魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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47 先輩と私。~所属サークルのお手伝い~

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 大学も二年生となり、受講する講義も決まって、ようやく生活サイクルも落ち着いた。

 一限にいくつか必修が入っていたので早朝バイトを続けるのは厳しいかと思っていたが、有難いことにシフトの方を調整してもらえたので、特に問題なく続けていけそうだ。

 そうして今日も早朝バイトの後、午前中の講義を受けて午後に向けて英気を養うために学食へと向かっていたのだが――。


「おおーい、ルカ!」


 移動する途中で、誰かに声をかけられた。一瞬、聞き逃しそうになったが、聞き覚えのある声だ。あまりに周囲に自然に溶け込んでいるから見逃しそうになるものの、黒いローブを羽織ったその姿は本来、目立っていてしかるべきだと思う。

 呼ばれるまま声の方に近づけば満面の笑みを浮かべた優等生然とした男がいた。相変わらず品の良い眼鏡が良く似合う。所属するサークルの先輩だ。

 まあ、所属しているとはいっても、私はほぼ幽霊だけど。


「お久しぶりです先輩。午前中から大学に来ているの珍しいですね」

「新入生勧誘の時期だからな。しっかり仲間を集めないとサークルが消滅してしまう」


 そう言った先輩の手にはたくさんのチラシがある。話しながらも配っているが、あまり受け取ってもらえないようだ。


「今年はサークル存続できそうですか?」

「……人数的にギリギリだな。そろそろ引退する奴でてくるし、もう少し余裕を持たせたいところだ」


 そう言うと先輩は深くため息をついた。


 彼の所属するサークル――オカルト研究会は活動維持の最低人数ギリギリらしい。そのため私も大学入学直後から人数合わせのためにサークルへの入会を頼まれたのだ。



 彼とは高校時代からの知り合いだった。学年が違うが同じ図書委員で、顔くらいは知っていた。

 用事があって遅くまで高校に残っていた時に、図書室に取り残されている彼をたまたま私が見つけたのだ。カーテンの隙間から図書室に人が残っているのに気が付いてびっくりした。幽霊かと思った。

 本に夢中になりすぎて、出入り口が施錠されたのにまったく気が付かなかったそうだ。私が窓の外から声をかけるまで、彼は薄暗い中読書に没頭していた。

 凄い集中力だと思う。あと、見回りの先生に気が付かれないとか存在感がなさすぎる。

 まあ、そんなことがあって顔を合わせれば話くらいするようになって、先輩が高校を卒業したあとは思い出すこともなかったのだが。

 大学で偶然再会して――今に至る。

 なんとなく王子召喚のアレコレで完全に友達をつくるタイミングを逸してしまったので履修相談もできる貴重な話し相手ではあるが、考えてみれば会うのは半年ぶりぐらいな気がする。

 大学祭でサークルに差し入れを持って行ったのは覚えているんだけど、その後王子を召喚できなくなっちゃったりの色々で、あまり気にしている余裕がなかった。正直、その辺の時期のことは記憶があやふやだ。

 サークル入会を頼まれた入学当初はそれなりに話していたが、いつの間にか見かけなくなったので話す機会もほぼなかったし。

 どちらかというと朝型な私に対し、完全に夜型の先輩は遅めの講義を取っていることが多く、そもそもの生活時間帯が違うのだ。


 とりあえず予定通り昼食を摂りたい私が適当に挨拶をして学食へ向かうと先輩も付いてきた。別に嫌っているわけではないので一緒に食べる分には何の問題もない。むしろ久しぶりに人と食べるので楽しいと思う。

 学生食堂は食券式のセルフサービスだ。とりあえず空いている席を確保してからメニューを決めることにした。




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