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第八章 神々の争い
エピローグ
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騎士団の入団試験を通過した新人が今年も大勢研修所へとやってきた。
どれも魔獣によって家族を失ったものばかりだと聞いたが、その中に妙に筋の良い少年がいる。大柄な男たちの中では埋もれてしまうが、将来を期待してしまうほどの剣捌きだ。
そう言ってきたのは新たに騎士団長に就任した男だ。
今や騎士団に憧れる子供は少なくない。
魔獣の退治法が徐々に分かり始めると戦い方も変わり、近頃は死者を出すことが少なくなった。大きく凶暴な魔獣を剣で仕留める騎士の姿に憧れるのは至極当然だ。
「ほう、あの子か」
ローデシアンは木刀を振っている小柄な少年から目が離せなかった。輝かんばかりの黄金色の髪に同じ色の瞳。よく焼けた肌は健康そのもので手足は長いが、ローデシアンが目を奪われたのはそのどれでもない。誰よりも太刀筋が綺麗で基礎ができている。もしや貴族の子弟かと疑ってしまうほどだ。
身なりが良いわけでもないのにと、不思議でしかたなかった。
「そうです、レオンベルガーといって十八になったばかりだそうです」
十八にしては身体が小さいが、見込みはある。
「確かに育て甲斐がありそうだ」
ローデシアンはレオンベルガーから目が離せないまま呟いた。
隻腕となった後に騎士団を退団したローデシアンだが、今はかつての部下に頼まれて新人の剣術指導をしている。断らなかったのは、自分の愚かな行いのせいで騎士団を滅茶苦茶にしてしまった負い目だ。愛してはいけない人を愛してしまったが故に、組織を巻き込むこととなった。隻腕になって団長の職を辞したが、助けてほしいと請われれば、無碍にはできなかった。白髪が多くなった今でも続けるのは、ひとえに贖罪である。
もう一人、騎士団が頼れるはずだった男が組織から遠ざかる引き金を引いたのもローデシアンだ。その責任は重いと、不要と言われるまで騎士団にその身を捧げようと誓っている。
剣を握ったことのない新人に基礎を教えるのが役目だが、レオンベルガーはしっかりと基礎が教え込まれていた。我流の部分がどこにもない。優秀な剣士の指導を受けたのが一目で分かる。
だがすぐに話しては他の新人が戸惑うだろうと静観した。
一通り他の新人の動きも見て個々にアドバイスをするが、どうしても目がレオンベルガーへと向かってしまう。
どこか懐かしさを感じるのはなぜか。
彼の姿形はまったく見覚えがないというのに。
順番に声をかけてレオンベルガーの番になった。キラキラと瞳を輝かせてアドバイスを貰うのを待っている。
「君に剣を教えたのは誰だい?」
「父です! 俺の剣は全部父から教わりました」
なるほど、剣士の子というわけか。ローデシアンはひとり合点した。
「そうか、とても綺麗な太刀筋だ。きっと父君は優秀な剣士なのだろう」
「いえ、父は猟師です。もう一人の父は畑をやってますが」
おや?
猟師の子にしては立ち居振る舞いも言葉も上品だ。どういうことだ。
浮かんだ疑問は形を変え、この子が養子であると確信する。男の両親に引き取られる子は少なくない。むしろ年々多くなっているように思う。それだけ魔獣が蔓延り、騎士団への討伐要請も年々増えている。
(しかたない、この世界は神をしばし失ってしまったのだから)
そしてもう二度と、聖者も聖女も召喚されない。
あの日、王宮で起きた火事はあまりの惨状と子供へと姿を変えたドゴの訴えで、神の鉄槌とされた。聖者を召喚した大司教と聖者の亡骸を並べた幻影を作り出したのは他でもないドゴだ。火はすぐに鎮火されたが、一カ所だけ壊れた窓と壁に王宮の人々は悲鳴を上げ、神の脅威にひれ伏した。
特に国王はなにを思ったのか、あれ以来騎士団に対しての当たりが柔らかくなった。かつての騎士団へと戻そうとしたが、一度定まった法を変えるのは難しく、未だに近衛騎士団と分離しているが、もうローデシアンは気にしなかったし、充分に力をつけた騎士団は魔獣討伐を使命として皆が王宮に目を向けず邁進している。
だがローデシアンには心残りがあった。
男の両親と聞いて、懐かしい顔が頭に浮かんだ。彼らは今も生きているだろうか。特に聖者として異世界から呼び出されたあの人は……。
だがもうどこにいて何をしているかも分からない。
騎士団が団員育成を助けてほしいと探し回りルメシア候の情報を得て訪ねたが、かつての家はもぬけの殻となり行方を知るものも周囲にはいなかった。
あの二人の幸せを遠くから願うばかりだ。
「猟師なのに剣の心得があるのか。素晴らしいな。良かったら両親の名を教えてはくれないか」
もしできるなら騎士団を手伝って欲しいと掛け合えないか期待を込めて訊ねてみた。
命に関わる任務であるため、育てるための人手はいくらあっても足りないくらいだ。
「アーフェン・ベルマンと真柴・甲斐です」
予期していない名に、ローデシアンは目を見開いた。角膜の前を大量の涙が覆う。
「そう……なのか。仲の良い両親なのか?」
「はい、こちらが困るほど。きっと俺がいなくなったのを良いことにちょっかいかけては怒られてるはずです」
どちらがちょっかいをかけ、どちらが怒っているのか容易に想像がついて、ローデシアンは目頭を押さえた。
「そうか、そうか……では大事な両親が悲しまないように、強くならないとな」
決して死なぬように、怪我をせぬように、強く冷静になれ。
ローデシアンはレオンベルガーの頭を撫でた。
「素晴らしい騎士になってくれ」
「はいっ!」
元気な返事に、かつての部下が入団した日を思い出し、まだ目頭を熱くさせた。
(幸せを知れた……それだけで充分だ……神よ、この巡り合わせに感謝します)
この世界に神が居ないと分かっていても、感謝を贈らずにはいられなかった。
「行っちゃいました……寂しくなりますね……これからどうすればいいんだろう……」
「あいつがいる間は賑やかだったからな。八年か……やっと二人の時間ができた!!」
「なにを言っているんですか、あの子が心配じゃないんですか!?」
「しっかり仕込んでおいたから死にゃしないさ。それよりも俺は久しぶりのお前との時間ができたことの方が嬉しいぞ」
「……バカなことを言わないでください。こんな……まだ日が高いですよっ!」
「そんなに寂しいならもう一人家族を増やすか?」
「…………しばらくは二人の時間を過ごしたいです」
「そうか……そうか……」
「なっ、なに赤くなってるんですか!」
「それはお前もだろう!! 今夜、覚悟しとけよ!」
「知りません!」
「昔のしおらしさがなくなったな……でも、その方がいい。好きだ」
「……アーフェンの、バカ」
-END-
どれも魔獣によって家族を失ったものばかりだと聞いたが、その中に妙に筋の良い少年がいる。大柄な男たちの中では埋もれてしまうが、将来を期待してしまうほどの剣捌きだ。
そう言ってきたのは新たに騎士団長に就任した男だ。
今や騎士団に憧れる子供は少なくない。
魔獣の退治法が徐々に分かり始めると戦い方も変わり、近頃は死者を出すことが少なくなった。大きく凶暴な魔獣を剣で仕留める騎士の姿に憧れるのは至極当然だ。
「ほう、あの子か」
ローデシアンは木刀を振っている小柄な少年から目が離せなかった。輝かんばかりの黄金色の髪に同じ色の瞳。よく焼けた肌は健康そのもので手足は長いが、ローデシアンが目を奪われたのはそのどれでもない。誰よりも太刀筋が綺麗で基礎ができている。もしや貴族の子弟かと疑ってしまうほどだ。
身なりが良いわけでもないのにと、不思議でしかたなかった。
「そうです、レオンベルガーといって十八になったばかりだそうです」
十八にしては身体が小さいが、見込みはある。
「確かに育て甲斐がありそうだ」
ローデシアンはレオンベルガーから目が離せないまま呟いた。
隻腕となった後に騎士団を退団したローデシアンだが、今はかつての部下に頼まれて新人の剣術指導をしている。断らなかったのは、自分の愚かな行いのせいで騎士団を滅茶苦茶にしてしまった負い目だ。愛してはいけない人を愛してしまったが故に、組織を巻き込むこととなった。隻腕になって団長の職を辞したが、助けてほしいと請われれば、無碍にはできなかった。白髪が多くなった今でも続けるのは、ひとえに贖罪である。
もう一人、騎士団が頼れるはずだった男が組織から遠ざかる引き金を引いたのもローデシアンだ。その責任は重いと、不要と言われるまで騎士団にその身を捧げようと誓っている。
剣を握ったことのない新人に基礎を教えるのが役目だが、レオンベルガーはしっかりと基礎が教え込まれていた。我流の部分がどこにもない。優秀な剣士の指導を受けたのが一目で分かる。
だがすぐに話しては他の新人が戸惑うだろうと静観した。
一通り他の新人の動きも見て個々にアドバイスをするが、どうしても目がレオンベルガーへと向かってしまう。
どこか懐かしさを感じるのはなぜか。
彼の姿形はまったく見覚えがないというのに。
順番に声をかけてレオンベルガーの番になった。キラキラと瞳を輝かせてアドバイスを貰うのを待っている。
「君に剣を教えたのは誰だい?」
「父です! 俺の剣は全部父から教わりました」
なるほど、剣士の子というわけか。ローデシアンはひとり合点した。
「そうか、とても綺麗な太刀筋だ。きっと父君は優秀な剣士なのだろう」
「いえ、父は猟師です。もう一人の父は畑をやってますが」
おや?
猟師の子にしては立ち居振る舞いも言葉も上品だ。どういうことだ。
浮かんだ疑問は形を変え、この子が養子であると確信する。男の両親に引き取られる子は少なくない。むしろ年々多くなっているように思う。それだけ魔獣が蔓延り、騎士団への討伐要請も年々増えている。
(しかたない、この世界は神をしばし失ってしまったのだから)
そしてもう二度と、聖者も聖女も召喚されない。
あの日、王宮で起きた火事はあまりの惨状と子供へと姿を変えたドゴの訴えで、神の鉄槌とされた。聖者を召喚した大司教と聖者の亡骸を並べた幻影を作り出したのは他でもないドゴだ。火はすぐに鎮火されたが、一カ所だけ壊れた窓と壁に王宮の人々は悲鳴を上げ、神の脅威にひれ伏した。
特に国王はなにを思ったのか、あれ以来騎士団に対しての当たりが柔らかくなった。かつての騎士団へと戻そうとしたが、一度定まった法を変えるのは難しく、未だに近衛騎士団と分離しているが、もうローデシアンは気にしなかったし、充分に力をつけた騎士団は魔獣討伐を使命として皆が王宮に目を向けず邁進している。
だがローデシアンには心残りがあった。
男の両親と聞いて、懐かしい顔が頭に浮かんだ。彼らは今も生きているだろうか。特に聖者として異世界から呼び出されたあの人は……。
だがもうどこにいて何をしているかも分からない。
騎士団が団員育成を助けてほしいと探し回りルメシア候の情報を得て訪ねたが、かつての家はもぬけの殻となり行方を知るものも周囲にはいなかった。
あの二人の幸せを遠くから願うばかりだ。
「猟師なのに剣の心得があるのか。素晴らしいな。良かったら両親の名を教えてはくれないか」
もしできるなら騎士団を手伝って欲しいと掛け合えないか期待を込めて訊ねてみた。
命に関わる任務であるため、育てるための人手はいくらあっても足りないくらいだ。
「アーフェン・ベルマンと真柴・甲斐です」
予期していない名に、ローデシアンは目を見開いた。角膜の前を大量の涙が覆う。
「そう……なのか。仲の良い両親なのか?」
「はい、こちらが困るほど。きっと俺がいなくなったのを良いことにちょっかいかけては怒られてるはずです」
どちらがちょっかいをかけ、どちらが怒っているのか容易に想像がついて、ローデシアンは目頭を押さえた。
「そうか、そうか……では大事な両親が悲しまないように、強くならないとな」
決して死なぬように、怪我をせぬように、強く冷静になれ。
ローデシアンはレオンベルガーの頭を撫でた。
「素晴らしい騎士になってくれ」
「はいっ!」
元気な返事に、かつての部下が入団した日を思い出し、まだ目頭を熱くさせた。
(幸せを知れた……それだけで充分だ……神よ、この巡り合わせに感謝します)
この世界に神が居ないと分かっていても、感謝を贈らずにはいられなかった。
「行っちゃいました……寂しくなりますね……これからどうすればいいんだろう……」
「あいつがいる間は賑やかだったからな。八年か……やっと二人の時間ができた!!」
「なにを言っているんですか、あの子が心配じゃないんですか!?」
「しっかり仕込んでおいたから死にゃしないさ。それよりも俺は久しぶりのお前との時間ができたことの方が嬉しいぞ」
「……バカなことを言わないでください。こんな……まだ日が高いですよっ!」
「そんなに寂しいならもう一人家族を増やすか?」
「…………しばらくは二人の時間を過ごしたいです」
「そうか……そうか……」
「なっ、なに赤くなってるんですか!」
「それはお前もだろう!! 今夜、覚悟しとけよ!」
「知りません!」
「昔のしおらしさがなくなったな……でも、その方がいい。好きだ」
「……アーフェンの、バカ」
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きゃし様
読んでくださってありがとうございます💕
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新作ありがとうございます!
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iku様
読んでくださってありがとうございます💕
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後日譚はのんびり気長にお待ちいただけると嬉しいです、よろしくお願いします💕💕
はじめまして。本当に本当に面白かったです!
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最高の作品をありがとうございました!
瀬川セガ様
読んでくださってありがとうございます💕
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長かったので大変だったと思いますが、気に入っていただき本当に嬉しい限りです。
こちらこそ、見つけてくださったことに感謝!