召喚された世界でも役立たずな僕の恋の話

椎名サクラ

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第三章 二度目の討伐の不幸

05.副団長、怒る2

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「ちょっ、団長! なんで俺が聖者と一緒なんですか!」
「他に世話ができるものがいない。お前なら親しくしている分、よく知っているだろう。次からは聖者の側仕えを同行させた方が良いか……」

 冗談ではない。騎士団に憧れを持っているドゴが同行しては粗を知られてしまう。未来の団員をむざむざ逃すのは好手ではない。

「はぁ……分かりましたよ。やれば良いんでしょ、やれば」

 そう言いながらしっかりと真柴を抱き締めているのはアーフェンだ。ローデシアンだけでなく他の団員にすら指一本触れさせない徹底ぶりを晒していると、気付かぬのは本人ばかり。
 侍女の案内で入ったのは随分と広い部屋だ。寝台が二台あり、白いレースで彩られた部屋はどう見ても夫婦で泊まる客に向けてのものだ。

「なんだこの甘ったるい部屋は……って、文句を言っても仕方ないか」

 二人一緒に入れる部屋で、しかも使うのは聖者となれば相応のものを用意するのは当然のことだ。これが一人部屋だったらもっと豪奢なものとなっていただろう。アーフェンのせいで格が落ちたのだから文句は言えない。
 窓辺に近い方の寝台に真柴の身体を下ろし、布団を掛けさせれば思わずじっと見ていたくなる。

「本当に面倒を掛ける」

 初めて会ったときから、真柴は倒れてばかりだ。
 城郭に上がってすぐにめまいを起こしたのが、まるで昨日のように思い出される。聖者のお守りなど面倒としか思えなかったが、今は少しだけ悪くないと思ってしまう。

「まああの時はこっちに来たばかりだからな。身体が万全じゃなかったのかも知れなかったな」

 だというのに辛い態度を取ってしまった。
 今更詫びるなど恥ずかしくてできない。

(少しだけ認めてやるか……こいつのおかげで騎士団は良い思いをさせて貰ったしな)

 ルメシア候との取り分は五対五。毒よりも素材を求める騎士団と薬で儲けたいルメシア候とでは互いの利害が一致しているので、揉めずに話が進んでいる。だがこれほどの量ならば、取り分が多くなるルメシア候から資金援助を得られる可能性も出てきた。

「お前はまさに金のなる木だ」

 思ってもいないことを口にして、ふと自分が嫌になり真柴から顔を背けた。
 どうしても思ったことを素直に吐き出すことができない、真柴には。少し嫌味を含めてしまうのはなぜだろう。
 理由はわからない。
 そんな自分が恥ずかしく、プイッと部屋を出た。
 侍女に尋ね団長の部屋をノックする。

「どうだ、聖者の様子は」
「よく寝てますよ。気を失っている時間が前回と変わらないなら、まあ起きるのは夜ですね。それまで俺は副団長の仕事をさせて貰いますよ、お守りなんてテキトーで良いでしょ」
「……お前がそう言うなら好きにすればいい」

 苦笑してローデシアンは書類を捲った。

「なんですか、それ」
「領民から集めた被害状況だ。どうやらここから南のところが一番出現するようだな」
「また魔魚ですか?」
「いや、一角水獣だ。あいつらは足が速い上に尻尾から水を出すからな」

 馬に似た形の一角水獣は硬い蹄だけで人を踏み殺すことができるが、そのほかにも角や尻尾から繰り出される攻撃でなかなか太刀打ちの難しい魔獣だ。
 盾の備えを厚くする必要がある。

「ルメシア候に防具を借りないといけませんね」
「先程快諾してくださった。その分、援助の額は少なくなるだろうがな……とはいえ、一角水獣ならば好都合だ。角は槍の素材になる上に皮も蹄も上質な武具になる」

 騎士団が一番遭遇したがっている魔獣と言っても過言ではない。
 だが戦うのが難しい相手でもある。それこそ今日のように真柴の力で属性の無効化をして貰わなければ勝てる見込みがない。

「聖者が起きたら向かいましょう、南部に!」
「そうだな。まずは聖者の回復が優先だ。好きなだけ食べて貰えるよう、起きるまでの間、狩りを存分にしないとな」

 このルメシア領ではアルヘンティーノ地方と異なり、食肉になれる魔獣は少ない。そのため、行きの分の食料しか積んでいない騎士団は帰路の食料をある程度ここで入手しなければならない。

「じゃあ今から若いのを連れて狩りに行ってきますよ!」
「うっかり魔獣に遭遇しないように気をつけるんだ。もしもの時は逃げることも恥じるな」

 まるでお前では魔獣の相手は力不足と言われているようで少し腹が立った。
 今までだってアーフェンはたくさんの魔獣と対峙してきた。怪我も多いがそれでも今なお生きている。

「子供扱いしないでくださいって」
「子供扱いではない。近頃の魔獣は……どうやら強さを増しているように感じる。今日の魔魚だって、音もなく現れ突然大群になった。そして成魚は隠れていた」

 不思議なことが起こっていると言いたいようだ。

 ――見返して認めて貰わなければ。

 そうだ、ここ最近の活躍はあくまでも真柴がいたからだ。騎士団だけで頑張ったわけじゃない。
 一気に真柴に対しての対抗意識が沸き起こる。
 聖者の力が必要なのも確かだ。あれほどの魔魚を前にして今日と同じように捕獲できたかと聞かれたら……自信はない。きっと団に大量の死傷者が出たはずだ。
 悔しい。
 せめて猟くらいは驚かせる数を得なければ。

「凄い量の獲物を獲ってきますから驚く準備をしていてくださいよ!」
「そうか、楽しみにしているぞ」

 僅かに笑って、あまり期待していないというふうに手を振ってきた。
 他にも被害がないかを何度も紙を捲って確認しているその後ろ姿に「ふんっ」と鼻を鳴らし部屋を出た。
 絶対に大量に獲ってきてやる。魔獣に遭遇したとしても自分たちの力で退治してやると意気込んで、若手を数名連れて領城を出た。
 まだ陽は高く、森に入ったところでそうそう魔獣に遭遇することはない。

「おーいお前ら。たっぷりと獲って団長を驚かせてやろーな!」
「さっきの魔魚退治は俺たちなんもできませんでしたから、体力余って大変ですよ、ここで発散しなくてどうするんですか」

 笑って弓と剣を持って森の中を歩いた。
 冬を前にしてアルヘンティーノよりも温かいこの地域は今、秋の到来で果実も木の実も豊富に実っている。動物も冬の準備でたっぷりと身体を膨らましている頃だ。僅かに動きが鈍くなってくれていることを願って、すぐに丸々と肥えた豚に似た野生生物を見つけて弓を射った。

「あっ残念。副団長、腕が鈍ったんじゃないですか?」
「そんなわけがあるか! 見てろよ、もう一度」

 逃げ足が速いそれは僅かに逸れた矢を見て慌てて森の奥へと逃げようとする。

「くそっ木が邪魔して弓じゃ無理だ!」
「ほら、やっぱり腕が鈍っているんですよ。俺がやりますって」

 実家が猟師という部下がいっぱいに弓を引っ張り矢を放つ。
 それもまたギリギリで躱され、機敏な動きで逃げていく。

「言えた義理か。くそっこのままじゃ顔向けできない。意地でもあいつを捕まえてやる」

 一匹だけで一日分の食料だ、逃して堪るか!
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