召喚された世界でも役立たずな僕の恋の話

椎名サクラ

文字の大きさ
44 / 59
第七章 招かれざる訪問者

03.嵐の襲来3

しおりを挟む
 王妃は百合とも喩えられるほどに美しかったが、国同士の繋がりのための婚姻に愛情はない。結婚前から愛妾を抱える王との夫婦関係は最初から冷め切っており、ペンブローク王国の風習に慣れない王妃は次第に笑顔をなくし沈んでいった。

 ローデシアンはそんな王妃が気がかりだった。少しでもこの国を好きになって貰おうと心を砕いた。この国でしか咲かない花を贈り、無聊を慰めるためにこっそりと王宮から連れ出した。

 王妃は次第にローデシアンに心を開き、なんでも話すようになった。ローデシアンもまた、従騎士という立場を忘れ慕情を抱いた。
 そしてついに、一線を越してしまったのだった。

「なっ……太子はあんたの息子ってことか……」
「このことを知っているのは私と王妃だけ……だが王は疑った」

 当然だ。寄る辺ないはずの王妃が次第に明るくなり、側仕えの騎士だけに笑顔を見せるようになれば疑うなというほうが難しい。しかも産まれた子に自分に似た部分が見つからないとなれば余計だ。

 だが、王は王妃を糾弾しなかった。自分が王妃をぞんざいに扱っている自覚があったのだろう。代わりにローデシアンをどうすれば王妃から離せるかを画策した。
 魔獣の襲撃が過激化しているころだったのもあり、騎士団は魔獣の討伐にのみ従事するべきと命じた。
 今まで王族の護衛に当たっていた騎士は新たに近衛騎士隊と名付け、騎士団を二つに分けた。

 ローデシアンは当然自分も近衛騎士隊の所属になると思っていたが、拝命されたのは騎士団の団長だった。
 表向きは階級が上がる名誉だが、騎士団の扱いはぞんざいになり、国から供給されるはずの馬も武具も極端に減り、俸給すら減っていった。反比例して魔獣討伐の成果が上がっていないと非難されるようになった。

 アーフェンが騎士団に入団する前の話だ。

 その段になってローデシアンは理解した、王の意図を。だからこそ、粛々と団長の任を続けてきたのだ、片腕をなくすあの日まで。
 岩獅子討伐で負傷したローデシアンは、ついに自分に天罰が下ったのだと心のどこかでホッとした。自分がいなくなればこれから騎士団が不当な扱いを受けることはない。もう騎士団とも王族とも関わらないで生きていこうと、王都にある自分の家で慎ましく暮らしていた。

 だが先日、王妃が国より連れてきた侍女が手紙を携えてローデシアンを訪ねた。
 その手紙には太子が原因不明で伏せっていると書かれていた。ルメシア候の薬を飲ませても起き上がることができず、日に日に弱っていく様が綴られていた。
 いても立ってもいられなかったローデシアンはこうして真柴を訪ねてきたのだ。

「父親らしいことは何もできず、親として名乗り出ることもできない。だがただ一人、愛した人との子が死にゆくのを黙って見ていられない。この通りだ、聖者・真柴。私の命をどれほど使ってもいい、太子を助けてください」

 床に頭を着けて頼むローデシアンの姿に、アーフェンは言葉がなかった。こんなにも必死になるローデシアンを見たのは初めてだ。どんなことがあってもどこか冷静な部分を残していた彼しか知らない。その心を熱くさせるのは王妃に関することだけなのか。

 思い出すのは聖者召喚の儀だ。
 ローデシアンは何度も上階にて成り行きを見守っていた王族を一番下から見ていた。
 今でもその心を王妃に捧げているのだろう。
 アーフェンは首を振った。

「やめてくれ、カナリオ先生。どんなに頼まれても、だめだ……」
「私の命を……」
「そんな方法が分かってたら最初からしてる! でも現状はこいつの命が削られるんだ……どれだけ残ってるか分からない真柴の命がっ! ……だからそんな真似するなよ……あんたが頭下げたら……」

 心優しい真柴のことだ、頷くだろう。
 そんなの、許さない。絶対に。

「頼む、太子を助けてくれっ!」
「無理だと言っているだろっ! これ以上は言わないでくれ、カナリオ先生……」

 縋るような言葉しか出てこない。これ以上は言わないでくれ、これ以上真柴になにも言わないでくれ、このまま帰ってくれ。願うがローデシアンも縋るのはここしかないと、決してアーフェンの願いを受け入れてはくれない。
 真柴が細く長い息を吐き出した。

「分かりました」
「真柴っ!」
「聖者……ありがとうございます!!」

 ローデシアンは真柴の足下に縋り付き男泣きを始めた。泣くローデシアンなどアーフェンは初めて見るが、それに何かを思う余裕は全くない。真柴の細い肩を掴んで、怒りをぶつけるように口を開いた。

「さっきも言っただろう、力を使ったらお前の命が削られるんだっ! なんで了承をするんだ、死んでもいいと思ってるのかっ!!」

 唾を飛ばすほどの勢いに、だが真柴の面にあるのはいつにない優しい笑みだ。
 なぜ今ここでそれほど甘い笑みを浮かべるんだ、その顔は二人きりの時だけに見せてくれ。

「ありがとうございます、ベルマンさん。でも最近調子がいいので大丈夫です」
「いいわけないだろっ、寝れば三日は起きないくせになにが大丈夫だっ! ふざけるなっ」
「そ…………なの、ですか?」
「眠る度に俺がどれだけ心配したかわかってないだろっ!」

 八つ当たりだと分かっていても言わずにはいられなかった。どうして、どうしてこんなにも想っているのに汲み取ってくれないんだ。どうしてこんなにも心配しているのに分かってくれないんだ。

「お前を……死なせたくない……」
「ベルマンさん? どうしたんですか、なぜ泣いているのですか?」

 泣いているだと? この俺が?
 そんなはずがない、泣くわけがない。こんなにも怒っているのに、怒りの感情をぶつけているというのに、真柴が伸ばした手は下から掬い上げるように撫で、離れた指に光るものがあった。

 驚いて自分の頬に触れれば、彼が辿った所に濡れた感触が残っている。

「心配してくださったんですね、ありがとうございます。でも……」
「でもじゃない……お前は自分を粗末にしすぎるんだっ、だから、だから……」

 自分なんかにいいように使われるんだ。雑に扱われるんだ。
 真柴の心に触れなければ、今も自分は彼を道具のように使い続けただろう。その命が潰えることに怯えなければ使い続けていただろう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。 その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。 整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。 オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。 だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。 死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。 それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。 「見つけた。俺の対になる存在を」 正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……? 孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。 星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

処理中です...