召喚された世界でも役立たずな僕の恋の話

椎名サクラ

文字の大きさ
25 / 59
第四章 聖者の力の源は

03.副団長は現実を知る1

しおりを挟む
 貴族たちの動きは早かった。一日でも早く己の領地にいる魔獣を討伐し、その身体から得られる利益を貪ろうと必死なのだろう。ぼそりと呟いてから王命が下るまで三日とかからなかった。

『騎士団の討伐には必ず聖者を同行させよ』

 この命令にはローデシアンですら逆らうことができない。
 苦々しい面持ちで書状を見つめるローデシアンの横顔をアーフェンは無表情のまま眺めた。

「お前がやったのか?」
「俺はなにもしてません。ここでした話が漏れたようです」

 淡々と告げると、ローデシアンは困った顔をした後、感情を隠した。それはアーフェンも同じだった。互いに腹の探り合いのように見つめ合い、口を切ったのはローデシアンだった。

「神殿への報告はお前がしろ。そして直接、聖者にも告げるのだ」
「了解しました」

 まるで何かの罰のように告げるが、どうってことはない。
 ただ命じるだけで良いのだから。

「次の討伐は十日後だ。雪が溶け始めたクーバース領へと向かう」

 南のクーバース領であれば、火系の魔獣が多いだろう。今までとは違った装備が必要だ。ちらりと頭を過り、部下たちに火系魔獣の倒し方を教えなければと思った次に、口頭で充分かと考え始める。
 なんせ怪我したところですぐに治るのだから、多くを告げるよりも実体験させた方が早いと考えてしまう。いつの頃からか、どこか投げやりになっていた。
 アーフェンは神殿へと向かった。

 壮大な建築で、王宮よりも目立っているとすら思う建物は、神に祈りを捧げる人々で溢れかえっていた。聖者が討伐に随行するようになってから訪う人が増え、日々の祈りを捧げているらしい。
 所詮、神殿ですら金なのだ。
 聖者を召喚し、その活躍を知らしめれば自動的に神殿の存在意義も高まり、布施が集まる。神の下僕と自らを称していながら、果たして神殿は魔獣討伐にどんな貢献をしたのかと叫びたくなる。

 実際に魔獣と戦っているのは騎士団だ。自分たちがいなければ奴らを倒すことはできないというのに……。
 苛立ちながらアーフェンは中へと入り、大司教の部屋へと向かった。

「そうかそうか。十日後じゃな。お前さんたちも大変だのぉ」

 大司教はいともあっさりと承諾したことに拍子抜けした。

(なんだ、神殿からの拒否じゃなかったのか……ならばなぜ団長は……)

 聖者の力を安売りするなと神殿が苦情を言ってきてるのだとばかり思っていたアーフェンは余計にローデシアンが何を考えているのか分からなくなった。
 口をへの字にしていると、長い眉毛で隠れた目でちらりと見、大司教がほっほっほっと笑った。

「それにしてもお前さん、随分と怖い顔をしているな。どうじゃ、神に祈って心の憂いを晴らしてから討伐に行ってみてはどうじゃ」
「……いや結構。それより、聖者へも報告をしたいので、居室を教えてほしい」
「いいよー。案内させるからちょっと待て」

 大司教がベルを鳴らせば、すぐに無表情の神官がやってきてアーフェンを真柴の部屋へと案内した。ノックをしてすぐに開いた扉の中に入って、言葉を詰まらせた。

(なんだこの部屋は……)

 国王すら羨ましがるほどに豪奢な部屋で贅沢をしていると思っていたのに、真柴がいたのは寝台が一つと端材で作った椅子が一脚だけある部屋だった。それも騎士団が新人に渡す部屋よりも狭く、小さな窓が一つあるだけ。
 どれほど貧しい家でももっといい環境だ。
 真柴の居室に入るのは初めてではないのを思い出す。以前も確かこんな殺風景な部屋だった。なぜ神殿で贅を尽くした対応を受けていると思い込んでいたのだろう。
 真柴はアーフェンが入ると慌てて起き上がろうとして……だが一人で起き上がることができないのか、控えているドゴがすぐさま身体を支えた。

「ベルマンさん、こんにちは」

 いつものように口角を上げるだけの笑みを浮かべているが、その顔に生気はなかった。
 薄い夜着の上からでもはっきりと分かるほど、細い。

(聖者は……こんなに痩せていたか?)

 いや、元々屈強ではないし、この世界の人間に比べれば細身だ。だが今目の前にいる真柴は骨に皮を纏っただけだった。頬はこけ、目は窪み下にクマもできている。
 初めてローシェンに乗ったときはもっと肉が付いていたはずの指も、枯れ枝のようである。

「どうしてそんなになってるんだ、もっとちゃんとしろ!」

 これでは討伐に連れて行けないじゃないか。

「おい、ドゴ。聖者のこれはなんだ? 変な瘴気に当たったのか?」
「いえ違います……」

 瘴気でなくこんなに痩せ細ったのは不摂生か。なんていうていたらくだ。これからも討伐が続くと分かっていて何をしていたんだ。
 カッと腹が熱くなるのを感じた。

「お前は聖者としての自覚があるのかっ! 神から与えられた力をなんだと思っているんだ!」
「……すみません」

 しかも今にも死にそうなほど顔色が悪いじゃないか。

「ふざけているのか。十日後にはまた討伐にでる。次は南のクーバース領だ、それまでにちゃんと身体をどうにかしろっ!」

 こんな枯れ木のような身体でどうやって力を使うつもりなんだ……もしかして討伐が面倒になってわざとそんなふりをしているのか。……ならば許せない。僅かでも自分の使命を投げ出すようなことなど絶対に……。
 あんな思いを自分にさせたくせに、今更逃げ出すなんて絶対に……。
 ギッと睨めつければいつものように口角を上げる作った笑みを浮かべて、小さく「すみません」と呟く真柴に「はっ!」と吐き捨てた。どこか、バツが悪くなった。

「十日後だ、分かったな。ローシェンへの餌やりもするな。今はとにかく身体をどうにかしろっ!」

 苛立ちのまま背中を向け扉を乱暴に閉めた。

 ――なんだ、あの身体は。俺への当てつけかっ!

 足音を鳴らして苛立ちを紛らわせるがちっとも晴れやしない。貴族を動かして王まで動かして使命を果たしてやろうというのだ、なにに不満があるんだ。

「くそっ」

 どうしてローデシアンも真柴も、自分の邪魔ばかりするのだ。騎士団のためにやっているのに。
 ……だが、変だ。
 神殿にいてあんな姿になるか?
 討伐中ですらあれほど食べていたのだ、王都にある神殿ならば、もっとまともなものが食べられるし、ドゴが傍にいて食べずにあの身体になろうなどできるのか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。 その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。 整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。 オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。 だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。 死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。 それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。 「見つけた。俺の対になる存在を」 正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……? 孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。 星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

処理中です...