魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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62 初めての共同作業(王子視点)

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 アツアツのたい焼きは美味かった。舌が火傷しそうなほどに熱いのにそれをハフハフと冷ましながら食べるこの感覚は面白い。

 舌に張り付く甘いあんこを温かいお茶で流し込む。

 緑茶が合いそうだが、残念ながら今日はノンカフェインの紅茶。でも、コレはコレで合うな! お茶が進む。

 ゴクゴクゴク。


 ……じゃなくて。

 なんか、よく分からないが召喚主は寝坊したことしか気にしていないようだ。それはそれで複雑ではあるが……。

 とりあえずは怒ってもいないし、変な空気にならなくて良かった。僕が寝ぼけたのが全ての元凶だ。睡眠さえ足りていれば、もう少し寝起きはいいはずなんだ。

 あんなことにならないように、これからはより一層気をつけよう。

 そう。今まで以上に規則正しい生活を送るのだ。早寝、早起き。コレが大事。そのためにも長時間の昼寝は避けなければならない。そうなると、3D酔い対策が必須となってくる。

 現状どうしても酔ってしまうのならば、効率的なゲームの仕方を考えなければ……!


 とりあえずゲームを起動して、僕が作りあげた『幽閉中の塔』へと入った。

 我ながらよくできている。

 出入り口のカギまでは再現できなかったが、割とリアルだ。こうしていると、昨日の落ち着きのない気持ちまでもがよみがえってくるくらい。

 塔の僕の部屋には一応窓がある。それもリアルに再現させてある。空気の入れ替えを出来るのはいいけれど、城からはかなり離れていて、方向も違うので窓から見えるのは木々ばかり。それがよりいっそう孤独を感じさせてくる。そんなとこまでそっくりだ。
 それを見て思う。


 せっかくだから、隣に召喚主でも住んでいたらいいのに。


 ――で、思った。

 ゲーム内ならそんなことだってできるじゃないか――と。




「あれ? コレって、もしかしてうちのアパート……?」

「! 分かるか!?」

 早速、夢中になってアパート建設を続けていると、僕の後ろで建築作業を眺めていた召喚主がすぐに気が付いた。

 そうだろう、そうだろう。自慢じゃないが伊達に毎日召喚されてきているわけじゃない。最近は外へも出ているし、しっかりと外からアパートを見ているのでかなりリアルに再現をしているつもりだ。

 しかも、ちゃんと僕の部屋(ゲーム内)の窓から全体像が見える位置に建設をしているので仕上がりを上からも確認できる。ああ、完璧だ。早く仕上げたい。……とは思うものの。

「……酔いそう…………かも」


 40分くらい遊んだところで例のアレが来た。とりあえずコントローラーを手放して目を休める。


 やはり、現状一時間くらいが僕の限界のようだ。これ以上続けたら昨日のような状態になるだろうことは考えなくても分かる。危険を避けるならここでやめた方がいい。
 でも――。


 もっとやりたい!
 早く完成させたい!!


 いや! だが!! しかし……!!!



「ね……、ねえ。私もちょっとやってみていいかな……?」

 いつの間にか僕の隣に移動し、興味深げに作業を見ていた召喚主がそんな事を言い出した。

「あのね、せっかくだからアパートのお風呂を広くしたいのよ。あ、この辺に花壇も欲しいな。きっと塔から見えるわよ。お野菜とかも植えちゃおうか。家庭菜園なんかもいいわよね」

「!!! いいな!」


 どうやら見ているうちに自分でも手を加えてみたくなったらしい。コツコツと風呂場を改造しながらもアパートを完成に近づけていく。流石は住人。自分好みの風呂場を手に入れつつも、外観はそのままだ。

 3D酔いをさましながらも時折それを確認していたら、30分くらいたったところで召喚主がギブアップした。

 どうやら、今度は召喚主が3D酔いをしたらしい。

 どうやら僕は上限一時間。召喚主は一時間半ほどで限界点がくるらしい。


 早く完成させたい。
 せっかくだからココはこうしたい。
 でも、3D酔いはしたくない。

 そんなことを二人で話しながら休憩していたら。


「あ、じゃあ、交互にやって、酔う前に交代すれば効率いいんじゃない?」

「それだ!!」


 こうして――僕と、召喚主の初めての共同建設作業が始まった。




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