魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

文字の大きさ
12 / 364

12 寝落ち王子のスローライフ

しおりを挟む

 翌日、バイトが終わり約束通り王子を召喚したらやっぱり髪から水が垂れている。

 仕方がないので昨日と同じようにドライヤ―で乾かしてやるが、いつもはこれどうしてるんだ……? 流石に心配になって聞いてみたら、乾くまで放置しているらしい。

 幽閉される前はお付きの人に魔法で乾かしてもらっていたらしいが、今は召喚魔法陣の改良と魔力注入に極振りしているので自分でも出来るけど余計な生活魔法は節約しているとのこと。

 いや、だから努力の方向間違えてるって!


「健康を考えてちゃんとしないならもう召喚しない」


 ――と脅したらしっかり乾かすと真っ青な顔で約束をしてくれた。生活魔法を使うくらいなら召喚には影響を与えないそうだ。だったら最初からちゃんとやれよ……。ってか、それって面倒だからサボっていただけだよね?




 さて。説教も終わったところで今日のおやつは――アイスです。しかも、ちょっとお高い高級アイス。たまたまスーパー寄ったら特売で安かったからこれにした。


「風呂上がりに美味いな」


 そう言って、王子は大喜びで食べている。やっぱ風呂上がりだったのか。髪の毛びしょぬれで、しかもちょっとホカホカしてたもんね。そうだろうと思って今日はアイスにしたのだ。

 ちなみにおやつに高級アイスを食べるのは初めてではないそうだ。全自動召喚のとき、鈴木さん家で勝手に食べて怒られたって。いや、小学生か。ってか、どれだけ迷惑かけてんだ……。

 そんな王子は今ではきちんとしつけが入った状態なので、今日はちゃんと、2種類あるうちどっちを食べていいのか私に聞いてから食べていた。鈴木さんの苦労が偲ばれる。

 まあ、私はどっちでもいいので、というか王子の好みがまるで分らないから適当にチョコとバニラにしただけなので、本人に選ばせた。チョコバナナでハマったのか、王子は迷わずチョコレートアイスを選んでいた。

 そして、体が冷えてもいけないので温かいノンカフェインの紅茶を飲みながらのスローライフ。を横目に見ながらの読書タイムスタート。

 遊び方は昨日に引き続き釣り。農作業は最低限。王子曰く、いつもと違う時間帯の召喚はいつもとは違う遊び方をしたいらしい。今日はあちこち釣り場所を変えて夜釣りを楽しんでいた。

 そして、相変わらずいつの間にやら寝落ちする。

 その様子を見て。この王子は割と規則正しい生活をしているんだなあ、と感心した。そりゃあそうか。塔に幽閉されて、毎日同じような生活を送っていたらそうなるに違いない。

 夏休みだからって段々と夜型生活にずれ込んでいく自分とは大違いだ。まあ、それでも早朝バイトをやっている分、起きる時間は変わらないので幾分マシだけど。

 塔に幽閉され、毎日同じような生活をしている王子にとって、このゲームをしている時間はよほど大事なんだろうな、と思うと色々な経験をさせてあげたくなってくる。
 が、この状態では今日はもう無理だろう。

 昨日に引き続き帰るようにと促すが、やはり抵抗する。と、いうか昨日より抵抗が頑なだ。まあ、仕方ないかな。

 実は、明日は王子側の都合で召喚はナシ。これは前から聞いていたことで、年に数回、例の魅了の治療状態の確認のために色々検査をされるのだそうだ。

 魅了って闇が深いなあ……。


「明日、検査あるんでしょ? 早く帰って寝ないと」

「もう少し……キリがいいとこまで。もう少しだけ遊んでか……ら」


 テスト前の学生か! あれだ。マンガ読んだりゲームしたりの現実逃避。でもまあ、やりたくないことやらなくちゃいけないって意味では同じかな。

 何とか説得しないと。

 とはいえ、あんまりもう召喚しないぞって脅すのも良くない気がする。傷つけそうだし効果が薄れそうだし。何より本日二回目だ。

 鞭がダメなら飴だよな。ってことで。


「明後日来るとき、好きなおやつ用意しておいてあげるから。ほらリクエストは? 何がいいの?」

「コーラとポテトチップス……」

「分かった。チョコレートもつけるから」


 ……と、言ったらご機嫌で帰って行きました。
 ちなみに。

 この日は土曜日。日曜を挟んで月曜日に呼び出すとき、チョコレートのかかったポテトチップスを用意しておいたらそうじゃないと微妙な反応が返ってきた。


 あれー? これ美味しいのにな。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

幸せを望まなかった彼女が、最後に手に入れたのは?

みん
恋愛
1人暮らしをしている秘密の多い訳ありヒロインを、イケメンな騎士が、そのヒロインの心を解かしながらジワジワと攻めて囲っていく─みたいな話です。 ❋誤字脱字には気を付けてはいますが、あると思います。すみません。 ❋独自設定あります。 ❋他視点の話もあります。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...