魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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36 召喚主と鈴木さん

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「いらっしゃいませ……あれ、鈴木さん!?」

 早朝。外はまだ暗く、お客さんもあまりいない時間。スーツ姿の見覚えのあるお客さんに驚いた。

 どうやら、昨日は残業で私からのメールに気が付かなかったことをわざわざ伝えに来てくれたらしい。こんな朝早くから逆に申し訳なく思ってしまう。


「あ、いや。これから帰るところだったから。朝食でも買おうと思って、そのついで。……何にしようかな」

「あ、じゃあコーヒーとかいかがですか? 今キャンペーン中でして、こちらのパンとセットで買うとお得ですよ。あっ、でも帰ってから寝るんじゃコーヒーは駄目か」

「あ、いや。会社で仮眠は取れたから。帰ったら久々に思う存分ゲームをやるつもりなんだ。だからちょうどいい」

「ゲーム……あ、じゃあ、コーラとポテトチップスもついでにいかがですか? 新フレーバーが出てますよ。なーんて」

「あはは、いいね。アイツのこと思い出しちゃったし、食べたくなりそうだから買っていくよ。帰ったら出かけるのも作るのも面倒くさいし、昼飯もついでに買っていこうかな。どれにしよう?」

「あ、こちら新商品で人気です。スプーンだからゲームしながら食べられるかも」

「いいね」


 その他、飲み物やらおでこに貼る冷却シートやら色々買い込んで鈴木さんは笑顔で帰って行った。ガチでやりこむつもりだな。


「知り合い?」

「あ、店長! ハイ。あの、すいません。なんか朝食買いに来てくれたみたいで」


 店の前を掃除していた店長が戻ってきた。仕事中に話したりしてまずかったかな、そう思ったんだけど。


「ああ、いや知り合いみたいなのに、メッチャ新商品お勧めしているから感心しただけ。その調子で!!」


 よく分からないが褒められた。この日を境に、鈴木さんはちょくちょく、買いに来てくれるようになる。




「昨日は鈴木さんにメールしたのか? 返事は?」

「え? うん。したよ。返事は来てないけど」


 その日の午後。召喚そうそう王子の様子が変だった。昨日もそうだけど、なんかやたら鈴木さんを気にしている。

 これは、もしかして……。


「鈴木さんとこに戻りたいの!?」

「は!? 違う! なんでそうなるんだ」


 なんだ違うのか。良かった。安心した。久々に名前を聞いて里心でもついたのかと思った。
 ん? なんで私、安心してんだ? あ、そうか。


「……ウチの待遇に不満があって、鈴木さんの家の方が良かったのかもと「それはない」」


 かぶせ気味の即答ですか。まあ、ペット用の自動給餌器で召喚されるよりはウチの方がマシか。

 でも、仕方ないよね。鈴木さんあんな早朝に退社するぐらいの大忙しの会社員だもん。むしろ、よく召喚を続けられていたものだと感心してしまう。


「そうじゃなくて……その、今まで連絡なんて取っていなかったのに、どうして急に……と」

「ああ、なんだ。そんなこと?」


 確かに鈴木さんとはフリマでラグを購入してからずっと連絡していなかった。連絡先を教えてもらったけど、特に用事もなかったし。ただ……。


「王子が突然目の前で消えた後、召喚できなくなっちゃったじゃない? ずっと心配していたんだけど、偶然バイト先に鈴木さんが買い物に来たの。ちょうどいいから相談にのってもらって、その時にメールアドレス交換したんだけど……ああ、そういえばあの日以来、メールするの初めてかも」

「そうか! 僕の心配をしていたのか。しかもメールの返事も来てないんだな!」

「うん。直接会ったから」

「え」


 バイト中に来てくれたことを伝えると、ああなんだ、とホッとしていた。どうしたのか。召喚が久しぶり過ぎて、なんとなく落ち着かないのかもしれない。

 そういう時には大好物で落ち着かせるに限る。


「これ。新フレーバーのポテトチップス」

「おお、コレもうまそうだ!」


 パリパリパリパリ。


「でしょー。鈴木さんにもお勧めしたの」

 パリ……。


 何か王子が固まった。数秒したら動き出したけど。
 何なんだろういったい。




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