魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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48 先輩と私。~所属サークルのお手伝い~2

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「なあ、ルカ。サークルに新入生があまり来ないのだが何がいけないのだろう? 少しアドバイスをしてもらえないか?」


 数あるメニューの中からうどんを選び、受け取って席へと戻ると先輩が既に座っていた。

 先輩の前にはあれこれセットになったトレイがある。先輩は日替わりランチにしたようだ。今日のおかずは天プラらしい。

 日替わりランチは値段の割にお得で大人気だが、私としては量が多くて完食するのが難しい。芋天は羨ましいが、今日も王子とおやつを食べる以上、軽めに済ませた方がいいだろう。


 うん。うどんで正解。


 そんなことを真剣に考えていたら、真面目そうな顔で答えを待っている先輩と目が合った。眼鏡が似合うな……じゃなくて、なんか聞かれたんだった。

 えーと。なんだっけ。そうだ。新入生の勧誘がうまくいっていないとかなんとか。

 オカルト研究会に所属する人の目的は人それぞれだ。占いが好きな者。幽霊・怪談が好きな者。先輩の興味は悪魔だったか。そういったオカルト趣味の者が集まったサークルだと聞いている。


 昔は魔法陣に傾倒した者が、異世界から人を呼び出すのに成功した――とか、悪魔召喚に成功した――とか、何とか。都市伝説レベルの噂を聞いたことがある。


 まあ、眉唾だが、王子のことを考えればそんなことがあっても不思議はない。何にしても、怖いもの好きオカルト好きはいつの時代もいるものなので、頑張ればいけそうな気はするんだけど。何が問題かといえば。

 目の前の先輩は、ごく自然に着こなしていて違和感はないが、食事中の今も黒いローブを着たままだ。うん……これかな……。

 先輩一人なら違和感はないが、午後はサークルの手の空いたもの全員でこれを着て勧誘しているらしいからソレは流石に目立つだろう。悪い意味で。


「ユニフォーム代わりのそのローブがいかがわしさを感じさせる――とか?」


 そう言ったらこれは歴代の先輩から引き継いだ伝統で――とか、サークルとしてのアイデンティティーが――とか言って目に見えて落ち込みだした。

 サークル入会の際に渡されるそのローブ。先輩の先輩から引き継いだローブを元に、仲間が増えるたび、先輩自らが制作をしているらしい。え。すごい。


「ま、まあ、私は嫌いじゃないですけど。貰ったやつ大事にしてますよ」

「!! そうだろう、そうだろう。なんてったって、お前のは裏の刺繍まで俺が完全に再現した特別製だからな」


 なんと。私が貰ったローブには裏に繊細な魔法陣の刺繍が入っているのだが、どうやらそれも先輩のお手製らしい。そのローブは質もいいし、渡された時は一目見て気に入った。

 先輩みたいに着て歩く勇気はないけれど、これを着てゲームをやったらさぞかし気分が盛り上がるに違いない――と思ったものだ。

 尊敬の眼差しで見ていたら、先輩の機嫌も治ったようで。


「ついでに午後の授業が終わったら勧誘を手伝ってくれたりするとありがたいのだが……」

「え。嫌です。おやつの時間までに家に帰りたいし」

「なんだよ、その理由。腹ペコかよ」


 呆れた顔の先輩。でも、言いながらもそっと芋天を私のうどんに載せてくれた。あ、ラッキー。気が変わらないうちに即食べる私。


「ちょっとでいいんだけど」


 先輩は諦めてないようだが、今日は無理だ、用事がある、とだけ伝えた。

 仕方がないよね。異世界から王子を召喚しているとも言えないし。変に魔法陣に興味を持たれても面倒くさい。
 そして王子と約束をしている以上、時間に遅れるのも困る。


「じゃあ、明日は? 頼むよ、一人でも多く確保しておきたいんだ。でないといつまでもお前に頼ることに……」

「……まあ、明日なら大丈夫、かな?」


 明後日はバイトがないし、今日王子を呼び出すときに、明日の召喚は夜にずらしてもらえばいいだろう。何より、頼まれてのこととはいえ、いつまでも幽霊部員でいるのも気が引ける。


「助かる! まずは部室のアドバイスをもらいたい。何故か、せっかく見学に来てくれたのに一目見て帰っちゃう子がいるんだよ」

「……とりあえず、悪魔っぽいインテリアはどうにかした方がいいと思います。夜な夜なサバトでも始めそうな巨大な禍々しい油絵とか中二耐性ないと引きますよ。もうちょい、パワーストーンだの水晶だのキレイめな方面で押した方がいいです」

「あれ美術部のやつに自腹で依頼して気に入ってたんだけどなあ……。うん。でも参考になる。とりあえず一度部室に来てくれ。今度お礼に有名店のケーキでも奢るから」

「あ、じゃあ、おやつの時間には帰りたいので持ち帰りで。あと、二人前お願いします」

「お前、そんなに腹ペコか!!」


 よく分からないが芋天二個目をゲットした。


 結局翌日に部室を訪ね、その場で大幅な模様替えをやる羽目になった。陰鬱な印象は取り去って、占い好きの子なんかも興味が持てそうな感じにした。

 とはいえ看板に偽り有りなのもどうかと思うので、端の方にはちゃんと先輩こだわりの髑髏満載のいかがわしさ漂うコーナーも作る。

 興味がある人はこのくらいでもしっかりとロックオンするだろう。あと、私もこういう系の嫌いじゃないのでちょっとした遊び心、みたいな?

 ほら。魔法陣ラグとか買っちゃうくらいだし……。これ系の物にはどことなくカッコよさも感じてしまう。

 僅かとはいえ禍々しさが残せたからか先輩も満足してくれたようだ。

 部室のイメチェンのお陰か、その後数日手伝った声掛けのおかげか、無事に新入生も勧誘できた。

 そして後日。私は約束通り有名店のケーキをゲットした。しっかりと二人前。

 なぜか先輩からは食欲キャラ扱いされたが今さらだからまあいいや。

 新入部員も入ったし、もう私の役目は終わったかなって思ったんだけど、先輩からは引き続きサークルには在籍しておいてほしいと頼まれた。まあ、何だかんだ楽しかったし会費とかないから別にいいけど。

 たまには部室に遊びに来いと言われたが、そもそも幽霊でいいという約束だし、しばらくは行く必要もないだろう。


 とりあえず役には立ったしケーキは正当なる報酬なので、その日のおやつに王子と食べた。美味しかった。





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