「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

間瀬

文字の大きさ
17 / 30

17 ボワセロー侯爵令嬢

しおりを挟む
 ヴェルサイユ中等学園の食堂の高い丸天井を見上げれば、美しく描かれた四季の移ろいが目に入るでしょう。
 その絵を見ていると、反響する生徒の方々のざわめきすらも一つの音楽であるかのように感じてしまいますわ。
 魂が魅入られそうに感じますわ。

「ギーズ公爵令嬢、実は今日の一時限目の講義で少々わからない部分ができてしまったんです」
「あら、そうですの? では、お昼ごはんデジュネの後に教えて差し上げますわ」
「ありがとう存じます」

 ボワセロー侯爵令嬢はとても向学心旺盛でいらっしゃって、加えて誠実と勤勉、謙虚の権化のようなお方なのですわ。
 目尻のつり上がった琥珀色アンブルの瞳、薄く形の整った唇、真っ直ぐ高く通った鼻筋、ゆるくウェーブした茶色マロンの髪。
 気品のあるその美しい外見もそうでございますが、内面も猫のようなお方で、ついつい愛でたくなってしまいますの。
 芯の強さが一番の魅力ですわ。
 初めて出会った日――学園に入学した日から三年もかけて、ようやくここまで懐いてくださるようになったのですわ。
 最初の頃なんて、当たり障りのない受け答えでするりするりと逃げていってしまわれたんですもの。

「ボワセロー侯爵令嬢、今日の会議サロンには、お越しになられますの?」
「はい、その予定です」

 そのとき、ふ、と背後からわたくしの手元に陰が落ちましたわ。
 立ち止まっていらっしゃるようですので、顔を上げて振り向いてみますと――ラファエル王太子殿下がいらっしゃいましたの。
 予想打にしませんでしたので、ひどく驚いてカトラリーが手を滑りそうになってしまいましたわ。
 もちろん、直前で取り繕いましたけれども。

「アリア」
「ら、ラファエル王太子殿下、ごきげんよう」

 読めない光をたたえた瞳が、わたくしをじっと見つめられましたわ。
 かと思えば、一度その目を伏せ、細く小さな息を吐かれて。
 一体、どうなさったというのでしょう……?

「時間をもらえないだろうか。今後について話がしたい」

 今後のお話――婚約解消の件のことですかしら?
 実は二日前の夕食の席で、お父様はおっしゃったのですわ。
 婚約解消は受け入れてもらえず、長い交渉の結果、なんとか保留にしてもらったのだと。
 理由は聞けなかったのですけれど、おそらくラファエル王太子殿下はご存知しょう。
 家同士、親の間の契約に基づく婚約とはいえ、この婚約解消の当事者ですもの。

「申し訳ございません、既に本日の予定は埋まっておりますの」
「明日は?」
「……申し訳ございません。明後日ならば、お昼の時間が空いておりますわ」
「そうか。ならば、水曜日の昼に」

 そのまま一人で去ってゆくラファエル王太子殿下の背を見つめていますと、わたくしの胸に何とも形容しがたい感情が湧き上がってまいりましたわ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

離婚したい女と離婚したくない男の結婚

Na20
恋愛
カレン・アイラスは犬猿の仲である男と結婚した。 レイノ・ウィズバーテンは長らく片想いしていた女と結婚した。 そんな二人の話。

婚約破棄寸前、私に何をお望みですか?

みこと。
恋愛
男爵令嬢マチルダが現れてから、王子ベイジルとセシリアの仲はこじれるばかり。 婚約破棄も時間の問題かと危ぶまれる中、ある日王宮から、公爵家のセシリアに呼び出しがかかる。 なんとベイジルが王家の禁術を用い、過去の自分と精神を入れ替えたという。 (つまり今目の前にいる十八歳の王子の中身は、八歳の、私と仲が良かった頃の殿下?) ベイジルの真意とは。そしてセシリアとの関係はどうなる? ※他サイトにも掲載しています。

【短編】誰も幸せになんかなれない~悪役令嬢の終末~

真辺わ人
恋愛
私は前世の記憶を持つ悪役令嬢。 自分が愛する人に裏切られて殺される未来を知っている。 回避したいけれど回避できなかったらどうしたらいいの? *後編投稿済み。これにて完結です。 *ハピエンではないので注意。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

犬猿の仲だったはずの婚約者が何故だか溺愛してきます【完結済み】

皇 翼
恋愛
『アイツは女としてあり得ない選択肢だからーー』 貴方は私がその言葉にどれだけ傷つき、涙を流したのかということは、きっと一生知ることがないのでしょう。 でも私も彼に対して最悪な言葉を残してしまった。 「貴方なんて大嫌い!!」 これがかつての私達に亀裂を生む決定的な言葉となってしまったのだ。 ここから私達は会う度に喧嘩をし、連れ立った夜会でも厭味の応酬となってしまう最悪な仲となってしまった。 本当は大嫌いなんかじゃなかった。私はただ、貴方に『あり得ない』なんて思われていることが悲しくて、悲しくて、思わず口にしてしまっただけなのだ。それを同じ言葉で返されて――。 最後に残った感情は後悔、その一つだけだった。 ****** 5、6話で終わります。パパッと描き終わる予定。

【完結】仕方がないので結婚しましょう

七瀬菜々
恋愛
『アメリア・サザーランド侯爵令嬢!今この瞬間を持って貴様との婚約は破棄させてもらう!』 アメリアは静かな部屋で、自分の名を呼び、そう高らかに宣言する。 そんな婚約者を怪訝な顔で見るのは、この国の王太子エドワード。 アメリアは過去、幾度のなくエドワードに、自身との婚約破棄の提案をしてきた。 そして、その度に正論で打ちのめされてきた。 本日は巷で話題の恋愛小説を参考に、新しい婚約破棄の案をプレゼンするらしい。 果たしてアメリアは、今日こそ無事に婚約を破棄できるのか!? *高低差がかなりあるお話です *小説家になろうでも掲載しています

【短編】婚約解消を望もうとも、婚約者から言葉を聞かない限りは応じませんわ

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
 伯爵令嬢のディアナ・アルヴィエは実家と絶縁し、婚約者であるアーレントの実家である辺境領の屋敷で暮らしていた。魔物討伐や結界の管理などを担う即戦力としていたディアナは、アーレンが成人したら結婚する。  はずだった。  王都に突如現れた黒竜討伐へと赴いた婚約者アーレンと様の部下だと名乗る使いから婚約解消の知らせが届く。それと同時に辺境地の結界に亀裂が入り、答え合わせは後回しとなるのだが、同時にカルト集団の奇襲を受けてしまい──!?  両親に愛されなかった令嬢が幸せを受け入れるまでのお話。  年下情緒不安定ヤンデレ騎士×自尊心の低い年上大魔法使いのお話。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

処理中です...