王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

文字の大きさ
23 / 71

第23話 家庭教師

しおりを挟む
 お兄様推薦の新しい家庭教師がやって来た。
 今日は初回ということで、いつもは朝から授業だが、昼からの授業である。
 リビングで俺が待っていると、メリッサの後について女性が現れた。どうやら彼女が新しい家庭教師であるようだ。
 メリッサより背が低い可愛いらしい女性である。後ろに髪をくくっているので、その容姿で一番目につく耳が露わになっていた。その形は、まさかのエドガエル君を思い起こさせるような耳の形である。いわゆるエルフというやつではないだろうか。
 
 「それで、弟君はどこなのじゃ?」
 前を行くメリッサに尋ねる。
 「あっ!! 僕です」
 手を挙げる俺をじっと見つめる。
 「嘘をつくな。ヨハネスと全然似てないじゃないか」
 「いや本当ですよ」
 容姿を見てお兄様の弟である事に疑念を抱いている様子。メリッサの方に視線を向けた。
 「はい、こちらがジークフリート様になります」
 「な、何じゃと!! ヨハネスの弟だというから期待していたというのに………どうしようかの……やっぱり断ろうかのう………あんまり知能が高いようには見えんがのう……肝心のヨハネスもおらんし……」
 驚いた後、何やらぶつぶつ言っている。何を期待していたのかは分からないが、教えるのをやめようとしているみたいだ。どうやらお兄様もここにいると思っていたのだろうか。お兄様は学園で忙しくされているから、ここに頻繁に帰ってくることはできないのだ。
 折角お兄様に紹介してもらったのに、何も教わらずに帰らせてしまってはお兄様に申し訳ない。
 「なんか期待を裏切ってしまって、すいません。折角なんで今日はお試しで教えてもらえると嬉しいんですけど」
 一度教えてもらって、来たくないと言われてしまったら、仕方ないので今日までにしてもらおう。教え方が合わなかったと言えばお兄様も納得してくれるだろう。
 「うん。まあ、そうじゃのう。折角来たんじゃからのう」
 「じゃあ、僕の部屋に行きましょう」
 「分かったのじゃ」
 「では、よろしくお願いします。後ほど休憩時間におやつを持っていきますので」
 メリッサがお辞儀をして、俺達は俺の部屋へと向かった。

 「まずは自己紹介じゃ。私はラズエルデじゃ。珍しいかもしれんが、エルフという種族じゃ」
 「おー、エルフですか。僕の友達にもエルフがいますよ。それで、僕の名前はさっきもメイド長のメリッサが言いましたけど、ジークフリートです。ジークとでも呼んでください」
 エドガエル君はもう俺の友達ってことでいいよな。
 「その年でエルフの友達とは珍しい。王族ともなると顔が広くなるし、そんなもんなのかのう。まあいい。授業を始めるとするか。私の知識はエルフ族に伝わる知識じゃからな。人族のそれとは全然違うものだったりするのじゃ」
 エルフの友達は珍しいというが、今思うと唯一の友達がエドガエル君だな。今までソフィーとエリィ姉さんとしか遊んでいなかった気がする。そんな事を考えながら俺はラズエルデの授業を受けた。
 その授業内容はやや前世の知識に近いものがあった。こちらの方がすんなりと受け入れることができたし、何よりラズエルデの授業は分かりやすい。
 時々対話を挟んで、俺が理解しているかを確かめてくれる。
 「なかなか理解力があるじゃないか。そう言えば万有引力の法則とやらを考えたのはお主らしいじゃないか。その発想には驚かされたが………なかなかどうして。なるほどな。ヨハンと同じ血を引くだけはあるということか」
 理解力があるというか、全て知っていることだったりするのだがそこは言わないでおこう。お兄様と比較されたら、そのくらいのドーピング的な知識チートがないとやっていけないからな。

 どうやら、休憩に入ったようなので、世間話をしてみることにした。
 「ちなみにお兄様とはどんな関係なのですか?」
 「むぅ。ヨハンか。ヨハンと最初に会ったのはダンジョンでのぅ。そこでヨハンに助けられたのじゃ。最初は命の恩人といったところじゃったのじゃが、今では時々一緒に冒険する戦友といったところじゃのう」  
 おや。お兄様の事を話しているラズエルデの顔が少し赤みをさしているような気がする。それにしてもダンジョンとな。そんな冒険をお兄様はしているのか。
 「冒険ですか? お兄様が?」
 「あっ。秘密だったのかのう。そういえば身分を隠しておったからな。でも、家族なら大丈夫か。王族であることを最近になって私も知ったのじゃ。お主の面倒を見てほしいという事で聞いてみれば、王族の住まう地域に出向いて欲しいという事でピンと来てしまったのじゃ」
 身分を隠して冒険者として活躍しているなんて、王道の主人公ムーブですな。流石お兄様です。
 それにしても、ラズエルデの耳が心なしかしょんぼり下に垂れている気がする。もしかして王族との身分差に悩んでいるとか、身分について教えてもらえてなかった事に落ち込んでいるのか。どちらにしてもこれはあれだな。
 「なるほど。先生はもしかして、お兄様の事が好きだったりします?」
 「な、な、な、な、な、何を言っておるのじゃ。そ、そ、そ、そんな事はないぞ。わ、わ、わ、わ、私達はお互いに背を預け合う戦友なんじゃ。それ以上でもそれ以下でもない」
 なんて分かりやすく狼狽えるんだ。これは確実にお兄様に惚れているな。ピーンときてしまったぞ。
 「そうですか。場合によっては協力してもよかったんですけど。気のせいなら、余計なお世話ですね」
 「ま、ま、待て。協力じゃと。具体的に何をしてくれるのじゃ。いや、なんじゃその顔は? あれじゃぞ、別にヨハンの妻になろうとか、そ、そ、そういうんじゃないぞ。もっと今より、ちょっと仲良くなれたらいいなと、そう思ってるだけだからな」
 お兄様の恋愛事情は詳しくないが、王族の第一継承権を持ってることを考えれば、妻候補はたくさんいても問題ないだろう。これだけ可愛いなら、お兄様も満更ではないのではないのだろうか。それにこれを交渉材料にすれば、ラズエルデに対して優位にことを進めることができる。
「具体的に………そうですね。例えば、お兄様の好きな食べ物を教えてあげることができますね」
「……なんじゃ、そんな事か」
「甘いですね。先生。甘、甘です。相手の胃袋を掴むのは重要ですよ。それに、一緒に出掛けて店に入るときも、好物の置いてある店に行った方が話が弾むというもの」
「な、なるほどじゃ。で、その好きな食べ物とやらは何じゃ?」
「それは……まだ教えることはできません」
「何故じゃ?」
「世の中ギブ&テイクですよ。僕の情報に価値があるわけですから、先生にも対価を払っていただかないと」
「対価じゃと?」
「そうです。お兄様が家庭教師に選んだという事は先生は優秀に違いないのでしょう」お兄様の人選に間違いがあるはずがない。そう言われたラズエルデも満更ではない様子である。「そこで、授業は今後も継続していただき、なおかつゆとり授業を取りいれていただきたい」
「ゆとり授業じゃと?」
「そうです。具体的には週に三日休んでも大丈夫にしてください」
「うーむ。授業を継続するのはヨハンからも頼まれているし、覚えも存外悪くない。そのうえに報酬も破格じゃからのぅ。しかし、やるからにはちゃんと教えたいところなんじゃがな………」
「いえ、僕には休みが三日あった方が効率があがります。むしろ、最大効率です。先生もお兄様との仲が進展したら、一緒にどこか出かけるとなった時に僕との授業があったら嫌でしょう。休みが多い方がウィンウィンの関係が築けます。いろいろ協力しますよ。お兄様の弟である僕を味方につけておいた方がいいですよ」
「む?! そういう事なら………」
 チョロい。
「契約成立ですね。メイド長に伝えておいてください先生との授業以外にメイド達との授業もありますから、その辺も調整して頂かなければなりません」
「お主、本当にヨハンの弟か? もっとやる気を出した方がいいじゃないかのぅ。まぁいい。それで、ヨハンの好物はなんなのだ?」
「そうですね……」
 その時扉からノックを叩く音がした。
「失礼します。おやつをお持ちしました」
 メリッサがおやつを持って来てくれたようである。
「ちょうどいい時に来ました。お兄様も好物の一つである。プリンですね。どちらかというと、それと一緒に飲むカッフェを好んでいますが、そこは二つの相乗効果です。プリンあってのカッフェ、カッフェあってのプリンというやつです」
「プリン?」
「そうです。僕が昔に開発したデザートです。最近できた店で買う事ができるようになっているそうですよ。デート先としてもばっちりです」
 俺が開発したデザートはお兄様が上手いことやってくれたので、レシピの特許化に成功しているのだ。おかげで王家にその権利のお金が入ってきているのだ。国民から税金以外の収入として納めることができているらしい。
「ほう。それは知らなかったな。どれどれ、頂くとするかの」
 スプーンでプリンをすくって食べると、その顔が一瞬固まった。
「なんじゃコレ。なんじゃコレは!! 美味しいのじゃ。この白いものは何じゃ?」
「ホイップクリームですね。プリンと一緒に食べるとまた違った味わいがして美味しいですよ」
「ふぉぉぉぉぉぉーー!! 甘さが増したのじゃ。プリンにクリームをつけるとその美味しさは2倍、そしてこの黒い部分が少しの苦みを加え、さらに倍!! そしていつものカッフェをあえて砂糖を入れずにビター3倍で飲むことにすれば、さらに×3の旨味成分じゃ!! 合わせて12倍の美味しさじゃ!! 美味しすぎるのじゃ。ヨハンが好物だというのも頷ける。これはどこで買えるのじゃ。不覚。こんなものが発売されていようとは私もまだまだ知らないことがあったようじゃ」
「王都に新しくできた【白猫亭】という店で買えると思いますよ。けど、先生はいつでも言ってくれれば、用意しておきますよ」
 「そ、そうか。それは良いな。それじゃぁ、お代わりをもう一つもらっても良いかのぅ」
 「いいですよ。メリッサ、もう一個持ってきてくれない?」
 「かしこまりました」

「それにしても、こんな美味しい物を考えつくとはお主、料理人としての才能があるんじゃのう。私もお主から学ぶことがあるようじゃ。流石はヨハンの弟といったところか」
 なにやら俺の評価が上がっているようである。この世界の女性にスイーツは鉄板であるようだな。ある意味チョロい。
 こうして、俺は新しい家庭教師ともなんとか上手くやっていけそうである。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞! 2024/02/21(水)1巻発売! 2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!) 2024/12/16(月)3巻発売! 2025/04/14(月)4巻発売! 応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!! 刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました! 旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』 ===== 車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。 そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。 女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。 それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。 ※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...