伸びる道に入り、出口へと向かっていく。真柴の乗った馬を先頭に、騎士団の面々や荷馬車、そして神官を乗せた馬車が続いていく。
民衆の歓声がどんどんと大きくなる。
笑顔で応えた方がいいが、とてもじゃないがそんな余裕はない。
機動力を考えたら乗り物を使用するのが一番だが、馬も馬車も乗れないとなったらこの世界では徒歩しかない。
これから討伐の度にこうしてアーフェンに迷惑をかけてしまうと想像しただけで真柴の背中には冷たい汗が流れ落ちた。
なぜ初手からこんなにも下手を打ってしまったのだろう。
落ち込んでもなにも始まらない。できるだけ迷惑をかけないようにじっとしていたいが、馬に馴れていない真柴ではじっとしている方が難しかった。
城郭を出ればセレモニーのためにゆっくりだった速度は一気に上がり、馬の揺れが大きくなる。
そうなれば鬣を掴むだけではバランスが取れない真柴はあわあわとパニックになっていった。
「内腿に力を入れろ! それも無理だったらローシェンの首にしがみついていろ。いくら馬が初めてでもそれくらいはできるだろっ!」
民衆がいない分、アーフェンの声が大きくなる。
「はっはい! うわっ怖い!」
「怖がっていてはこれからの旅が難しくなる。嫌だったら今すぐにでも馬車に移れ」
それはもっと嫌だ。
何を考えているか分からない神官たちと一緒にいるのは余計にストレスでしかない。ならば不慣れでも馬に乗り続けたかった。
「馬がなくてお前の世界はどうやってものを運んでいたんだ」
「あははは……」
鉄の馬とも言われる近代文明の数々によって支えられているが、それを説明するために口を開くことすらできない。
そして初日の宿営地である大きな街に着いた時にはもう夕方になっており、ぐったりと馬にしがみ付いて虫の息になった真柴がいるのだった。
当然食事をする気力もなく、その地の神殿が用意してくれた部屋でぐったりと眠るだけとなっていた。
恐る恐る空いている大司教の隣に立てば、にこやかに笑って背中をパンパンと叩かれた。
背の低い大司教は頭の天辺が真柴の肩よりも低い位置にあるのに、糸のように細い目にギラリと見つめられると先程の神官よりもずっと怖ろしく感じる。
威厳というのとはまた違った恐怖に、真柴は唇を噛み締めた。
「皆のもの、これより神殿が召喚した聖者が騎士団と共に、我らの敵である魔獣を討伐に向かう。皆がこれより魔獣に苦しめられることのないよう、聖者が神より授かった力でもって鎮めてくれるであろう。皆々よ、共に神に祈りを捧げ成果を期待して待っておくれ」
わっと神殿の前がざわめき、民衆がキラキラとした目で真柴を見つめてくる。
(見ないでくれ、期待しないでくれ!)
自分がなにをしていいかも分からない真柴に寄せる期待が恐くて一歩下がろうとするが、小さな身体からは信じられないくらいの力で前へと押し出される。
「それ、騎士団の前に行きなされ。そしてしっかりと務めを果たしてくるのだ」
言いようのないプレッシャーと共に背中を押してくる。
フラフラと階段を下りれば、膝を突いて待っていた髭を蓄えた精悍な壮年の男性が顔を上げた。
隣には前日会ったばかりのアーフェンが男性と同じように膝を突いている。
「本日よりご一緒させていただきます騎士団長のカナリオ・ローデシアンでございます。さあ聖者様、こちらへどうぞ」
真柴の手を取り導いた先は、大きな黒い馬の前だ。
「えっ、これに乗るんですか?」
「聖者様は馬車酔いをされると聞きました。この馬は騎士団の中でも大きく安定した走りをします。当然お一人で乗られるのではなく、馬術に長けたベルマンがご一緒させていただきます」
その言葉と共にアーフェンが軽々と馬具を使い馬に乗った。細い真柴の身体をローデシアンが厳つい腕で持ち上げ、それをアーフェンが受け取る。無駄のない一連の動きであっという間に真柴の身体は馬上のものとなった。
初めて跨ぐ馬の背は乗り心地が良いとは言いがたいが、いつにない目線の高さは別の世界が広がっている。
見上げてくる人々から守ってくれているようでホッとするが、いざ動き出せばそんなことは言ってられなくなる。
なんせバランスが難しいのだ。
パカリパカリと動く度に身体が左右に揺らされるような錯覚に陥った。
「しっかりローシェンの鬣を掴んでいろ、落ちるぞ」
真柴の後ろから手綱を掴んだアーフェンは真柴の身体を固定させると、馬の歩みを僅かだが速めた。
「ひっ!」
「……もしかして、馬は初めてなのか?」
「いっ……うわっ! あ、はい……僕のいた世界では馬で移動することはないので……」
電車や車で充分事足りるし、健康志向の人間ならばスポーツバイクに乗ることもあるが、馬ではないのは確かだ。
ちっと舌打ちされ、ビクリと肩が跳ねた。
「なら最初から言え。馬車も酔うとなったら他の移動手段がないだろうが」
「……すみません……」
小さな謝罪は民衆の歓声に掻き消され、アーフェンには届かなかったようである。不機嫌なオーラを背中に浴びたまま、王宮から真っ直ぐ伸びる道に入り、出口へと向かっていく。真柴の乗った馬を先頭に、騎士団の面々や荷馬車、そして神官を乗せた馬車が続いていく。
民衆の歓声がどんどんと大きくなる。
笑顔で応えた方がいいが、とてもじゃないがそんな余裕はない。
機動力を考えたら乗り物を使用するのが一番だが、馬も馬車も乗れないとなったらこの世界では徒歩しかない。
これから討伐の度にこうしてアーフェンに迷惑をかけてしまうと想像しただけで真柴の背中には冷たい汗が流れ落ちた。
なぜ初手からこんなにも下手を打ってしまったのだろう。
落ち込んでもなにも始まらない。できるだけ迷惑をかけないようにじっとしていたいが、馬に馴れていない真柴ではじっとしている方が難しかった。
城郭を出ればセレモニーのためにゆっくりだった速度は一気に上がり、馬の揺れが大きくなる。
そうなれば鬣を掴むだけではバランスが取れない真柴はあわあわとパニックになっていった。
「内腿に力を入れろ! それも無理だったらローシェンの首にしがみついていろ。いくら馬が初めてでもそれくらいはできるだろっ!」
民衆がいない分、アーフェンの声が大きくなる。
「はっはい! うわっ怖い!」
「怖がっていてはこれからの旅が難しくなる。嫌だったら今すぐにでも馬車に移れ」
それはもっと嫌だ。
何を考えているか分からない神官たちと一緒にいるのは余計にストレスでしかない。ならば不慣れでも馬に乗り続けたかった。
「馬がなくてお前の世界はどうやってものを運んでいたんだ」
「あははは……」
鉄の馬とも言われる近代文明の数々によって支えられているが、それを説明するために口を開くことすらできない。
そして初日の宿営地である大きな街に着いた時にはもう夕方になっており、ぐったりと馬にしがみ付いて虫の息になった真柴がいるのだった。
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