魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

文字の大きさ
13 / 364

13 王子の居ぬ間に

しおりを挟む
 時はちょっとだけ戻って日曜日。二日連続の夜召喚をした翌日のこと。

 今日はバイトもないし、王子を召喚しなくていいので、私は久しぶりに実家へと帰ることにした。

 大学入学後一人暮らしを始めたが、バイトや勉強で忙しく、実家に帰るのはゴールデンウィーク以来初めてだ。たまには帰ってきなさいと言われていたが、ゴールデンウィークの帰省後しばらくして例の魔法陣ラグを手に入れてしまい、王子を召喚することになってからはずっと後回しにしていた。

 今日は時間を気にせず実家にいられるし、日曜日だからきっと社会人の兄達もいるはずだから丁度いい。

 私は4人兄妹の末っ子で、上には兄が3人。一番上とは10歳離れているし、私は唯一の妹なので割と可愛がってもらっていると思う。

 私がゲームをやるようになったのは4歳年上の兄の影響だ。歳が一番近いから、その3番目の兄に遊んでもらうことが多かった。その兄がゲーム好きだったので、自然と私もやるようになったのだ。一番話も合うと思う。

 我が家は家族仲が良く、居心地がいいのか社会人になっても長男も次男も家を出なかった。勉強を見てもらえるし、遊んでもらえる私はそれでよかったが、このままじゃ将来お嫁さんこないかも……と心配をした母親が、一度は一人暮らしをしなさいと、上の二人を追い出した。三男から後は大学進学と共に一人暮らし経験をさせることに決め、今に至る。

 ちなみに。長男は一人暮らしに慣れたのか、実家近くのアパートに住んでいるが、次男は2~3年ほどで家賃が無駄だからと実家に戻った。私と仲良しの3番目の兄も大学卒業後私と入れ違いに実家へと戻った。長男も夕飯は実家で食べているらしいし、実家大好きなのは変わらないらしい。
 親も一人暮らし経験をさせるという当初の目的は果たしたからそれでいいようだ。

 私が実家に帰ると両親は喜んで、揃って車で買い物へと出掛けて行った。夕飯はご馳走にするそうだ。その材料を買いに行ったらしい。ちょっと考えていたことがある私はとりあえず自分の部屋へと行ったのだが。

 見事に物置になっていた。

 まあ、実家を出た子供の部屋なんてこうなるか……とも思うが、置いてあるのは3番目の兄の物ばかり。それで、察する。

 これ、あれだ。大学卒業と共に実家に戻ったから、片付けていない荷物をとりあえず入れ違いに出てった私の部屋に突っ込んだんだ。ゴールデンウィークは初めての帰省ということもあり、お出かけばっかりしていて部屋には入らなかったから気が付かなかった。

 今日は日曜日。ゲームで夜更かししたであろう3番目の兄はまだ寝ている筈だ。叩き起こして文句を言ってやろうかと思ったが、部屋に入ってすぐのところで私はお宝を発見してしまう。

 数年前に私が買えなかったスポーツメーカーの福袋。

 男物の福袋の方が中身が好みで、Sサイズを買いたかったのだが売り切れで手に入らなかったヤツ。それが、中身が入ったままで置いてある。

 兄の物だからLLサイズでかなり大きいが、使っていないようだしコレは欲しい。ってか、他にもないかなと思って荷物をゴソゴソしていたら3番目の兄が起きてきた。


「お早う、お兄ちゃん。これ頂戴!」

「いや、何で居るんだよ……。ってか一声目がそれか。お早う」


 兄によると、好みだったから買ったはいいけど着てみたら入らなかったらしい。ゲームもそうだけど、この兄とはかなり好みが近いのだ。身長体重はかなり違うけど。

 家族の中で一番大きいこの兄は上もでかいけど横にも少しでかい。……ってか、また太ったな。だから入らなかったのか。


「あげてもいいけどサイズ違うだろ。あっ! もしかして彼氏でもできたのか!?」

「……」


 スン……とした顔になる私。そういう人を傷つける冗談はよろしくないと思う。


「ま……まあ、あれだ。女の子っていうのはダボっとした感じで大きめをあえて着たりもするからな。よくあるよくある」


 表情から何かを察した兄が慌ててフォローを入れてくるが。


「……その女の子はちゃんと3次元?」


 私の言葉に、スン……とした顔になる兄。ふふん。兄妹ですからね。同類なのは分かってる。


「なんだ、なんだ。久しぶりなのに相変わらず仲良しだなー。同じ顔してる」

「「……」」


 騒いでいたら2番目の兄まで起きてきた。


「ま~突っ立ってないでいつも通りゲームで勝負すりゃいいんじゃないか?」



 それもそうかと3番目の兄の部屋へ行きゲームを起動。懐かしのレースゲームで勝負をするが……。


「相変わらず真っ向勝負で、アイテムの使い方ド下手だな~」

「うるさいな」


 ガチゲーマーの兄に勝てるはずもなく散々ボロ負けを繰り返す。これ、どうやったら勝てるのか……昔っから苦手なんだよな。レース系。恥を忍んで勝利へのアドバイスを求めれば。


「このゲーム知らない奴とやれば勝てるんじゃないか?」


 と、それなりに役にたつアドバイスをいただけた。思い浮かんだのは当然王子だ。

 そうだ、ゲーム初心者であろう彼相手なら勝てるかもしれない……!!

 福袋の方はやっぱり痩せたら着るだ、無理だ、色々あったが、取りあえず一緒にゲームをしていたら仲直りしたので最後は快く譲ってくれた。ありがたし!!


 その日は結局泊って帰ることになった。長男も夕飯を食べに来たから久しぶりの家族全員集合になった。久しぶりの実家だけど、自分の部屋は3番目の兄のせいで段ボールだらけだけど、やっぱり人がいるのは落ち着くな、と思った。

 そして思う。


 一人で幽閉されている王子は今、何をしているんだろうか……。


 ――で、思い出した。

 最近、帰るのをごねだした王子。飴を追加する意味で、古い、今は使っていない携帯ゲーム機を貸してあげるために取りに来たんだった。1人きりの生活でも、ゲームがあれば寂しくないよね。私がそうだから。

 最新ゲーム機種は使っているから渡せないけど、古いのでもソフトは結構あるし、充電さえしておけば動くから王子に貸すにはちょうどいいと思う。

 何となく、好きそうなソフトを選別していたら、早く渡したくなってきた。喜んでくれるかな?


 とりあえず3番目の兄からもらったギャルゲーは入れておいた。
 こういうの鈴木さん家でやっていたみたいだし、きっと喜ぶよね!




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされ、谷に落ちた女は聖獣の血を引く

基本二度寝
恋愛
「不憫に思って平民のお前を召し上げてやったのにな!」 王太子は女を突き飛ばした。 「その恩も忘れて、お前は何をした!」 突き飛ばされた女を、王太子の護衛の男が走り寄り支える。 その姿に王太子は更に苛立った。 「貴様との婚約は破棄する!私に魅了の力を使って城に召し上げさせたこと、私と婚約させたこと、貴様の好き勝手になどさせるか!」 「ソル…?」 「平民がっ馴れ馴れしく私の愛称を呼ぶなっ!」 王太子の怒声にはらはらと女は涙をこぼした。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

悪役令嬢は高らかに笑う。

アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。 エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。 たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。 男爵令嬢に教えてもらった。 この世界は乙女ゲームの世界みたい。 なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。(話し方など)

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【完結】深く青く消えゆく

ここ
恋愛
ミッシェルは騎士を目指している。魔法が得意なため、魔法騎士が第一希望だ。日々父親に男らしくあれ、と鍛えられている。ミッシェルは真っ青な長い髪をしていて、顔立ちはかなり可愛らしい。背も高くない。そのことをからかわれることもある。そういうときは親友レオが助けてくれる。ミッシェルは親友の彼が大好きだ。

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?!  ※少しだけ内容を変更いたしました!! ※他サイト様でも掲載始めました!

処理中です...