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14 ジャージ王子と初対戦
しおりを挟む時は戻って再び月曜日。
呼び出しに使ったチョコレートがけのポテトチップスは反応が微妙だったので普通のポテトチップスを追加してあげたら喜んで食べている。
なるほど。王子はスタンダードな味が好みらしい。
大好きなコーラとポテトチップスを食べながら、いつも通りにゲームをセットしてスローライフを楽しんでいる……筈なんだけど。
何か見ていて堅っ苦しく見えるのは何故だろう?
ここのところ随分くだけたなーと思っていたのが退化したというか……。そんな風に思い観察していて気が付いた。
服装だ。一昨日と、その前と、夜の召喚が続いたものだからパジャマ王子を見慣れてしまったのだ。対して、今は『THE王子』と言わんばかりのジャラジャラと色々付いた正装。しかも白を基調としていて、なんか浮世離れしている感半端ない。
そりゃあリラックスして見えないわ。
そう言えば、高校の頃は電車通学だったからよく遊びに行く友達の家に私服置かせてもらってたっけ。寄り道禁止だったから学校にバレないようにとの苦肉の策で。
いちいち着替えるのは面倒だけど、やっぱり私服だとリラックスできた。ほら、家から出ないにしても制服のままだと汚すのとか皺になるのとか気になるし。友達と一緒にゲームしたいい思い出がよみがえる。
ああ、勿論女の子ですよ。私の家にも友達の着替え置いてたしね。
そう考えると着替えの1つでもあった方がいいのかな? とは言え、王子が着られそうな服なんて……で思い出す。
あった。昨日お兄ちゃんから貰った福袋。トレーナーはバッチリいい感じに好みだったんだけど、一番欲しかったジャージ上下はかなり大きくて私には無理だった。あと、Tシャツは首回りが開いているから屈むと隙間から色々見える。
まあ、仕方ないよね。3番目のお兄ちゃんは180センチ近くあるうえ横にも広いし、私は155センチあるかないか。……ないな。くそう。もう少し身長あったら自分で着られたのに。
ま、とりあえずないものを嘆いても仕方ないしあるモノは利用しようということで。
「おーピッタリピッタリ。広告みたい」
王子にジャージ上下を着せてみたら丁度良かった。冬はこれでいくとして、今は夏だしTシャツとジャージ下で丁度いいよね。メーカー品だけあって質がいいから、元がいい王子にもよく似合う。こうしてみると身長結構あるんだなー。いつもは座ってゲームしているから気が付かなかった。
突然着替えさせられた王子は戸惑っているようだ。新しく着せられた服をやたら気にしている。
「これ……もしかして鈴木さんの? 連絡をとっているのか?」
「は? なんで鈴木さん?」
思わぬところで名前が出てきた。気になって聞いてみれば、鈴木さんも家で同じようなジャージを着ていたとのこと。なるほど。
まあ、福袋だしあちこちで売っていたし、それでも売り切れちゃうほど人気だったからね。
それを説明すると何故かホッとしているようだった。王子様だから、お古が嫌だったのかもしれない。試着はしたけど新品だから安心してほしい。
「使ってないのを実家のお兄ちゃんに貰ったの。自分で着ようと思ったんだけど、流石に大きすぎたから。でも、王子にはちょうど良さそうね」
「そうか。兄がいるのか。うん、なかなか落ち着く。身軽でいいな、コレ」
結構着心地はよかったみたい。気に入ってもらえたようでなによりです。
召喚時に着ていたジャラジャラ服はハンガーへ。うわ、重っ。こんなに重いのを着ていたのか。
物理的に軽くなったせいか、王子はご機嫌の様子。
よし、アレを誘うなら油断している今がチャンスかもしれない。昼間だから多少騒いだところで問題ないし、油断してるし、実家の兄に必勝法を聞いてきたばかりだし。
「ねえ、対戦ゲームやろうよ」
「ん? ああ、別にいいけど。うるさくして怒られないか?」
「うん。昼間だし多少は大丈夫。レースゲームでいいよね」
ふっふっふ。昨日お兄ちゃんに負けまくったせいでストレスたまってるんだよね。
でも、大丈夫。ガチゲーマーであるお兄ちゃんからのありがたいアドバイス。
『このゲーム知らない奴とやれば勝てるんじゃないか?』
活用させていただきます!!
「……」
「……」
結論から言えばボロ負けだった。鈴木さん家で結構対戦ゲームはやったらしい。鈴木さんのプレイ見て覚えたんだって。あの人お兄ちゃんに負けず劣らずのガチゲーマーだな。
――で、鈴木さんに初めて勝った時に奇声を発して隣室の人に怒られた……と。ああ、そりゃあ奇声も発したくなるわな。私だってお兄ちゃんに勝ったら
いよっしゃあああああ!!!
って叫びたくなるもん。勝ったことないけど。
うん。これは勝てないね。
キッパリ諦めて対戦ゲームは封印をすることにした。
はあ……ゲーム初心者の異世界の王子に負けるとか。お兄ちゃんには言えないな。
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