「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

間瀬

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16 婚約解消へ

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 ラファエル王太子殿下より、デートができなかったことに対するお詫びがあってから、一週間が経過いたしましたわ。
 そして、わたくしの前にあるのは、一週間前と同じ内容のお手紙。

「今日は、街には参られますか……?」

 遠慮がちなレアの声に、わたくしは無意識のうちに止めていた息を、ゆっくりと吐きましたわ。

「……いいえ、やめておきますわ。またあの光景を見る可能性があるだなんて、耐えられませんもの」
「かしこまりました」

 この一週間、学園内のそこかしこでラファエル王太子殿下とシャロウン男爵令嬢のお姿をお見かけいたしましたわ。
 並んで歩き、何やら楽しげに笑い合うお二人を見るたびに、わたくしの心が悲鳴を上げておりましたわ。
 もう、苦しさよりも哀しみよりも、諦めのほうが大きくなってまいりましたの。
 端的に言いますと、疲れてしまったのですわ。

「お父様に先触れを送ってくださいまし。今から参りますわ」

 心の安定を図るため、無心になるためにと空いた時間は円周率の計算ばかりしておりましたら、いつの間にか分厚い束になってしまっておりましたの。
 ……どれだけ逃げたいと思っていたのかが、一目でわかりますわね。
 これでもかというほどうず高く積み上げられた紙に、我ながら苦笑してしまいますわ。
 軽く身支度を整え、お父様のいらっしゃるギーズ家当主の書斎に向かいましたわ。

「お父様、アリアンヌでございますわ」
「入りなさい」

 重厚なドアが執事によって開かれますと、大量の決済書類で雑然としている正面の執務机が真っ先に目に入りましたわ。
 もう見慣れた光景ではございますけれども、肝心の部屋の主が書類の陰にいらっしゃって見えませんわね。

「アリア、急に来訪するなんて、どうしたんだい?」
「……婚約の件で、お話がございますの」

 一瞬の静寂の後、お父様は突然勢いよく立ち上がられましたわ。
 近くの書類を巻き込んで。

「アリア、座って」
「はい」

 向かいのソファに座ると、それぞれに紅茶が給仕されましたわ。
 お父様はそれに軽く頷くと、そのまま人払いを命じられましたわ。

「それで、どんな答えが出たんだい?」
「……ラファエル王太子殿下とわたくしとの婚約を、解消してくださいまし。そして、ラファエル王太子殿下とシャロウン男爵令嬢とを結びつけて差し上げたいのですわ」
「そうか」

 お父様はカップを傾けた後、寂しげなほほ笑みを浮かべられましたわ。

「アリアは、お人好しで、ちょっとお節介なところがあるからなぁ……」

 まあ。

「お節介とはなんですの、訂正してくださいましっ」

 あまりにもひどい言い草ではなくって?
 お父様はひとしきり笑われた後、静かな青い瞳を、わたくしの瞳にひたりと合わせられましたわ。

「わかった。午後一番で陛下に婚約解消を願い出てくるよ」
「ありがとう存じますわ」

 お父様はあからさまに照れたような顔をし、それを隠すかのように早口で、鵞鳥のゲームの再戦をしようと言い出されましたわ。
 娘に礼を言われた程度で照れるだなんて、ギーズ家当主としてはまだまだですわね。
 道のりは険しい――前途多難ですわぁ……。
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