「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

間瀬

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17 ボワセロー侯爵令嬢

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 ヴェルサイユ中等学園の食堂の高い丸天井を見上げれば、美しく描かれた四季の移ろいが目に入るでしょう。
 その絵を見ていると、反響する生徒の方々のざわめきすらも一つの音楽であるかのように感じてしまいますわ。
 魂が魅入られそうに感じますわ。

「ギーズ公爵令嬢、実は今日の一時限目の講義で少々わからない部分ができてしまったんです」
「あら、そうですの? では、お昼ごはんデジュネの後に教えて差し上げますわ」
「ありがとう存じます」

 ボワセロー侯爵令嬢はとても向学心旺盛でいらっしゃって、加えて誠実と勤勉、謙虚の権化のようなお方なのですわ。
 目尻のつり上がった琥珀色アンブルの瞳、薄く形の整った唇、真っ直ぐ高く通った鼻筋、ゆるくウェーブした茶色マロンの髪。
 気品のあるその美しい外見もそうでございますが、内面も猫のようなお方で、ついつい愛でたくなってしまいますの。
 芯の強さが一番の魅力ですわ。
 初めて出会った日――学園に入学した日から三年もかけて、ようやくここまで懐いてくださるようになったのですわ。
 最初の頃なんて、当たり障りのない受け答えでするりするりと逃げていってしまわれたんですもの。

「ボワセロー侯爵令嬢、今日の会議サロンには、お越しになられますの?」
「はい、その予定です」

 そのとき、ふ、と背後からわたくしの手元に陰が落ちましたわ。
 立ち止まっていらっしゃるようですので、顔を上げて振り向いてみますと――ラファエル王太子殿下がいらっしゃいましたの。
 予想打にしませんでしたので、ひどく驚いてカトラリーが手を滑りそうになってしまいましたわ。
 もちろん、直前で取り繕いましたけれども。

「アリア」
「ら、ラファエル王太子殿下、ごきげんよう」

 読めない光をたたえた瞳が、わたくしをじっと見つめられましたわ。
 かと思えば、一度その目を伏せ、細く小さな息を吐かれて。
 一体、どうなさったというのでしょう……?

「時間をもらえないだろうか。今後について話がしたい」

 今後のお話――婚約解消の件のことですかしら?
 実は二日前の夕食の席で、お父様はおっしゃったのですわ。
 婚約解消は受け入れてもらえず、長い交渉の結果、なんとか保留にしてもらったのだと。
 理由は聞けなかったのですけれど、おそらくラファエル王太子殿下はご存知しょう。
 家同士、親の間の契約に基づく婚約とはいえ、この婚約解消の当事者ですもの。

「申し訳ございません、既に本日の予定は埋まっておりますの」
「明日は?」
「……申し訳ございません。明後日ならば、お昼の時間が空いておりますわ」
「そうか。ならば、水曜日の昼に」

 そのまま一人で去ってゆくラファエル王太子殿下の背を見つめていますと、わたくしの胸に何とも形容しがたい感情が湧き上がってまいりましたわ。
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