「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

間瀬

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26 留学生のサポート

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 早足で長い回廊を通り抜け教員室の扉をノックいたしますと、すぐにドアが内側から開かれましたわ。
 開けてくださった教員の方はわたくしとマティルド様の顔を確認すると、そのまま奥の小部屋へと案内してくださいました。

「おかけください」

 小部屋で出迎えてくださったビュシエール夫人は、疲れの滲んだ瞳でわたくしとマティルド様を見つめられました。
 どうなさったのでしょう。

「来週、スウェーデンから留学生が数人いらっしゃいます。お二人にはその方々の学園でのサポートをお願いしたいのです」

 これは流石に予想外の展開ですわね。

「なぜ、わたくしたちなのですか?」

 さすがマティルド様、よくぞそれを聞いてくださいましたわ!
 わたくしも気になって仕方ないのですもの……。

  「第一に、お二人は品行方正であり、かつ礼儀作法が完璧である点」

 日々の鍛錬の賜物ですわね。
 分厚い本を何冊積み上げても崩さないよう、頭頂部の毛が擦り切れて無くなってしまうのではないかと思うほど練習したあの日々。
 努力は必ず報われるのですわ。

「第二に、サロンによる学園運営の素晴らしい手腕」

 て、照れてしまいますわっ……。
 いずれ王太子殿下との婚約関係は解消か破棄かは存じませんが、消え去るでしょう。
 もし「傷物令嬢」として良縁に恵まれなかったら――現在は代理人を隠れ蓑にして経営しているあの商会のお仕事に人生を捧げるのも一つの手ですわね。
 凄腕女経営者として名を馳せる。
 あぁ、なんともいい響きですわぁっ……!

「第三に」

 そこでビュシエール夫人はふぅっと息をつかれました。

「挙げだしたらきりが無いので、もうここで打ち切らせてもらいます」
「わかりました。教えてくださったこと、ありがとう存じます」

 マティルド様の完璧な礼に合わせ、わたくしも感謝の意を表しましたわ。
 ビュシエール夫人はそんなわたくしたちの様子に目を細められました。

「本当に、お二人は貴族令嬢の鏡ですね」

 なんて嬉しい褒め言葉なのでしょう。

「ありがとう存じますわ」

 もう一度略式礼を取りましたわ。
 ビュシエール夫人は給仕された紅茶のカップを持ち上げて香りを確かめ、それを口に含んで毒がないことを示してくださいました。
 次にわたくしよりも身分の低いマティルド様が同じことをし、最後にわたくしが。
 ……普段飲んでいるものと比べればいくらか質は劣りますわね。
 まぁわたくしたちは社交界デビューすらしていない若輩者ですし、学園の生徒、つまりは内部の者に出すお茶としては最高級のものなのでしょう。

「本題に戻りますわね。留学生の方々のサポートを、ということでしたかしら?」

 扇子を口元に当て、数秒の思案。
 決めましたわ。

「そのお話、わたくしはお受けいたしますわ」

 気品あふれる微笑みの裏に、打算という名の本心を隠して。
 外国の方々と親交を深めておけば、いずれ何かあった際にも役に立つことでしょう。
 商会のほうも、国外に手を広げてゆけるのではなくて?
 素晴らしい将来像が目に浮かびますわね、オーホッホッホ!

「わ、わたくしもお受けいたします」

 ふふふ、マティルド様も受けてくださるのなら、百人力ですわね?

「では、来週の週初めの日の朝、始業前に学園長室へ来てください。顔合わせも兼ねて話し合いを行います」
「わかりましたわ」

 わたくしとマティルド様は辞去の挨拶を述べ、そのまま食堂に直行いたしましたわ。
 さあ、デザート、愛しのデザートが待っていますわ!

「アリアンヌ様、カヌレ・ド・ボルドーがお好きだったんですね」

 向かいに座っていらっしゃる、微笑ましそうな表情のマティルド様。

「わたくしの分もどうぞ」

 ……本当は、少々はしたないのですけれども。
 今日くらい、いいですわよね……?

「あ、ありがとう存じますわっ!」

 あぁ……幸せの極み、ですわぁ……。
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