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第24話 綺麗な薔薇には刺がある
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ラズエルデがプリンを2回お代わりした後、俺の授業が再開することになった。
「次はこれじゃ」
ラズエルデは一冊の本を鞄から取り出した。
「これは?………読めないですね」
中をペラペラめくると見たことがない言語と奇妙な絵が書かれていた。
「エルフ族の言葉じゃ。これを使えるようになれば、エルフが書いた書物が読めるようになるので、使いこなせるようになった方がよいじゃろう。エルフの叡智の結晶を読むことができるのは人族にとって大きなアドバンテージになるじゃろう。ヨハンは私と会った時から、使いこなせておったようじゃからな。お主も今から勉強すれば、立派に使いこなせるようになるじゃろう。それじゃあ、私の後に真似して読んでいくのじゃ」
お兄様は語学も達者なのか。しかし、俺に覚える事ができるだろうか。前世では日本語と英語しか使いこなせていなかったんだが。それも英語は普通くらいだった。こちらの言語は生まれた時から使っているからなんとかなったが、エルフの言葉はどうだろうか。俺はラズエルデが話す通りに絵を見ながら発音する。
「これは杖ですか? いいえ、それは木の棒です」
「これは杖ですか? いいえ、それは木の棒です」
「あのニンゲンは悪魔ですか? いいえ、彼はゴブリンです」
「あのニンゲンは悪魔ですか? いいえ、彼はゴブリンです」
「すいません。氷魔法が暴発してしまいました。-心配するな。頭に氷柱がささっただけだ」
「すいません。氷魔法が暴発してしまいました。-心配するな。頭に氷柱がささっただけだ」
「今度、虫を見にいきませんか? -見ろ、あれを、人がまるでムシケラのようだ」
「今度、虫を見にいきませんか? -見ろ、あれを、人がまるでムシケラのようだ」
…………
変な例文と変な絵が載っている本だな。つっこみどころが満載である。覚えやすくはあるが………
それにしてもこの言語………かなり文法が日本語に似ている気がする。単語や発音は全然違うが、主語が最初に来て、述語が最後に来るところなんかはこの世界の人間の言葉と違って、日本語に近い。これなら単語を覚えれば何とかなりそうな気がする。なんたってまだ6歳だからな。目指せバイリンガルだ。
日本語もそうだが、閉鎖的な民族の言語は他の多数の文法と一線を画すのだろうか。
昼から始めた授業はおやつ時間を挟み、すっかり日が暮れてしまった。
「今日はここまでにしようかの。初回から飛ばしてしまったようだが、よく復習しておいてくれ」
どうやら、今日は終わりのようである。
「今日は夕ご飯も食べていってください。良ければ泊っていってくださってもいいですよ。部屋はあまってますし。なんならお兄様の部屋を使ってもらってもいいですよ」
軽いジョークのつもりで言ったが、ラズエルデの顔が真っ赤になり俺には幻の煙が頭から吹き出ているのが見える。
「な、な、そんなこと……いいのか?」
結構乗り気になってしまったようだ。ここで、だが断るとは言い難い。
メイドには俺が言えば何とかなるだろう。
「ベッドを使うくらいなら全然大丈夫でしょう。あまりお兄様のものに触らないと約束してくれるのであれば、なんとかしましょう」
俺が右手を差し出すと、ラズエルデもその手を掴みしっかりと握手をした。
食事は俺とお母様とラズエルデの三人でテーブルを囲むことになった。
「こちらが今日から家庭教師をしてくださる方ね。ジークをよろしくお願いしますね」
お母様はにっこり微笑んだ。
「いえ。はい。お、お任せください」
ラズエルデは少し緊張しているように感じる。これが第一王妃のオーラか。
テーブルにメイド達が料理を運んでくる。
エルフといっても普通に肉類も食べることができるということで、今日はチーズインハンバーグを出すように伝えておいた。これも俺が開発したことになっているレシピの一つである。
ラズエルデはナイフでハンバーグを切って、フォークを刺そうとする。
「なんじゃ、この白いものは?」
「チーズですよ。このハンバーグに相性ぴったりなんです。是非一緒に食べてみてください」
「うむ。頂くのじゃ………こ、これは、ただの肉ではないのじゃ、うむ、うむ、二種類の肉を混ぜ合わせておるのか、これは豚と牛の肉じゃな。その2つの旨味とこくが互いに引き立て合って味に深みを持たせておるのじゃ。そして極めつけはこのチーズじゃ。2つの肉の溢れ出す肉汁の脂っぽさをマイルドにし、味にまろやかさを加えておる。これはいくらでも入っていってしまうわい………」
「あらあら」
がつがつと食べ始めたのを見てお母様が驚いた声を出してしまう。
「これは失礼したのじゃ。あまりにも美味しかったのもので、つい」
「いえ、いいんですよ。ジークが考案した料理をそこまで美味しそうに食べていただいて、私も嬉しいですよ」
「なんと、これもジークが考えたのか? 恐るべしじゃ、ジーク」
「いえいえ」
考えたというより、前世の知識で知っていたというだけではある。
そして、食事も終わりに近づいてきたので、俺はラズエルデのために動くことにした。
「今日は遅いし先生には泊まっていってもらおうと思うんだけど、いいでしょうか?」
「そうねぇ。夜も暗くなってきたし、こんなに可愛らしい女の子なんだから、夜道は危ないわよねぇ。空いてる客間があるから、いいんじゃないかしら」
ラズエルデは冒険者もやってるくらいだから、夜道でも大丈夫だとは思うが、そんな事を言ってしまってはならない。第一関門はクリアである。次の関門は部屋である。客間ではなく、お兄様の部屋をあてがわねばならぬ。
「それなんですが、僕の隣のお兄様の部屋に泊まっていただきたいんですけど。魔法の≪念話≫の練習をするのに近い方がいいらしいんですよ」
「《念話》じゃと?! そんな魔……」
あっ!! 俺は片目をつむってラズエルデに合図を送る。
「た、確かに、《念話》の魔法の練習には近い方がやりやすいのじゃ」
「あらまあ。そうなのね。夜も魔法の練習に励むなんて、ジークは頑張っているのね。ヨハンも使ってないし、それならいいんじゃないかしら」
よし!! 第二関門クリアしたぞ。
ラズエルデの方を見ると顔を赤くして、俯いてしまっている。
食事が終わり、俺はラズエルデを隣のお兄様の部屋に案内する。
「それにしてもよく思いついたのぅ。≪念話≫なんて私は使えないから、何のことか分からなかったぞ」
「いえいえ。それでも、すぐに意図を読んでくれて良かったですよ。それでは、ここがお兄様の部屋です」
「お、お、おお、ここがヨハンの………」
「あちらのベッドを使ってください」
「う、う、うむなのじゃ」
「では、ゆっくりお休みください」
俺は扉を閉めて、自分の部屋に帰ろうとしたが、中の様子が少し気になったので鍵穴から少し覗いてみることにした。
「おおおおおお、これがヨハンの寝ていた布団か……くんか、くんか。ヨハンを身近に感じるのじゃ」
鍵穴の向こうには変態エルフの姿がそこにあった。俺は見なかったことにして自分の部屋へと戻った………
「次はこれじゃ」
ラズエルデは一冊の本を鞄から取り出した。
「これは?………読めないですね」
中をペラペラめくると見たことがない言語と奇妙な絵が書かれていた。
「エルフ族の言葉じゃ。これを使えるようになれば、エルフが書いた書物が読めるようになるので、使いこなせるようになった方がよいじゃろう。エルフの叡智の結晶を読むことができるのは人族にとって大きなアドバンテージになるじゃろう。ヨハンは私と会った時から、使いこなせておったようじゃからな。お主も今から勉強すれば、立派に使いこなせるようになるじゃろう。それじゃあ、私の後に真似して読んでいくのじゃ」
お兄様は語学も達者なのか。しかし、俺に覚える事ができるだろうか。前世では日本語と英語しか使いこなせていなかったんだが。それも英語は普通くらいだった。こちらの言語は生まれた時から使っているからなんとかなったが、エルフの言葉はどうだろうか。俺はラズエルデが話す通りに絵を見ながら発音する。
「これは杖ですか? いいえ、それは木の棒です」
「これは杖ですか? いいえ、それは木の棒です」
「あのニンゲンは悪魔ですか? いいえ、彼はゴブリンです」
「あのニンゲンは悪魔ですか? いいえ、彼はゴブリンです」
「すいません。氷魔法が暴発してしまいました。-心配するな。頭に氷柱がささっただけだ」
「すいません。氷魔法が暴発してしまいました。-心配するな。頭に氷柱がささっただけだ」
「今度、虫を見にいきませんか? -見ろ、あれを、人がまるでムシケラのようだ」
「今度、虫を見にいきませんか? -見ろ、あれを、人がまるでムシケラのようだ」
…………
変な例文と変な絵が載っている本だな。つっこみどころが満載である。覚えやすくはあるが………
それにしてもこの言語………かなり文法が日本語に似ている気がする。単語や発音は全然違うが、主語が最初に来て、述語が最後に来るところなんかはこの世界の人間の言葉と違って、日本語に近い。これなら単語を覚えれば何とかなりそうな気がする。なんたってまだ6歳だからな。目指せバイリンガルだ。
日本語もそうだが、閉鎖的な民族の言語は他の多数の文法と一線を画すのだろうか。
昼から始めた授業はおやつ時間を挟み、すっかり日が暮れてしまった。
「今日はここまでにしようかの。初回から飛ばしてしまったようだが、よく復習しておいてくれ」
どうやら、今日は終わりのようである。
「今日は夕ご飯も食べていってください。良ければ泊っていってくださってもいいですよ。部屋はあまってますし。なんならお兄様の部屋を使ってもらってもいいですよ」
軽いジョークのつもりで言ったが、ラズエルデの顔が真っ赤になり俺には幻の煙が頭から吹き出ているのが見える。
「な、な、そんなこと……いいのか?」
結構乗り気になってしまったようだ。ここで、だが断るとは言い難い。
メイドには俺が言えば何とかなるだろう。
「ベッドを使うくらいなら全然大丈夫でしょう。あまりお兄様のものに触らないと約束してくれるのであれば、なんとかしましょう」
俺が右手を差し出すと、ラズエルデもその手を掴みしっかりと握手をした。
食事は俺とお母様とラズエルデの三人でテーブルを囲むことになった。
「こちらが今日から家庭教師をしてくださる方ね。ジークをよろしくお願いしますね」
お母様はにっこり微笑んだ。
「いえ。はい。お、お任せください」
ラズエルデは少し緊張しているように感じる。これが第一王妃のオーラか。
テーブルにメイド達が料理を運んでくる。
エルフといっても普通に肉類も食べることができるということで、今日はチーズインハンバーグを出すように伝えておいた。これも俺が開発したことになっているレシピの一つである。
ラズエルデはナイフでハンバーグを切って、フォークを刺そうとする。
「なんじゃ、この白いものは?」
「チーズですよ。このハンバーグに相性ぴったりなんです。是非一緒に食べてみてください」
「うむ。頂くのじゃ………こ、これは、ただの肉ではないのじゃ、うむ、うむ、二種類の肉を混ぜ合わせておるのか、これは豚と牛の肉じゃな。その2つの旨味とこくが互いに引き立て合って味に深みを持たせておるのじゃ。そして極めつけはこのチーズじゃ。2つの肉の溢れ出す肉汁の脂っぽさをマイルドにし、味にまろやかさを加えておる。これはいくらでも入っていってしまうわい………」
「あらあら」
がつがつと食べ始めたのを見てお母様が驚いた声を出してしまう。
「これは失礼したのじゃ。あまりにも美味しかったのもので、つい」
「いえ、いいんですよ。ジークが考案した料理をそこまで美味しそうに食べていただいて、私も嬉しいですよ」
「なんと、これもジークが考えたのか? 恐るべしじゃ、ジーク」
「いえいえ」
考えたというより、前世の知識で知っていたというだけではある。
そして、食事も終わりに近づいてきたので、俺はラズエルデのために動くことにした。
「今日は遅いし先生には泊まっていってもらおうと思うんだけど、いいでしょうか?」
「そうねぇ。夜も暗くなってきたし、こんなに可愛らしい女の子なんだから、夜道は危ないわよねぇ。空いてる客間があるから、いいんじゃないかしら」
ラズエルデは冒険者もやってるくらいだから、夜道でも大丈夫だとは思うが、そんな事を言ってしまってはならない。第一関門はクリアである。次の関門は部屋である。客間ではなく、お兄様の部屋をあてがわねばならぬ。
「それなんですが、僕の隣のお兄様の部屋に泊まっていただきたいんですけど。魔法の≪念話≫の練習をするのに近い方がいいらしいんですよ」
「《念話》じゃと?! そんな魔……」
あっ!! 俺は片目をつむってラズエルデに合図を送る。
「た、確かに、《念話》の魔法の練習には近い方がやりやすいのじゃ」
「あらまあ。そうなのね。夜も魔法の練習に励むなんて、ジークは頑張っているのね。ヨハンも使ってないし、それならいいんじゃないかしら」
よし!! 第二関門クリアしたぞ。
ラズエルデの方を見ると顔を赤くして、俯いてしまっている。
食事が終わり、俺はラズエルデを隣のお兄様の部屋に案内する。
「それにしてもよく思いついたのぅ。≪念話≫なんて私は使えないから、何のことか分からなかったぞ」
「いえいえ。それでも、すぐに意図を読んでくれて良かったですよ。それでは、ここがお兄様の部屋です」
「お、お、おお、ここがヨハンの………」
「あちらのベッドを使ってください」
「う、う、うむなのじゃ」
「では、ゆっくりお休みください」
俺は扉を閉めて、自分の部屋に帰ろうとしたが、中の様子が少し気になったので鍵穴から少し覗いてみることにした。
「おおおおおお、これがヨハンの寝ていた布団か……くんか、くんか。ヨハンを身近に感じるのじゃ」
鍵穴の向こうには変態エルフの姿がそこにあった。俺は見なかったことにして自分の部屋へと戻った………
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