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24 カリキュラム
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年度替わりの休暇――夏季休暇。
暑くなってくる夏を肌で感じている今日このごろですわ。
「お嬢様、学園から書状が届きました~」
レアも、暑さで疲れが溜まっていらっしゃるようで、心なしか声に元気がございません。
ヴェルサイユ中等学園の赤い封蝋が施された紙の合わせ目にペーパーナイフを差し込み、開封いたしましたわ。
「……レア、ボワセロー家に使いを送る用意をしてくださいまし」
「かしこまりました」
わたくしはもう一度便箋に目を通しましたわ。
当然ながら、流麗な筆跡で書かれている内容は変わっておりませんでしたわ。
「お嬢様」
「どうなさったの?」
戻っていらっしゃったレアは、どこか困惑したような表情をされていらっしゃいましたわ。
「たった今、ボワセロー家のマティルド令嬢がいらっしゃるとの先触れが……」
「マティルド様が? 我が家に?」
ということはやはり――お手紙、ですわね……。
数十分後、ギーズ家の邸宅前にボワセロー家の馬車が横付けにされましたわ。
客間に通されたマティルド様は、わたくしが入室しますと、そわそわとした様子で立ち上がられました。
「マティルド様、ようこそギーズ家へおいでくださいました」
「急な訪問、受け入れていただき感謝いたします」
紅茶をいただきつつ軽い雑談を数分した後、本題に移りましたわ。
わたくしが学園から届いた封筒をテーブルに置きますと、マティルド様も同じように赤い封蝋の付いたそれを出されました。
「半年で一年分の単位を修め、一年でヴェルサイユ中等学園の卒業資格を与える――そんな特別カリキュラムを、一定水準を満たした第二学年の生徒に案内しているそうですね」
「このカリキュラムの制度の立ち上げは、王家が主導……目的が見えませんわね」
この制度によって、王家が得をすること――全く存じませんわ……。
「あの、もしかしたら……王太子殿下とアリアンヌ様は婚約者なので、一緒にいる時間を長くするためではないでしょうか? フォンテーヌブロー高等学園は全寮制なので」
「……あぁ……たしかに、その線がありましたわねぇ……」
シャロウン男爵令嬢とお付き合いなさるのは、ラファエル王太子殿下のご意思であるだけですので――国王陛下や王妃殿下は、わたくしのことを婚約で繋ぎ止めておきたいのでしょう。
「まあ何にしても、普段の授業の進行はわたくしにとっては少々遅かったので――このカリキュラムで来年度は過ごすつもりですわ。マティルド様はどういたしますの?」
「アリアンヌ様についてまいります!」
まぁ……それは少々……。
「ご自分の意志を大切になさってくださいまし」
「アリアンヌ様について行くことがわたくしの意志です! それに、わたくしも勉学を早く終わらせ、次期領主としての勉学に励みたいんです」
「そうですの……ならよろしいですわ」
マティルド様のお家、ボワセロー家には直径の男児がいらっしゃいませんので、必然的にマティルド様は次期ボワセロー家当主となる宿命を背負っていらっしゃるのですわ。
わたくしも親友として、微力ながら精一杯お手伝いさせていただくつもりですわ。
「マティルド様、ともに頑張りましょう」
「はい!」
わたくしは、自分の自由な未来を掴み取るために。
マティルド様は、男尊女卑の風潮のある貴族社会の中で、女侯爵として力強く生き抜いてゆくために。
二人で、何者にも邪魔されることのない世界を切り開いてゆくのですわ!
暑くなってくる夏を肌で感じている今日このごろですわ。
「お嬢様、学園から書状が届きました~」
レアも、暑さで疲れが溜まっていらっしゃるようで、心なしか声に元気がございません。
ヴェルサイユ中等学園の赤い封蝋が施された紙の合わせ目にペーパーナイフを差し込み、開封いたしましたわ。
「……レア、ボワセロー家に使いを送る用意をしてくださいまし」
「かしこまりました」
わたくしはもう一度便箋に目を通しましたわ。
当然ながら、流麗な筆跡で書かれている内容は変わっておりませんでしたわ。
「お嬢様」
「どうなさったの?」
戻っていらっしゃったレアは、どこか困惑したような表情をされていらっしゃいましたわ。
「たった今、ボワセロー家のマティルド令嬢がいらっしゃるとの先触れが……」
「マティルド様が? 我が家に?」
ということはやはり――お手紙、ですわね……。
数十分後、ギーズ家の邸宅前にボワセロー家の馬車が横付けにされましたわ。
客間に通されたマティルド様は、わたくしが入室しますと、そわそわとした様子で立ち上がられました。
「マティルド様、ようこそギーズ家へおいでくださいました」
「急な訪問、受け入れていただき感謝いたします」
紅茶をいただきつつ軽い雑談を数分した後、本題に移りましたわ。
わたくしが学園から届いた封筒をテーブルに置きますと、マティルド様も同じように赤い封蝋の付いたそれを出されました。
「半年で一年分の単位を修め、一年でヴェルサイユ中等学園の卒業資格を与える――そんな特別カリキュラムを、一定水準を満たした第二学年の生徒に案内しているそうですね」
「このカリキュラムの制度の立ち上げは、王家が主導……目的が見えませんわね」
この制度によって、王家が得をすること――全く存じませんわ……。
「あの、もしかしたら……王太子殿下とアリアンヌ様は婚約者なので、一緒にいる時間を長くするためではないでしょうか? フォンテーヌブロー高等学園は全寮制なので」
「……あぁ……たしかに、その線がありましたわねぇ……」
シャロウン男爵令嬢とお付き合いなさるのは、ラファエル王太子殿下のご意思であるだけですので――国王陛下や王妃殿下は、わたくしのことを婚約で繋ぎ止めておきたいのでしょう。
「まあ何にしても、普段の授業の進行はわたくしにとっては少々遅かったので――このカリキュラムで来年度は過ごすつもりですわ。マティルド様はどういたしますの?」
「アリアンヌ様についてまいります!」
まぁ……それは少々……。
「ご自分の意志を大切になさってくださいまし」
「アリアンヌ様について行くことがわたくしの意志です! それに、わたくしも勉学を早く終わらせ、次期領主としての勉学に励みたいんです」
「そうですの……ならよろしいですわ」
マティルド様のお家、ボワセロー家には直径の男児がいらっしゃいませんので、必然的にマティルド様は次期ボワセロー家当主となる宿命を背負っていらっしゃるのですわ。
わたくしも親友として、微力ながら精一杯お手伝いさせていただくつもりですわ。
「マティルド様、ともに頑張りましょう」
「はい!」
わたくしは、自分の自由な未来を掴み取るために。
マティルド様は、男尊女卑の風潮のある貴族社会の中で、女侯爵として力強く生き抜いてゆくために。
二人で、何者にも邪魔されることのない世界を切り開いてゆくのですわ!
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